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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

周囲の人が小さく見える!?…私も体験した「不思議の国のアリス症候群」

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周囲の人が小人に見える!?…私も体験した「不思議の国のアリス症候群」

 以前は、症候群や病名に発見者や、最初の報告者の名前を冠したものが多くありました。しかし、人名だと、一見では内容がわからないので、できるだけ排除しようという流れがあり、随分 淘汰(とうた) されてゆきました。

 それでも、頑張って病名に名前が残されてきたものがあります。

 世界的にも今でも通用する眼科関連の疾患で日本人の名前の残るものとして、高安動脈炎の高安 右人(みきと) (1860~1938)、原田永之助(1892~1946)の原田病などがあげられます。

 発見者の名前ではないものが冠されているものとして、ミュンヒハウゼン症候群に名を残す、ほらふき男爵、ミュンヒハウゼンがあります。18世紀ごろに出版された著者不明の「ほらふき男爵の冒険」が原型だそうで、その男爵が人を集めてする虚実とりまぜた作り話は、実に面白かったそうです。その話を集めた「ほらふき男爵の冒険」は、その後幾人もの作家によって加筆され、出版されてきたのです。

 ミュンヒハウゼン症候群とは、虚偽性障害のひとつで、身体症状がねつ造されて示されるもので、もしその身体症状が視覚系に表れれば、 詐盲(さもう) (見えないことを装う)に相当する症状となります、しかも、演技的で、かつそれは専門家でも見破りにくい知識や技能を持っているのです。

 一昔前の、特にイギリスの医師は、こうして楽しみながら病名を考えていたのでしょう。それがわかる別の例をあげます。

 ルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」そのものを病名にした「不思議の国のアリス症候群」です。

 子供のころに、こんな体験をしたことがある人は、本コラムの読者の中にもきっといると思います。大体、100人に1人くらいの割合で、同様の体験を持っているものです。

それは、外界のものすべてが、いま自分がいる世界の中で、突然サイズが小さく(時には大きく)みえてしまう体験です。

 実例を挙げてみましょう。中学1年生の女子が両親とともに私の外来を訪れました。3か月前に高熱で家で寝ている時、目覚めて何となく一点を見つめていたら、家の中全体が縮小し、そこにいる人物も同じように縮尺し、小さくなりました。数分後には治りましたが、自分の身体の大きさが小さくなったり大きくなったりした感じはしなかったということです。

 よく聞くと、似たような体験は、幼稚園の頃、数えきれないほどしたが、親に話したことはない。そして、その後はいつの間にか出なくなったので、忘れていたと語りました。

本人も両親も、この不思議な体験をかかりつけ医などに語っても、説明がなく、いったい何事なのかかなり心配して来院したのでした。

 実は私も子供の時に同様の体験があり、医師になってから調べてみたところ、この症候群だとわかったのです。特殊な場合を除き、成人すると出現しなくなるようです。そう説明すると、その親子は安心して帰ってゆきました。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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