在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活
医療・健康・介護のコラム
授乳中も食生活をゆるっと楽しみましょう(2)
1月末、以前訪問していた患者さんに会いに宮城県気仙沼市へ行ってきました。
その方は、デイサービスに通う日以外は、ほぼベッド上での生活ですが、ご家族と穏やかに日々を送っていました。2時間ほどおしゃべりに夢中になり、帰り際、真っ赤なトマトを頂戴しました。東日本大震災で津波の被害を受けた土地に大きなビニールハウスが建てられ、トマトが栽培されているそうです。その名も「波乗りトマト とまたん」。爽やかな甘みの 美味 しいトマトでした。「波乗りトマト」というキャッチコピーはなかなか斬新だと思いましたが、トマトを味わいながら、「気仙沼では、波を乗り越えて新たな地域の歴史が始まっているんだ」と感じました。
さて前回は、授乳中の食事にまつわる「まことしやかな情報」に惑わされずに、ゆるっと楽しく食生活を送ることをお勧めしましたが、今回のテーマは「食物アレルギー」と「授乳中のアルコール」です。
私たちの体には、細菌や異物(抗原)を排除しようとする、「免疫」という働きがあります。免疫細胞は、「抗原」を認識すると「抗体」を作り出し、再侵入があった場合に、抗原を迎え撃つのです。しかし、抗原に対して起こす免疫反応が病的な反応を起こして、逆に私たちの体に悪影響が生じてしまうのが「アレルギー反応」です。
アレルギーを起こすきっかけとなる抗原を「アレルゲン」、さらに食べ物に由来するものを「食物アレルゲン」と呼びます。そこで、「食物アレルゲン」として明らかになっているものを食事から排除すれば、「乳幼児の食物アレルギーを予防できる」という考え方が生まれたわけですが、私が栄養学を学んでいた20年前と現在では、その考え方は大きく変化しています。
小児栄養学の専門家である、神奈川県立こども医療センターアレルギー科医長高増哲也先生は、「食物アレルギー予防にまつわる3つの都市伝説」として、この「考え方の変化」についてとても分かりやすく解説されています。
2007年頃まで信じられていたことが、「根拠がない」と証明されたのは、表の三つの項目です。もしかしたら皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
妊娠中の食生活についても「特定の食品について食事制限をしない」というガイドラインをご紹介しましたが、授乳中も同じです。「食事制限」は、必要な人にとっては行動そのものが「治療食」となりますが、そうでない人にとっては、むしろ必要な栄養が不足する恐れがあります。
これまで様々な研究が進んでいく過程で、多くの栄養常識が覆ってきました。
例えば、卵は「コレステロールを多く含んでいる」という理由で、長い間、多くの人が「制限」を受けてきました。私の家族も、脂質異常症のため「卵は2日に1個まで」と医師からの指導を受けていました。
しかし、卵には良質なたんぱく質が多く含まれています。卵を制限することで、それを摂取する機会を失うことになるのです。「日本人の食事摂取基準2015年版」でも、「コレステロール摂取量が直接血中総コレステロール値に反映されるわけではない」と明確に記載されています。コレステロールがたくさん含まれた食品を摂取しても、そのまますべてが血中に入り込んで体に悪さをするわけではないということです。もし、食事性コレステロールの制限のために「卵を食べてはいけません」と指導している医療者がいたら、「もう、その指導は古いですよ」と教えてあげてください。
授乳中のアルコールは絶対ダメ?
先日、授乳中の友人Sさんに「お酒って、絶対に飲んじゃだめですか?」と聞かれました。彼女の赤ちゃんは生後6か月で離乳食を食べ始めたところでした。ニコニコしてとても 可愛 らしく、私は親戚のおばさんにでもなったように「かわいいね~!!」を連発しながら写真を撮り、抱かせてもらいました。
Sさんは、もともと赤ワインが大好きな方でした。「妊娠中からずっとお酒を我慢してきたけれど、夫が隣で美味しそうにワインを飲んでいると、イラっとしてくる」と話していました。私もビールが大好きなので、本当にその気持ちがよく分かります。それは授乳とオムツ替えのために何度も夜中に起きるのに、隣で気持ちよさそうに眠っている夫を見て、イラっとする状況と似ています。
授乳中のアルコール摂取については、アルコールの量として1日1単位(20g)未満が許容範囲とされています。「妊娠中」のアルコール摂取は、子どもへの悪影響が明らかになっていますが、授乳中については、「絶対に飲んではいけない」という根拠は薄いようです。
ビールに含まれているアルコール度数は5%ですので、350mlの缶ビールであれば17.5mlのアルコール(厳密にはエタノール)が入っていることになります。水の場合は、1ml=1gですが、エタノールはやや密度が低く、重さ(g)に換算するには約0.8を乗じます。そうすると17.5mlのエタノールは約14gになります。つまり、缶ビール1缶程度であれば、許容範囲内であることが分かります。
多くの赤ワインのアルコール度数は約15%ですので、小さめのグラスワイン1杯100mlであれば15mlです。試しにインターネットで「アルコール度数の少ないワイン」を調べてみたところ、アルコール度数8%の赤ワインも販売されていました。それなら、グラス2杯でも20g以内に収まります。ワインを飲む夫にイライラするよりは、一緒にグラスワインを少量楽しんだ方が、夫婦円満のためにもいいかもしれませんね。
とはいえ血液中のアルコールは、母乳に移行します。代謝機能が未熟な赤ちゃんは、アルコールを体内で分解するのに時間がかかります。慢性的なアルコール摂取による子どもへの影響は、成長障害などがあると言われていますので、いくら許容範囲であったとしても、毎日飲み続けるのは避けた方が良いでしょう。
実は私も、授乳中に少しお酒を飲んでいました。妊娠中は一切お酒を我慢していましたが、出産後8か月ほど 経 ち、離乳食からの食事摂取量が増えて、授乳の回数は減ってきたころでしたので、週に1回程度、小さなコップ1杯だけビールを飲んでいました。
最近は、アルコール度数が1%未満のビールも販売されています。低アルコールビールやノンアルコールビールは、冷凍庫で冷やしたグラスに注ぐと、より本物に近づきます。
ただでさえ、出産後はそれまで当たり前のようにしていたことができなくなり、お酒どころか食事もままならず、トイレにもゆっくりいけない状況です。少しのお酒で、張り詰めた気持ちを和らげる効果があるのなら、たまにはゆるっと楽しんでもいいのではないでしょうか。
参考文献
「小児看護」第38巻第2号 2015年2月号 へるす出版
「佐々木敏の栄養データはこう読む!」佐々木敏 著 女子栄養大学出版部
米国小児科学会「母乳と母乳育児に関する方針宣言(2012年改訂版)」の EXECUTIVE SUMMARY
「小児科医ママの『育児の不安』解決BOOK」 森戸やすみ著 メタモル出版
「日本人の食事摂取基準2015年版」 菱田明 佐々木敏監修 第一出版
Alcohol and Breastfeeding Haastrup MB, Pottegård A, Damkier P.
Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2014 Feb;114(2):168-73. doi: 10.1111/bcpt.12149. Review
(http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bcpt.12149/abstract)
【関連記事】
※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。
※個人情報は書き込まないでください。