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原記者の「医療・福祉のツボ」

医療・健康・介護のコラム

貧困と生活保護(46) 生活保護の不正受給率はごくわずか 未然に防げるものが多い

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市区町村には、給与・年金の情報がすべて届いている

 

 ここまで読んできて、なんだか不思議な感じがしませんか? 不正受給と言っても、大部分は稼働収入の無申告・過小申告と年金等の無申告であり、その大半は、市区町村が持つ税情報との照合、年金機構への照会といった定期的な事務作業で発覚しています。収入をごまかすために手の込んだ偽装工作をしていたわけではなく、簡単にばれているのです。

 なぜ、簡単にばれることをするのか? いくつかの原因が考えられます。

 ひとつは、給与や年金の情報が市区町村に届くことを、保護の利用者が知らないケースです。

 すべての事業主は、法人・個人を問わず、前年中に支払った給与について、「給与支払報告書」を作成し、1月1日現在の従業員等の住所地の市町村(東京23区内は各特別区)に提出する義務があります(地方税法317条の6)。

 アルバイト、パート、役員を含め、給与の額の多少にかかわらず、提出しないといけません(違反すると刑事罰がある)。所得税や住民税を源泉徴収するかどうかには関係ありません。

 また、公的年金や企業年金を給付する団体は、「公的年金等支払報告書」を同様に市区町村へ提出します。国税当局は、所得税の確定申告書の情報を市区町村へ届けます。市区町村は、そういった情報をもとに住民税の額を決めます。

 このデータは「課税にかかる資料」「税情報」などと呼ばれますが、たとえ課税されない額でも、給与や年金の情報は市区町村に入っているわけです。福祉事務所は少なくとも年1回、本人の申告内容と課税情報を照合する作業をします。今はコンピューターで自動チェックできます。年金機構には別途の照会もしています。

 不正受給の中には、少しのアルバイトやパートで税金もかからないし、役所にはわからないだろう、と安易に考えていたケースが、けっこうあるようです。

申告義務がしっかり伝わっているか

 

 もうひとつは、生活保護の利用者が、収入や資産の申告義務をきちんと理解していないケースです。

 保護開始の際、担当ケースワーカーは、保護利用者の権利と義務を伝える文書を渡し、口頭でもよくわかるように説明する必要があります。その内容を理解したという書面にサインしてもらって受け取るよう、厚労省は求めています。保護継続中も、同様の説明文書を年1回以上、世帯主と世帯員に配布するよう求めています。これらの説明の中には、収入の申告義務がもちろん含まれています。

 けれども、文書配布や口頭説明、書面提出が必ず実行されているとは限りません。いいかげんにやっている自治体やケースワーカーも存在するようです。実行されていても、利用者側がいろいろな書類や手続きにまぎれて、きちんと認識していない場合や、よくわからないまま、わかったと答えている場合もあります(たとえば軽い知的障害のある人は、そういう返事をしがち)。

 高校生のアルバイトは、申告して、学業の費用や進学資金など使い道の計画を示せば、収入認定されない(保護費が減額されない)ことが今は多いのですが、申告しないで後から税情報などで発覚すると、不正受給として扱われます。親の知らない間にバイトしていることもあります。だから世帯主だけでなく、高校生本人にも申告義務を説明するべきですが、不十分なことも多いようです。そういう高校生の無申告アルバイトも、不正受給件数の中に入っています。

 保護の利用中に障害年金、遺族年金、老齢年金などの受給を始めた時や、年金の増額改定がされた時も、すぐ申告しなかったり、うっかり申告を忘れたりするケースがあるようです。

不正は、まず未然に防ごう

 

 元大阪市ケースワーカーの松崎喜良・神戸女子大教授(公的扶助論)は「不正受給を見つけて摘発することより、未然防止に力を入れるほうがよい。『収入は必ず申告してくださいよ』と言うだけでなく、『給料や年金は少額でも支払報告書が提出されるから、必ず役所でわかりますよ』と伝えておくべきだ。年金は生活費用を確保する重要な手段だから、ケースワーカーが受給を手助けすべきなのに、年金の知識が足りないから、把握せずに不正を招いてしまう。悪質な不正をする人間もいるのは確かだが、定期的に家庭訪問して生活の実情を見ていれば、おかしいことに気づく。ケースワーカーの人数と資質が足りないせいで、そういう基本的な努力が不十分な自治体が多い」と強調しています。

 保護費を支給した後、税情報で申告のない収入を見つけ、不正の認定手続きをして、返還を求める。それには、かなりの手間がかかります。その時点では、返還できる資力が当事者にないかもしれません。そういうやり方より、税情報の仕組みがあることを保護利用者に周知しておけば、生活保護の不正受給は大幅に減り、そこにかけている職員の労力も減るはずです。

 不正受給に関しては、ほかにも論じるべき点があるので、次回も続けます。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士。大阪府立大学大学院客員研究員。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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