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女性がん患者 「書く」ケア効果…気持ちを整理、病と向き合う
内容語り合い前向きに
文章をつづることで、がん患者が病気と向き合い、前向きになるなど、「書く」ことがケア効果になるとする研究成果が出始めた。これを進めるのは、20年近く闘病記を研究してきた女性社会学者だ。
カリカリカリ――。2年前の冬、札幌市内の大学の教室で、5人の女性が鉛筆を走らせていた。書くテーマは「来年に向けて」「昔懐かしい味」などソフトなものだが、これは文章教室ではなく、日本学術振興会の科学研究費補助金を受けた研究だ。
研究に参加したのは、乳がんや卵巣がんを経験した50~70歳代の女性5人。「書く」ことのケア効果を検証しようと、日本女子大学学術研究員の
門林さんは闘病記研究の第一人者。学者としての道を歩み始めたきっかけは、20年前に夫を
当時、子育てが一段落して大学院で社会学を学んでいた。夫を亡くした後、研究テーマを闘病記に決めた。
2011年、がんの闘病記550冊を読み解き、患者や病気に対する考え方の変遷を分析した「生きる力の源に がん闘病記の社会学」を出版。十数年の研究の集大成は多くの新聞や雑誌に取り上げられた。
次に取り組んだのが、闘病記を「書く」ことの意味だった。イギリスとアイルランドで、がん患者が自分のがんに手紙をつづるなど書くことが臨床現場でケアとして使われていることを実態調査し、日本での実践研究を目指すようになった。
「いきなり『がんへの手紙』『闘病記』では構えてしまう」「プライバシーを守りながらも親密な雰囲気を作りたい」。門林さんは城丸教授らと何度も打ち合わせし、研究の準備や倫理審査にほぼ1年をかけた。
そして14年10月から翌15年3月、5人の参加者が月1回集まり、各回のテーマに基づいて30分文章を書いた後、書いた内容について30分話し合った。
お互いを呼ぶのに「Aさん」「Bさん」では素っ気ない。「アネモネさん」「アジサイさん」などと自分の好きな花の名前を使い、花や人形などをテーブルに置いて、あたたかく親しい雰囲気を演出した。
6回の集まりの後、参加者たちは「過去を振り返ることができるようになった」「友人に『実はがんだった』と打ち明けることができた」「気持ちが軽くなった」と語った。
門林さんは「病を直接テーマにしなくても、過去を振り返りながら文章を書くことで自分の病に対する思いも整理される。書いた内容を語り合うことでお互いに親密になり、それぞれの生きる力になったのでは」と分析する。
研究成果は国内外の社会学や看護学などの学会で発表された。「うちでも実施したい」という大学関係者も出てきた。今後はほかの部位のがんや男性でも有効なのかなどを検証していきたいという。
■メモ 「生きる力の源に がん闘病記の社会学」(青海社)は、門林さんが、がん闘病記が出版されだした1964年以降の闘病記を読み解き、筆者に取材するなどして考察をまとめた。病に対する考え方の変遷を浮き彫りにし、闘病記を「書く」ことや「読む」ことが「生きる力」につながることを明らかにした。(竹井陽平)
→医療大全「乳がん」
/iryo-taizen/archive-taizen/OYTED551/
→病院の実力「乳がん」
/byoin-no-jitsuryoku/archive-jitsuryoku/?has-enquete=has-enquete&disease=OYTED551
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