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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第72話 公営住宅と同性パートナーシップ保証を探ってみた

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公営住宅条例の改正に着手した世田谷区

 同性パートナーシップ宣誓書の取り組みなど、性的マイノリティー支援で知られる東京都世田谷区が、同性カップルも申し込みできるように、区営住宅に関する条例を改正する方向で調整を進めていることが報じられました。報道によれば、

  • 世帯向け区営住宅への入居条件である同居者を親族に限定せず、現行法規では親族とされていない同性パートナーも含めること
  • その同性カップルは住民票などで同居を確認できればよく、宣誓書の取得を条件とはしない

 とのことです。条例レベルの法令に同性パートナーが明記されるのは、渋谷区のいわゆる「同性パートナーシップ条例」につづいて全国で2例目。国の法律、政府の政令・省令、自治体の条例など「法令」に、同性パートナーについて定めたものは、ほかにはありません(告示や通達などに一部、記述が見られますが、法令外です)。

 今回、世田谷区で区営住宅の改正の検討が始まった背景には、 第66話 でも紹介した区で実施したアンケートに、公営住宅への入居を求める声が多く寄せられたことがあります。ネットの前で嘆くだけでは、行政機関は動きません。1枚のファクス、1通のハガキでも役所に送り、あるいは窓口に足を運んで声を届けるとき、役所というものは動きはじめます。

 住宅へのニーズは、だれにとっても切実です。性的マイノリティーや同性カップルの存在は、まだ社会的な認知や理解が乏しいため、既存の制度や枠組みからとりこぼされ、当事者が不利益を強いられる場面が少なくありません。とくに医療現場での性別の取り扱いや同性パートナーの医療面会・代諾の場面、職場でのトイレをはじめとする処遇や転勤・福利厚生などでの同性パートナーへの配慮の場面、そして 第46話 でもその一端をご紹介した住まいに関する場面です。

 私はこれを性的マイノリティーの衣食住ならぬ「医・職・住」の困難と呼んでいます。

パートナーシップ公認と公営住宅応募の関係は?

 ここで、同性パートナーシップ公認制度と公営住宅との関係について、整理をしておきましょう。

 公営住宅は、憲法25条に定める生存権を保障するため、住宅に困窮する低額所得者に、低廉な家賃で住宅を提供するもので、戦後復興もまだ途中の1951年に制定された公営住宅法にその根拠を置いています。

 当時はまだ不十分だった世帯向け住宅の建築が優先され、この法律には収入基準はもちろんですが、入居者には「現に同居し、又は同居しようとする親族があること」という同居親族要件がありました。この親族は当然、法律上の親族(親子)や、婚約者を含む夫婦です。そして、これは法律ですから全国一律に適用されていました。バリアフリー住宅供給のかたちで、高齢者や障害者向けに単身用の公営住宅が登場するのは1970年からです。

 近年の注目は、多様化する地域の実情にあわせて公営住宅の運営をしやすくするために、地域分権・権限移譲の流れもあって、2012年4月1日から公営住宅法の同居親族要件が廃止されたことです。

 ところが、同居要件がなくなると単身者の申し込みが殺到して子育て世帯などニーズのある人々を圧迫するなどの理由から、現実には各自治体の公営住宅条例で、従来の公営住宅法とおなじ同居親族要件がそのまま残りました。また、この親族要件に「同性のパートナー」などを含めると明記した自治体も、まだありませんでした。

 同性パートナーシップの公認制度をもつ自治体では、公営住宅の申し込みにどう対応しているでしょう。

 渋谷区では、いわゆるパートナーシップ条例の第16条で、「渋谷区営住宅条例(平成9年渋谷区条例第40号)及ひ渋谷区区民住宅条例(平成8年渋谷区条例第27号)その他区条例の規定の適用にあたっては、この条例の趣旨を尊重しなけれはならない」とし、同性カップルの区営住宅応募を認めています。

 世田谷区の場合、パートナーシップ公認制度は区の要綱という、議会の議決のないものによるため、上位にある条例には影響を及ぼさないと考えて、条例の改正に取り組むものと思います。条例に明記されれば、全国2例目になるのは前述のとおりです。

 ちなみに世田谷区と同様に自治体の要綱で制度を定めた他の自治体はどうでしょう。

 那覇市(16年7月パートナーシップ登録制度開始)は「市営住宅の入居申し込み等での活用について、 関係機関と調整を進めていきます 」とし、兵庫県宝塚市(16年6月パートナー認定制度開始)も同性カップル世帯への 対応はありません 。電話に出た担当者は、「条例改正が必要では」と話しました。

 興味深いのは三重県伊賀市で、16年4月1日の制度開始にあわせ、市営住宅管理条例の「婚姻の届け出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」にパートナーシップ登録者も含まれるとして、すでに応募を認めています。

古くて新しい公営住宅問題

公営住宅と同性パートナーシップ保証を探ってみた

 私は2002年にフリーランス編集者となって小さな出版社(有限会社にじ書房)をつくり、同性愛者の生活を考える季刊雑誌『にじ』の刊行を始めました。その創刊号に載せたルポが「公営住宅は同性二人で申し込めるか?」。都庁住宅局や国土交通省などを聞き歩いて、みずから執筆した記事でした。

 そこで初めて公営住宅法があり、親族同居要件によって同性カップルが排除されていることを知りました。公営住宅法の適用がない自治体独自の住宅公社住宅や、日本住宅公団(現 独立行政法人都市再生機構、UR)も、同様の親族同居要件を備えていました。

 ところが、04年秋にURはハウスシェアリング制度を導入し、非親族の同居を開始。「単身高齢者の助け合いなど政策的要請による」旨がプレスリリースにはありましたが、ゲイ雑誌のコラム担当ライターとして取材にいった私にURの広報担当者は、「同性愛カップルの同居も予想されている」と述べ、天王洲の物件を取材させてもらいました。

 また、06年には大阪府が、公営住宅法の適用のない府の公社住宅について、URと同様のハウスシェアリング制度を導入しました(のちにレズビアンをカミングアウトした、尾辻かな子・大阪府議(当時)の質問に応えて)。

 このように、私にとって公営住宅は、なにかと気になり続けた課題です。同性愛者、性的マイノリティーの置かれた状況を、暮らしに即して具体的に明らかにしてくれるからです。

 公営住宅法の全国一律な規制(同居親族要件)も廃止されている現在、各自治体で公営住宅をめぐって働きかける余地はないでしょうか。

  札幌 をはじめ、自治体での同性パートナーシップ公認を求める運動には、熱いものがあります。一方、地域の事情として同性パートナーシップ公認制度を求めることが、ハードルが高い場合もあります。

 その時、同性カップルへの公営住宅の開放という事実を先に求める戦略はないでしょうか? 「医・職・住」の壁を、一つひとつ壊していく、付け替えていく。キーワードは暮らしと具体策、かもしれません。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

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黙って同居して後でバレたら

カイカタ

そんな場合、大家が出て行けといわれ、出ていかせることはできるのでしょうか? それは非合法ですよね。ちなみに、この問題、同性結婚の認められたアメリ...

そんな場合、大家が出て行けといわれ、出ていかせることはできるのでしょうか? それは非合法ですよね。ちなみに、この問題、同性結婚の認められたアメリカでも整備されておらず、むしろトランプ政権は信教の自由の名の元に差別を合法化するとか。

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