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元記者・酒井麻里子の医学生日記

医療・健康・介護のコラム

高熱にうかされて 来し方行く末を考えました

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高熱にうかされて 来し方行く末を考えました

「社会人経験を経て医学生となった自身の歩みを話しました」(医療ガバナンス研究所提供)

 暦の上ではもう春なのに、まだまだ出雲は寒いです。寒さのせいなのか、試験が終わったことの 安堵あんど 感からか、1月下旬から2度も風邪を引き、一日中、布団の中で過ごすことがありました。

 ふと、つけたテレビの向こうで、かつて一緒に仕事をしていたテレビ局の記者がリポートしていました。退社していなかったら、この記者のように取材を続けていたのだろう。高熱でぼんやりした頭で考えていました。

 入学からもう2年近く つのに、まだ自分が島根で勉強していることが不思議だと感じることも少なくありません。

 昨年秋、東京を訪ねた時もそうでした。在職中に取材でお会いしたNPO法人「医療ガバナンス研究所」理事長の 上昌広かみまさひろ 先生からのお声かけで、「現場からの医療改革推進協議会 第11回シンポジウム」に参加させていただきました。

 シンポジウムは2日にわたり、「高額医療」や「地域医療」「震災」「専門医制度」など医療の世界で話題になっているテーマごとに、医師や大学教授、政治家などさまざまな立場から意見交換する内容でした。

 私は「教育」をテーマにした分科会で、社会人を経て医学部に入学したことを話すことになっていました。

 以前このコラムでも書きましたが、働いていたからこそ、努力が結果に直結する日々をとても 贅沢ぜいたく に感じることや、診察室を出た後の患者さんや家族の様子にも思いをはせながら仕事をしたいと思っていることなどを紹介しました。

 会場の東京大学のホールに集まった方々を前に話しているうち、もし会社を辞めていなかったら、この場所には取材する側で訪れていただろう。そう思うと、とても不思議な感覚になったのです。

 話し終えると、医療者だけではなく、さまざまな立場の方に「応援します」と励ましの声をかけていただきました。まだ何事もなしえていない途上にあり、シンポジウムで自分自身について話すことに恐縮する思いもありましたが、新聞記者時代とは違う立場でいろいろな人と知り合うことができました。

 そして、自分自身について語ることで、初心を思い起こし、今の立ち位置を見つめる良い機会となりました。

 これからあと2年、大学で勉強をして、卒業後にはどこでどんなキャリアを歩んでいこうか。

 遅くスタートした分、考えることは多いです。特に文系の編入生はそうなのではないかと思いますが、自分と同じような経歴を持っている人は少なく、また、編入を決めたタイミングも人それぞれです。男性と女性とではまた違ってきます。

 不安もあるけれど、今のところは、これからの過程を楽しみ、自分が納得できる道を探していこう。

 熱も下がり始め、そんなことを考え始めていました。

 それどころか、ゆっくり休養したおかげで返って元気になり、ベッドの中で、これから始まる病院実習での勉強方法や目標などをあれこれと考え、いろいろとアイデアも思いつき、エネルギーがどんどん湧いてきました。

 何もせず、ただぼんやりすることが苦手な私にとって、風邪を引くことで得た2度の休息は、これからを過ごす上で大切な時間となりました。

 かといって、さすがに3度目は遠慮したいですが。

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酒井麻里子(さかい まりこ)
 2003年、慶應義塾大法学部卒、同年読売新聞東京本社入社。北海道支社、東京本社社会部、医療部を経て、2015年3月末に退社。同年4月、島根大医学部に3年次編入学。医療部で患者さんを取材したことがきっかけで医学部を目指した。著書に『限界自治 夕張検証』(2008年)

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2件 のコメント

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医学部入学後に行うべき人生の見直し

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

僕が半ば「社会的死亡者」だから言えますが、よっぽどぶっ飛んだ能力以外、研究も臨床も人付き合いや特殊技能のほうがウエイトが大きいんじゃないかと思い...

僕が半ば「社会的死亡者」だから言えますが、よっぽどぶっ飛んだ能力以外、研究も臨床も人付き合いや特殊技能のほうがウエイトが大きいんじゃないかと思います。

開業医の跡取りは下手な臨床や研究の分野を極めにかかるよりも会計やリスクヘッジが大事だし、物理的あるいは心理的に得をする友人の判断が大事です。

よっぽど臨床医学や医学研究が好きでもなければ、そんなにとんがった能力を持たない方が、謙虚に生きていきやすいのも確か。

勉強しすぎるほどに、生活パターンが崩れるほどに、一般医師や一般社会人との感覚のズレが派生しますから。

先天的要因だけでなく、没頭しないといけない環境が医師から一般社会常識を奪っています。

ところで、親にしても、本人にしても、コントロールできることとできないことがあります。

異性と仲良くなって勉強するには才能が必要だし、良い友達ができるかどうかも才能や巡り合わせの問題があります。

但し、孤立までいくかどうかや、ある学年での下宿の有無はコントロールできるかもしれません。

そもそも、成績が良かったり、親の願望、家庭の事情やモテ願望で、興味もないのに医学部に入る学生も多いことを100%否定する必要もないです。
しかし、それがどこかで心理的に引っかかる可能性は出てきます。

方法論も大事だけど、本人に割り切りや自覚を促す経験を積ますのもいいのではないかと思います。

どんな内在論理でも、いい仕事はいい仕事で、動機や努力を超えたところにあります

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様々な「頑張る」 オーバートレーニング

寺田次郎 関西医大放射線科不名誉享受

「頑張る」って何でしょうか? スポーツや勉強で「頑張る」イメージはありますが、実際は曖昧なもので、さらに他者や社会による評価はもっとあいまいです...

「頑張る」って何でしょうか?

スポーツや勉強で「頑張る」イメージはありますが、実際は曖昧なもので、さらに他者や社会による評価はもっとあいまいです。
求められる結果やサービスが人それぞれだからです。

医学部での座学一つとっても、出席すること、座っていること、話を聞くこと、ノートをとること、覚えること、記述すること、様々な側面があり、その中で、集中力や種々の体力が必要とされます。

さて、先日の学会講義で、オーバートレーニング症候群の話がありました。
過剰な負荷によって、慢性疲労から回復できずに、心身ともに落ちていく現象です。

今の時点では、症状から疑って、呼吸のセンサーでもって補助診断するらしいです。
しかし、最近増えているバイオマーカーなどでの異常値を示す可能性も高いと感じました。
おそらく、類似疾患との対比で、疾患概念の統合や分離が行われると思います。
それに対し、薬剤や休息、心身のリハビリなどの在り方も見直されると思います。

学業にしても、仕事にしても、好きなのか、仕事意識なのかの線引きは難しいと思います。
そして、真面目な人ほど、真面目であることを求められる人ほど、仕事との距離感が近すぎて、時に道に迷います。

大きな出来事がないと気にも留めませんが、成功失敗の可能性という矛盾を内包して生きる感覚とか、チームの中で個人の仕事量が多すぎても少なすぎてもいけないとか複雑な問題があります。

京都府立医大のバルサルタン捏造論文訴訟や暴力団癒着などもニュースに出てますが、自分もその近所の大学病院を離れて6年経って、ニュースや政治を勉強する中で、自分の人生にあの大事件が間接的に関わっていた可能性に気付くわけで、カネもコネもない自分が離職するのも仕方ないと少し気楽になりました。

きっと、「ものの見方や考え方を変えろ」と神様が教えてくれているのかもしれません。

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