宋美玄のママライフ実況中継
医療・健康・介護のコラム
「自然分娩の方が愛情強い」 その発言に根拠はありますか?
1歳3か月になった息子の活動性が激しくなってきました。発達はゆっくりめでほとんど歩かないのですが、ハイハイでどこへでも行きます。ダイニングテーブルに登るのが大好きなので、落下しないか危なっかしくてしようがなく、全く目が離せません(ノートパソコンにお茶をこぼされて壊されたこともあります)。椅子を全部遠ざけているのですが、最近は椅子を自分で運んできて登るようになってしまい、全く目が離せなくなってしまいました。
5歳の娘は最近メキメキとお姉さんらしくなり、弟の面倒をよく見てくれます。リカちゃん人形を2つ与えたら、ずっと一人で遊んでくれています。
先日、小学校教諭が授業で「自然 分娩 の方が子供への愛情が強い」という旨の発言をし、保護者から批判が相次ぎ謝罪したという報道がありました。そのニュースに対しては、「そんな神話のようなことを教師が言うとは」「自分は帝王切開と自然分娩を両方したが、子供たちへの愛情は変わらない」などの批判が目立ちましたが、中には産婦人科の医療従事者が「分娩法の影響は無視できない」とコメントしているものもありました。
「お 腹 を痛めて産んだ子」という言葉に象徴されるように、苦労してこそ母親になれるという根性論があり、帝王切開(術後にお腹がすごく痛いですが)や無痛分娩では愛情が湧かないと本気で思っている人はまだまだいるようです。それは科学的証拠があって言われているのでしょうか? 疑問に思っている人も多いと思います。そこで、手前 味噌 ですが、分娩様式と愛着、産後うつ、総合的な健康との関連について調べて 論文 を書きましたのでご紹介します。
選択的帝王切開群にはより手厚い産後ケアが必要
研究への参加を承諾した674人の母親に、産後6か月の時点で質問票を郵送し502人が回答、そのうち解析に適していた435人の回答を解析しました。282人(65%)が「自然 経膣 分娩」、82人(19%)が陣痛促進剤などを使って陣痛を促す「誘発・促進分娩」、21人(5%)が専門用具を使って赤ちゃんを引っ張り出す「吸引・ 鉗子 分娩」、23人(5%)が「選択的帝王切開(あらかじめ予定を決めて帝王切開を行うこと)」、27人(6%)が緊急帝王切開で、各分娩様式によって年齢・結婚年齢、年収、学歴に統計的に意味のある差は見られませんでした。
「精神健康調査(GHQ-28)」「赤ちゃんへの気持ち質問票(MIBS)(赤ちゃんに否定的な気持ちが強くなるほど点数が高くなる)」「エジンバラ産後うつ質問票(EPDS)」の点数は相互関係があり、子供の数とMIBSの点数にも相互関係が見られました(子供の数が多いことと愛着が強いことが相関しました)。
「選択的帝王切開群」は「自然経膣分娩群」に比べて、統計的に意味のある差をもってMIBSの点数が高く、愛着に不利である結果となりました。「選択的帝王切開群」はEPDSの点数も高く、産後うつのリスクも高い結果でした。また、母乳育児率も低いという結果でした。
この研究では相関関係だけで因果関係はわかりませんが、心身が健康でうつでない方が母子愛着に有利であること、選択的帝王切開群では産後うつのリスクが高く、母乳育児率も低く、母子愛着に不利であることが示唆されました。これだけでは理由はわかりませんが、赤ちゃんを産み出す方法にこだわるよりも、術後の母乳育児支援を含めた医療サポートを手厚くすることが重要かもしれません。
教育者は偏見を植え付けない配慮を
それにしても小学校で教師が根拠もなく身近な経験だけで決めつけて語ることや、一歩間違えると差別につながるようなことを言うことが問題視されニュースになるとは、時代は変わったな、と思います。
30年前、小学校の男性担任に、「料理や仕立ては家庭では女性がするが、プロフェッショナルは男性だ」と話され、モヤモヤして両親に話したところ、「そんなことはない、これからは女性が活躍する時代だよ」と慰めてくれました。それでも学校側にクレームを言うなどは考えられませんでした。言葉尻をとらえてあげつらうのは息苦しいですが、教育者は偏見を子供に伝えていないかどうか気をつけていただきたいです。
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これだと根拠が逆では?
みみ
この教師の発言は偏見だし、たいへん失礼だと思います。立腹している一人です。 ただ、こちらで示された研究の集計だと、「根拠」が逆になってしまうので...
この教師の発言は偏見だし、たいへん失礼だと思います。立腹している一人です。
ただ、こちらで示された研究の集計だと、「根拠」が逆になってしまうのでは?
例えば、「愛着に不利という数字は出ているけど、根拠は数字だけで測れません」とか「愛着に不利という統計は、お母さんの愛情が弱いのではなく、医療サポートが弱いのせいであることをこの教師は知りません」とか「愛着と愛情はまったくニュアンスや意味が違う言葉なので、この研究結果と教師の発言は直接関係ありません」「この研究は分母が少ないので、意味をなしません」であるとか……?
私は、根拠はともかく、経腟分娩と帝王切開に愛情の差はないと思います。自分と周囲の方を見た実感です。
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質問です!
みみ
学校の先生には不用意な発言はしてほしくないですね。 このコラムの主旨について質問です。 >中には産婦人科の医療従事者が「分娩法の影響は無視できな...
学校の先生には不用意な発言はしてほしくないですね。
このコラムの主旨について質問です。
>中には産婦人科の医療従事者が「分娩法の影響は無視できない」
>「選択的帝王切開群」は「自然経膣分娩群」に比べて、統計的に意味のある差をもってMIBSの点数が高く、愛着に不利である結果となりました。「選択的帝王切開群」はEPDSの点数も高く、産後うつのリスクも高い結果でした。また、母乳育児率も低いという結果でした。
上記の結果は、帝王切開は経腟分娩に比べて「愛着に不利」という結果が出ているけれど、「自然分娩の方が愛情が強い」ということとは意味が異なるから、発言した教師はNGなのでしょうか?
それとも
たとえ、「愛着に不利」という結果が出ていたとしても、それが仮に本当だとしても、それを教師が子どもの言うのは不用意であるからNGなのでしょうか?
私はとにかくNGだと思いますが、今回、あえて根拠を示してくださっているので、教えていただけると幸いです。
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経膣分娩と帝王切開
ゆずこ
どちらも経験しましたが、わたしの場合二人目の帝王切開時の方が、産後赤ちゃんのお世話を始めるのが遅く、同室になるのも母乳をあげるのも遅かったです。...
どちらも経験しましたが、わたしの場合二人目の帝王切開時の方が、産後赤ちゃんのお世話を始めるのが遅く、同室になるのも母乳をあげるのも遅かったです。
それはもうお腹を切ってるのだから仕方ないのですが、
生まれた実感がなかなか湧かず、愛情を感じるのも遅かったです。
自宅にいる上の子が気になっていたせいもあるかもしれませんが、こんなに愛情湧かなくて大丈夫なのかと悩みました…
それから一年経ちますが、いまは二人とも比べられないくらい愛してます!
だから、あくまで個人的な感想ですが、帝王切開は愛情が湧きにくかったけど、結局出産は子育ての長い期間のほんの一瞬のことで、後々にまで大きく影響するほどのことではないのかなぁなんて思っております。
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