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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第71話 「ネットメディア」問題再考 虹色百話はなにを伝えるべきか

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情報の質が問われた「キュレーションサイト問題」

「ネットメディア」問題再考 虹色百話はなにを伝えるべきか

 昨年末に突如起こった「キュレーションサイト(まとめサイト)」問題は、私も書き手のはしくれとして、関心を持たざるをえませんでした。

 ネット上には日々、膨大な情報があふれています。そうした情報のなかからテーマごとに良い情報を集め、手ぎわよく読ませてくれる場所があれば、こんな便利なことはありません。当然、そうしたサイトはアクセス数も膨れ上がり、広告媒体としての価値が生じ、収益事業化(マネタイズ)できます。

 新聞でも放送でも、情報産業は基本的にこのパターンで成立しています。

 しかし、新聞社や放送局など報道機関は、情報の正確性に責任を負い、独自の取材網や編集・校閲などチェック体制を築いています。また、有能な記者を育成し、記事の深度や企画力などで読者を引きつけ、媒体としての魅力を向上させていきます。

 キュレーションサイトもさまざまな工夫を重ねているでしょう。多くのメディアやブロガーから記事を提供してもらったり、ネットの双方向性を生かしてコメントできたり……。

 しかし、マスメディア提供の記事では原価が高くつく。サイトの独自色も出したい。そこで、多くの記事を (そろ) え読者を引き寄せるために、ライターを抱えて記事を「大量生産」させる。そのなかで先行記事を切り貼りするなど信頼性の低い記事が多数あり、運営サイドもそれをむしろ奨励したり、検索エンジンにかかりやすくするキーワードの挿入を指示したりしていたことが判明。批判を浴びてサイトの休止(閉鎖)に追い込まれました。

 同様な問題が、他のサイトでも多数散見されるとのことで、ネット記事の信頼性に一気に疑問符がつきました。

 もちろんこの事件は、こうしたネット上で書いている私自身にも、跳ね返ってくる問題です。そして当然、LGBT領域においてこのようなキュレーションサイト問題に類する事態はないのだろうかとの思いも、抱かずにはいられません。

LGBTとネットメディアの20年

 性的マイノリティー――当初はやはりゲイですが――に関するキュレーションサイトのようなものができたのは、1990年代の後半にインターネットが普及しはじめ、ゲイ向け会員制出会い紹介サイトができるのと同じ頃ではないかと記憶します。そこへアクセスを呼び込むためのコンテンツの一つにゲイニュース欄があったのが、いわばキュレーションサイトのはしりでしょうか。

 ゲイニュース欄には、新聞社等マスメディアのネットニュースや、海外ですでに発達していたゲイニュース専門サイトなどから、あるいはコピぺで、あるいは翻訳で記事が集められていました。ネットのルールも未確立で、おおらかなものです。

 ただ、当時はゲイニュースといっても、どうしても海外ネタばかり。国内ニュースといえば、男性教諭が男児にいたずらして逮捕とかで、「もう、こんなん載せんなよ」と思ったものです。サイト運営者による独自ニュースは、取材力も資金もなく、新宿二丁目でのイベントのミニルポなどが多少あったような……。

 ニュース欄は日々更新されるので、サイトへのアクセスの動機となるような位置付けで、あくまで添え物の扱いでした。

 2001年に生活情報サイト「ALL About」が日本上陸した際、「同性愛」という項目が立ち、現在、作家としても活躍する歌川たいじさんがガイドに起用されました。「リクルートが出資する一般サイトにゲイも登場する時代になったんだ」と、新聞の全面広告を見ながら思ったものでした。既存サイトに「同性愛」が加わる形ですが、ゲイでアクセスが呼べるという判断が一般企業に普及しはじめたのかもしれません。

 2000年代の中頃は、オーマイニュースやJanJanなどネットニュースが起こり、市民記者が注目されました。マスメディアにあまりにも記事が出ないので、みずから記者に応募して、日本のLGBTの草の根活動を寄稿したりしているゲイもいました。既存メディアに載らない情報が期待された、新興サイトの一種でしょうか。ただ、ネットニュースは2010年代に入るころには撤退してしまいます。

 ゲイやLGBTをテーマとし、ポルノがなく、当事者はもちろん一般社会を対象として広告収入などで運営される専門サイトは、成立しないのか?

 風向きが変わったのは2012年ごろ。海外で同性婚の法制化が相次ぎ、日本でも「LGBT市場ウン兆円」といった話が経済誌に躍りはじめ、「ゲイマーケット」ブームがやってきます。その追い風を受けて、一般企業のなかからLGBT専門サイトを立ち上げるところが現れました。

 一つはビデオオンデマンドのDMM.comによる「2CHOPO」、また一つはIT起業家で知られる家入一真氏らが出資する「GENXY」です。

 経済誌が (うた) うゲイマーケットのイメージそのままな、スタイリッシュで (あか) 抜けた印象のGENXYは、LGBTのおしゃれなライフスタイル情報を発信するサイト事業とともに、コスメの自社ブランドやLGBTマーケティングも手がけています。

 オネエブームでおなじみになった新宿二丁目のイメージを重ねた2CHOPOは、ドラァグクィーン(女装パフォーマー)を編集長に迎え、女装系ライターや話題の同性婚で注目を集めるコラムニストを揃える布陣で臨みました。

 ただ、両者とも「LGBTサイト」をコンセプトにスタートしたものの、年数を重ねるなかでその方向性や記事は曲折を重ね、表示される外部広告も必ずしも多くはないようで、マネタイズ面での苦闘が感じられます。

 こうしたLGBT専門サイトのほかに、LGBT向けビジネスを起業した人・社が、自社ビジネスに関連するLGBT情報を発信するサイトを運営する例があります。近年増えてきたLGBT向け人材マッチング事業(就活・転職サイト)や不動産・保険などの分野で、自社作成の記事を並べたものから、一般メディアの記事に一言コメントをつけて紹介するものまで軽重あり、それ自体でのマネタイズを狙うというより、サイトへの立ち寄りを増やす工夫のようです。専門ライターや編集者が関わるわけではないので、記事の「コク」では物足りない点もあります。

 同性ウェディングのベンチャー企業が運営する「LETIBEE LIFE」は、同性カップルのための実用記事なども掲載していましたが、その後、社の業態が変転するなかで、一時は物議をかもす(いわゆる炎上狙い)記事が多く出てネットで話題になりました。現在は元ゲイ雑誌編集長を迎えて、ユニークな「深掘り」「ロングインタビュー」記事を掲載しています。

虹色百話はなにを伝えるべきか

 さて、こうして他のサイトをあれこれ言挙げしてきたことは、当然、書き手としての私にブーメランのように突き刺さります。

 虹色百話は、ヨミドクターという新聞社系サイトの一角で、ゲイ当事者による性的マイノリティーのガイド記事として回を重ねてきました。運営側からキーワードを指示されたこともなく、さいわい持ち出し感を抱かずに済む程度の稿料は払っていただき、安直なコピペで文字数を稼ぐようなことをせずに来ています。編集や校閲体制もしっかりしており、記事の質を高めてくれます。

 そのうえで問われるのは、LGBTガイドを名乗るにあたり、読者はどのような記事を求めているのか。一般メディアでもLGBT報道は頻出し、さらにBuzzFeedやハフィントンポストなど新興サイトも、プロの記者による突っ込んだLGBTルポをしばしば掲載する現在、そのうえに虹色百話はなにを書くべきなのか?

 どんなときも「はじめて」の方はいらっしゃるので、LGBTの基礎知識は必要だし、企業や学校、社会で理解が進む姿を伝えることは、きっと当事者を励ますでしょう。とはいえ、その種の記事はすでに多数あります。理解や支援者となることを訴える文学的・感動的なブログも、キュレーションサイトでの転載を通じてよく知られます。

 あるいはキッチュでファビュラス(素敵)なゲイカルチャー情報? オシャレでハイクラスな新商品やサービス、LGBTビジネス情報? LGBTという言葉から容易に連想されるこうした情報も、関心がある人はいるかもしれませんが、私の得意分野にあらず……。

 では、なにを書くべきか。

 一つには、日々報道される「LGBTニュース」をただ「よき知らせ」として喜ぶばかりでなく、社会的・歴史的に少し引いて位置付け、解説してみる視点の提供です(今回の2節目などが例)。若い読者には初めて聞くニュースでも、「昔も似たようなことがあった」「いまとどう違うのか」「なぜ忘れられたのか」など、歴史的視点を加えることで現在への複眼的理解を提供することが、今年51歳の古参ゲイにできることかもしれません。

「よきニュース」はマイノリティーの自尊感情の回復ともつながっているので、ニュースをあまり冷まされると、せっかく高まった自尊感情を 矮小化(わいしょうか) されるようで、「イイネ!」をつけづらいかもしれませんが、あとで「なるほど……」とかみしめてもらえることがあれば、私も長く生きたかいもあるというものでしょう。

 ときには「よき知らせ」の陰で見過ごされる課題をあえて提示したり、当事者として当事者に対し、「え、それでいいの?」という問題提起をしたりしていくことも、これからは大事なのかもしれません。いまはLGBTの積極面を見せていく時期として、表に出すことが控えられてきたような(暗い)部分についても、それが「ありのまま」の姿ならば書いていくことは必要かもしれません。いずれの場合も、個人的中傷や暴露趣味でない、きちんとした議論にしてゆくこと。私自身もそのための確かな取材や筆力、見識が問われるでしょう。

 それとともに、たんに海外の「進んだ」諸国に憧れるだけでなく、法や制度を活用し今できることを訴えてきた立場から、暮らしと老後を安心できるものにする具体的情報を届けられたらと思っています。実践なき空疎な評論記事をもっとも忌んできた、私の真骨頂とご覧いただければ、望外の喜びです。

 昔、ある雑誌編集者が自誌の記事について、「この中のどれか一つ二つは/すぐ今日あなたの暮しに役立ち/せめてどれかもう一つ二つは/すぐには役立たないように見えても/やがてこころの底ふかく沈んで/いつかあなたの暮し方を変えてしまう」と書きました。

 ネット操作のテクニックや真偽不明の記事で人を集め、そこにお金が回る仕組みは作れるのかもしれません。しかし、その記事は人に読んでもらうに足るものなのか。本当に人を変えることができるのか。

 フェイクニュースや感動ポルノという言葉も聞こえるいまだから、性的マイノリティーをテーマに書くとはどういうことか、考えてゆきたいと思っています。

【追記】

 広告マネタイズには遠いものの、クラウドファンディングなどで資金を集め、ウェブマガジンを創刊し、文化やムーブメントを作り出そうとする動きもあります。文筆家で現在、ゲイバー経営者でもある伏見憲明さん編集長のこちらのサイト(アデイonline)も、ご覧になってみてください。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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2件 のコメント

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良質な情報が命綱

まん

LGBTがブームになっても、まだまだ当事者は孤立していますよね。 ゲイやレズビアンでも、いまだに、そもそもどうやって自分らしく生きられる場を見つ...

LGBTがブームになっても、まだまだ当事者は孤立していますよね。

ゲイやレズビアンでも、いまだに、そもそもどうやって自分らしく生きられる場を見つければいいのか、なかなかそういった情報にたどり着けなかったという声を聴きます。イマドキ10代までに一通りのことを経験して当たり前じゃない?というのは、都市部にすむ一部のゲイに限った話なようです。

トランスジェンダーだと、特に10代の若い子たちが、性別適合手術をどこで受ければいいのか、そもそも手術が必要なのか相談する場がなく、ネットの「口コミ」で、どこどこの病院なら比較的短い時間で性同一性障害の診断がもらえるよ、みたいな情報にたどり着いてしまう、あるいは、ネットに掲載されている「○○万円で相談から手術のあっせんまで請け負います!」という宣伝文句に引き寄せられてしまい、理性的な判断が出来なくなってしまうケースもあるようです。

こういう現状の中で、どうやったら「良質」な情報に辿り着けるのか…文字通り死活問題になっていると思います。

当事者でない人に向けた情報は、ありのままの私、でも、ゲイに生まれてハッピーでも、LGBTの生きづらさでも、もうなんでもいい、と言うか足並みをそろえることはきっと出来ないでしょうが、当事者に向けた情報—仲間探し、性別変更に伴う悩みごとの相談先ーは、そうは行かないでしょう。

ゲイカルチャーのような読み物よりも、そういった情報のインフラのようなものが必要なんでしょうね。儲からないでしょうが笑

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日本における同性愛の歴史を語ってみては

カイカタ

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古代から現代まで。その中には、男色なんてのも含まれますが、明治時代に西洋化が進んでどう変わっていったのかなど、戦時中、それから戦後、どのような変遷を辿ったのか。解放運動の歴史も含めて綴ってみては。

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