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元ちゃんハウスより~がんと生きる医師・西村元一の手紙

コラム

一筋縄でいかないがん治療

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一筋縄でいかないがん治療

元ちゃんハウス1階で、がん体験を語る筆者(左)ら患者たちと傾聴するメンバー。誰かに聞いてもらうことでスピリチュアルケアにも通づる

 一昨年の3月26日に肝転移、リンパ節転移を伴う根治が難しい胃がんと診断され、その後、標準治療をベースに2年足らずの間、治療を行ってきました。当然、治療を始めた段階では先が見えないこともあり、先行きが非常に不安でしたが、不思議と“死”はあまり脳裏に浮かびませんでした。

 おそらく、あまり考えたくないということで避けていたのかもしれませんが、それまでたくさんの患者さんの治療に関わっていたことから、突発的なことを除けば、たとえ根治が難しくても、死まである程度の時間があることが分かっていたからかもしれません。

 そして、今から考えると 些細(ささい) なことで一喜一憂しながらも、「想定内」という感じで抗がん剤治療、手術と治療が進んでいき、一昨年の秋頃から小康状態となりました。そうなると、病気の治療と並行して「色々なことをやれそうだ」「何かをやりたい!」と言う気分になり、それがその後の講演・執筆活動と元ちゃんハウスの実現に (つな) がったのは言うまでもありません。

 そして、安定した時間がかなり続くと、人間というのはいいふうに考えてしまうので、今度は「もしかして……」という気持ちになりましたが、“根治が難しいがん”はそんなに甘いものではなく、昨年の夏過ぎから、腫瘍マーカーの上昇や、コントロールが難しいような肝臓やリンパ節への再燃が認められ、付随して食事量の低下や食後の痛みなどの消化器症状も徐々に表れるようになりました。

 そうなると、徐々にではありますが、全身状態が悪くなっているのが実感できました。それでも悪あがきのように、できるだけ悪くなっていることから目を背けたいと思いでいました。しかし、「2時間ほど立ったまま講演する」とか「1階から3階まで階段で上がる」とか、以前には簡単にできていたことがしんどくなってくると、やはりショックを受けるとともに、病状が進んでいることを認めざるを得なくなりました。

身体と心の深い関係

 そしてこのように治療が長くなると、単に症状だけではなく、気分的(精神的)にも山あり谷ありという感じになります。そして患者になってみると、思っていた以上に”身体と心”はそれなりに相関していることを実感しています。治療効果などに不安があるとおなかの症状をはじめ、様々な体調もてきめんに調子が悪くなります。逆に、思ったより検査結果などが良かったりすると不安が消え、それまでの体調不良が (うそ) のようにすっきりとすることもあります。

 術後2か月ぐらい () って、ある程度、術後の状態を乗り切り、「これから!」と言う時に陽電子放射断層撮影(PET)検査で再燃の診断を受け、それまでの上り調子が嘘のように食欲が低下しました。加えて、食事をするとおなかがひどく鳴るようになり、おなかが張る感じから下痢になったりもしました。特にQOL(生活の質)を落としたのは、一晩でティッシュペーパーを一箱使うほど唾液がたくさん出てきたことでした。その結果、不眠の日が続いたのは言うまでもありません。

 しかしながら、そのような症状でさえ、その後、放射線治療の効果があったと担当医から聞いたら、いつの間にか嘘のように消えてしまいました。先日も担当医や家内と色々な症状の話をした時に「一体、あの唾液は何だったんだろう?」と話題になりましたが、少なくとも同じような症状が出ないことを願うばかりです。

 しかし、さらに病状が進んでくると、当然ながら病状が良くなったり、何かが改善して症状や精神状態が良くなったりすることは少なくなります。逆に、「今後どんな症状が出るのか?」「あとどれくらい生きられるのか?」などと考えることが多くなり、そうすると当然ながら強い不安に襲われ、同時に強いストレスのためか不眠になったり、軽い呼吸苦などとともに腹部の様々な症状が出たりすることもあります(特に自分の場合は専門知識があり、分かりすぎていることが一般の患者より不安を強くしているのかもしれません)。

 一方で、がんの進行によっても同じような症状が出てもおかしくないので、治療のためには、それが前述のような身体と心の相関による症状なのかどうかを見極める必要があるのですが、なかなか難しいものがあります。ただ言えるのは、もしその症状が良くなったり悪くなったりするようであれば、精神面の作用の方が強い可能性もあり、もしかしたら何かのきっかけで軽減することもあり得ると思います。

やりたいことを見つける!

 病気が見つかるまで、医師として数多くの患者の終末期に関わり、ある意味で知ったかぶりをして患者・家族とかに説明をしてきました。しかし、いざ自分が終末期に近い患者の立場になると、当然ながら経験したことがない状況に足を踏み入れるという恐怖感が絶えずつきまとってしまうのはやむを得ないことだと思います。そうなると、本当に周りからのちょっとした「 美味(おい) しいものを食べといたら!」「今、痛くない?」「行ってこられて良かったね」などという何げない言葉さえ、それぞれ「早晩食べられなくなるんだ!」「今は痛くないけど、もうすぐ痛くなるんだ」「行けないかもしれないと思われてたんだ!」という意味に勘ぐってしまい、それが不安に繋がってしまったことも少なくありません。

 ただ言えるのは、身体的及び精神的状況によっても、その不安の強弱が全く変わるということです。身体的、精神的に落ち着いていたり、もしくは目の前に自分がやりたい目標がある時には、同じようなことを言われても気になりません。でも、心身ともに調子が悪かったり、何も目標がなく病気のことばかりを考えている時にはちょっとした言葉でも気になり、不安が強まり、その結果として、なおさら様々な症状が強くなったり、しばらく持続したりしてしまうような気がします。

 心身の状態というのは外部からの影響もあり、コントロールし難いので、自分自身でできるとしたら何かやりたい目標を見つけることだと思っています。一人で考えていると難しいかもしれませんが、身近な人に相談すると案外簡単に見つかるかもしれません。

 これまで1か月に1回の腫瘍マーカーの採血と2~3か月に1度の画像診断の結果に一喜一憂してきましたが、昨年の8月からは腫瘍マーカーは右肩上がりで“一憂二憂”……という状況でした。そうなると、いつどのような症状が出るかいつも不安がつきまとい、当然ながら何もやりたくない気持ちになります。

 しかし、今日採血してわかった昨年の12月から始めた4次治療の結果では、腫瘍マーカーの値が半年ぶりに低下しました(ちょうど2か月前の値と同じくらいまで)。そうなると現金なもので急に身体が軽くなり、食欲が出るとともに仕事への意欲が急に湧きました。これで、少なくとも次の腫瘍マーカーの採血までは元気に活動ができるような気がします。そして、その結果がもっと下がることを願いながら、自分の目指すさらなる目標に向けて 邁進(まいしん) したいと思います。

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西村 元一(にしむら・げんいち)

 金沢赤十字病院副院長、第一外科部長。1983年、金沢大学医学部卒業。同大学病院教授を経て、2008年4月より金沢赤十字病院外科部長、09年副院長に就任。専門は大腸外科。日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器病学会など複数の学会の専門医・指導医。がんとむきあう会代表。15年3月、肝臓に転移した胃がんが見つかった。闘病前から温めていた「街中にがん患者が医療関係者と交流できる場所を」という願いを実現し、16年12月、金沢市内に「元ちゃんハウス」をオープンした。17年5月死去。がんとむきあう会のウェブサイトはこちら

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1件 のコメント

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素人の不安は楽なもの

すずめの父

私の主治医に言われました。「統計データで自分の病気を計らないでしょう」 5年生存率,10年生存率がどのような数値でも,自分のがんに向き合う姿勢は...

私の主治医に言われました。「統計データで自分の病気を計らないでしょう」
5年生存率,10年生存率がどのような数値でも,自分のがんに向き合う姿勢は同じです。(2月16日の読売新聞夕刊に全国がんセンター協議会のデータが掲載されました)
素人のがんサバイバーは,がんについての基本的知識を持っているだけで,病状の進行については無知です。腫瘍マーカーの数値にびくびくしていればよいので,楽な立場です。
西村先生は,病気の進行を多数,目の当たりにして,経験的知識が豊富です。その分,不安の種を多数(素人とは桁違い)お持ちと推測します。不安を払いつつ,このコラムを執筆くださっていると考えると,たいへんありがたく感じます。
次号を楽しみにしております。

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