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松永正訓の小児医療~常識のウソ

コラム

花粉症に打つ手なし?

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花粉症に打つ手なし?

 私が大学病院で勤務していた頃、同僚にスーパードクターXがいました。彼は抜群に切れ味鋭いメスさばきを見せる外科医でした。冷静沈着な性格で、手技は正確無比。また、手術のスピードが大変速いのも特徴でした。そのスーパードクターXにも弱点がありました。それは花粉症です。スギ花粉が飛ぶ時期になると、涙がボロボロと流れ、くしゃみを連発し、目の周囲を真っ赤に腫らせていました。もちろんこんな状態で手術は執刀できません。スーパードクターXのテクニックがどれほど (すご) かろうと、スギ花粉には勝てなかったのです。

 花粉症は私たちの命に関わる病気では(ほとんどの場合)ありませんが、生活の質をこれだけ低下させる病気もあまりないでしょう。今や国民病とも言えるようになったアレルギー性鼻炎、特にスギ花粉症について今日は説明してみたいと思います。

これって花粉症ですか?

 花粉症の症状は、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目の (かゆ) みが主なものです。あえて言えば、この中でも連発するくしゃみと目の痒みが花粉症の特徴と言えるでしょう。それ以外の症状は普通の風邪に似ているため、子どもの場合は案外診断が難しかったりします。

 大人は自分で症状を的確に説明できるし、自分自身で風邪なのか花粉症なのか判断が付いていることが大多数です。小学生以上のお子さんでは、大人と同様に診断に迷うことは少ないのですが、未就学児では相当難しかったりします。

 特に最近では、花粉症の低年齢化が進んでいます。2歳くらいの子どもを連れてきたお母さんが、「こんな小さい子にも花粉症ってあるんですか?」という質問をよくします。

 以前はどうだったかと言うと、そもそもそういう質問を受けることがありませんでした。そうした質問をするということは、母親が花粉症を疑っているということです。確かに普通の風邪とは思えない、スギ花粉の飛散の時期に一致した鼻炎症状のお子さんが増えているのは間違いありません。

 ある統計によれば、15歳未満のお子さんのおよそ4分の1はスギ花粉症だそうです。なぜそんなに多いのかと言えば、毎年スギの飛散量が増えているからです。もとはと言えば、昭和20年代(私が生まれる前ですね)に、スギの植林事業が日本全土で始まりました。しかしそのスギの木は当初の目論見通りには伐採されませんでした。外国から安価な木材が大量に輸入されたためです。そのため、スギ花粉の飛散量は増える一方で、この傾向は今後何十年も続くと予測されています。

どうやって診断するか?

 基本的には問診です。つまり保護者からよく話を聞けば診断することができます。しかしどんな病気でもそうですが、病気には軽いものと重いものがあります。軽い病気は診断が困難です。進行した胃がんは胃カメラによって一発で診断がつきますが、超早期の胃がんは胃カメラをやっても診断できないことが多々あります。花粉症もそれと同じで、症状が軽いといくら丁寧に話を聞いてもわからないことがあります。

 そういう時は検査をすればいいと思いました? 検査をしても参考にしかならないんです。もし、やるとすれば、

1 鼻水を拭って、鼻汁の中の好酸球(白血球の一種。アレルギーに関与する)の有無を調べる。

2 採血して花粉に対する免疫グロブリンE(=IgE)の値を測定する。

ということになります。クリニックによっては積極的に検査をおこなっていると思いますが、あくまでもこうした検査は参考の範囲にとどまります。鼻水の中に好酸球が無いからと言って、花粉症ではないとは言い切れません。

どんな種類のアレルギー性鼻炎?

 スギ花粉は2月頃から飛び始めて、5月の大型連休を過ぎる頃まで続きます。そこで花粉症が治まるかと思うと、今度はヒノキの飛散がピークになります。

 秋に調子が悪くなる人も多いです。犯人はブタクサやヨモギですね。私の鼻炎は秋に出ます。風邪を引いて来院したお子さんを聴診するために衣類をまくり上げてもらうと、その瞬間に猛烈なくしゃみと目の痒みに襲われることがあります。お子さんの衣服にブタクサやヨモギの花粉が付着しているのですね。

 そうなるともう診療はストップしてしまいます。いったん院長室に引き揚げて、 (はな) をかみ、洗顔してから診察に戻ったりします。

 イネ(カモガヤ、ハルガヤなど)は夏を中心にして比較的長い期間飛散します。イネアレルギーの人もけっこういますよね。

 そして通年性のアレルギー性鼻炎もあります。犯人はダニやハウスダストです。ただし、通年性と言っても秋に悪化する傾向があります。それは高温多湿の夏にダニが増殖し、秋に死骸となったダニ・ハウスダストが大量に空気中に舞うからです。

 通年性のアレルギー性鼻炎は、問診だけで確定診断を下すのはかなり難しいと言えます。特に保育園児は集団生活を送っているので、年間を通じて鼻風邪を引いているようなことが多々あります。治ってもくり返し風邪ウイルスをもらうので、いつでも風邪を引いていて、慢性的に副鼻腔炎のような状態になっていたりします。

 こうしたお子さんでは、通年性のアレルギー性鼻炎と風邪(副鼻腔炎)の区別は困難です。あるいは両方が同時にあるのかもしれません。もしアレルギー性鼻炎の薬を年間を通して飲むのであれば、血液検査は確認のためにやっておいた方がいいかもしれません。

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松永 正訓(まつなが・ただし)

 1961年、東京都生まれ。1987年、千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より、「松永クリニック小児科・小児外科」院長。

 『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『子どもの危険な病気のサインがわかる本』(講談社)など。

 ブログは http://wallaby-clinic.asablo.jp/blog/

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1件 のコメント

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雑感。

papa

はじめまして、いつも拝読しています。 思想的な部分や多少独善的な所を感じますが、小児科医、小児外科医としての見識は信頼が置けて有り難いです。 コ...

はじめまして、いつも拝読しています。
思想的な部分や多少独善的な所を感じますが、小児科医、小児外科医としての見識は信頼が置けて有り難いです。
コメントには寛容にユーモアで対処なさってください。
ガンバレ松永正訓。

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