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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

血管を持たないことによる角膜の“特権”とは?

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血管を持たないことによる角膜の“特権”とは?

 角膜は眼球の表面にある厚さがおよそ0.5mmの透明で、血管を持たない組織です。表面側から上皮、実質、内皮の3層でできています。

 角膜は全体として凸レンズの役割を果たしていて、眼球全体の屈折力の約3分の2を担って(いうまでもなく、残りの3分の1は水晶体が担います)いて、外界からの光を屈折させて網膜に像を結ぶ働きをしています。

 異物が入ったり、病原体が感染したりしますと、まず角膜上皮が傷つき、上皮下に多数ある鋭敏な感覚センサーが働いて、強い痛みを感じます。しかし、上皮の再生力は大変旺盛ですから、小さな傷なら数時間で修復されるのです。

 角膜病変の大半は、異物やまつ毛が角膜に接触してしまう場合と、ドライアイや種々の結膜炎に伴う軽度の病変です。角膜に刺さるような異物があれば取り除く必要がありますが、それ以外は点眼薬などで対処すれば、透明度を失うようなダメージはまず受けません。

 問題は、感染症などの病変が上皮を超えてコラーゲン線維でできている実質に至り、さらには角膜の裏側に近い部分、つまり房水と接している内皮細胞にまで及んだ場合です。

 感染症で一番に多いのが、細菌性の角膜感染症で、ついでヘルペスウイルスによる感染症でしょう。

 ヘルペスウイルスには、単純ヘルペスと帯状 疱疹(ほうしん) に伴う帯状ヘルペスとがあります。

 単純ヘルペスの感染は、身体や眼局所の免疫力(簡単に言えば病原体への抵抗力)が低下している場合に生じやすいものです。時には、いったん改善しても、時日をおいて再発を繰り返す厄介なものもあります。

 帯状疱疹が顔面に出る場合、 三叉(さんさ) 神経の一番上の枝(第一枝)の領域に出現するのが最も多いようです。この枝には、眼球の感覚神経も含まれていて、皮膚の疱疹ばかりでなく、結膜や角膜、さらには眼内にも炎症が及ぶ場合があります。

 ほかにも、普段はあまり病原性を発揮しないカビ類や、アカントアメーバというアメーバの一種が角膜内に入り込んで増殖し、病変を起こす感染症があります。植物で目を突いたり、コンタクトレンズの取り扱いをいい加減にしたりしていると生じやすいものです。

 内皮は角膜の透明性の生命線ともいわれます。血管を持たない角膜の栄養は、房水から得ますが、内皮はその栄養部分だけをくみ取る役割をしているのです。内皮細胞は再生能力がないので、この内皮障害が一定程度以上になると角膜が水浸しになり、不可逆的に混濁してしまいます。ですから、角膜の治療では、内皮を守ることが重要視されるのです。

 角膜の特権ともいうべき特徴に、血管を持たない組織のため免疫反応が非常に起こりにくいことがあげられます。20世紀のはじめ、移植治療の歴史の中ではじめて成功したのが角膜です。拒絶反応が生じにくいことが幸いしたのです。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。日本神経眼科学会理事長、東京大学医学部非常勤講師、北里大学医学部客員教授などを歴任し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」、「絶望からはじまる患者力」(以上春秋社)、「心療眼科医が教える その目の不調は脳が原因」(集英社)、医療小説「茅花流しの診療所」(青志社)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・著作活動のほか、NPO法人、患者会などでのボランティア活動に取り組む。

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