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原記者の「医療・福祉のツボ」

コラム

貧困と生活保護(46) 生活保護の不正受給率はごくわずか 未然に防げるものが多い

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 不正はいけません。あたりまえです。とりわけ、悪質で規模の大きい不正には厳しく臨む必要があります。生活保護の不正受給についても、それは当然です。

 とはいうものの、生活保護と言えば不正受給を連想するというような風潮が、あまりにも過剰に広がっています。まるで不正だらけのように言う国会議員もいて、実態とかけ離れています。生活保護の不正受給はごくわずかな比率だし、不正と扱われていても悪質と言えないケースは多いのです。

 神奈川県小田原市の生活保護担当課が「保護なめんな」などのローマ字が入ったジャンパーを作り、相当数の職員が着用していたことが問題になりました。保護の申請者・利用者を不正予備軍のように見て、不正受給防止を職員の主たる仕事のように位置づけるなら、本末転倒です。威圧的な姿勢は、助けの必要な人を阻む壁になります。他の自治体も、不正受給の実情を冷静に見つめ直し、職員のスタンスに問題はないか、この機会に点検するべきでしょう。

金額で見た不正受給率は0.45%

 

 厚生労働省は、2015年度(平成27年度)の生活保護の不正受給の状況を 全国厚生労働関係部局長会議 の資料(社会援護局詳細資料2)の中で公表しました。不正受給の件数は4万3938件、不正金額は169億9408万円(過年度の支出分を含む)。1件あたりの金額は38万7千円でした。これに伴う保護の停廃止は1万0587件。悪質性が高いとして刑事告発に至ったのは159件でした。約170億円というのは、軽視できない額です。

 とはいえ、15年度の保護費の総額は3兆7786億円(予算ベース)。不正受給額をそれで割ると、0.45%にすぎません。ごくわずかな比率であって、不正がはびこっているとは、とうてい言えません。逆に見ると、99.55%は、いちおう適正な支出だったわけです。

 保護世帯数は、15年7月末時点で160万2551世帯(被保護者調査)。不正件数をこの世帯数で割ると、2.7%(ひとつの世帯が複数の不正にかかわることもあるので、これが単純に不正率とは言えない)。36.5世帯に1件の不正があったというレベルの数字です。

細かな不正の発見が増えた

 

貧困と生活保護(46) 生活保護の不正受給率はごくわずか 未然に防げるものが多い
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 そうは言っても、不正が見つかるのは氷山の一角ではないか、という疑問が出るでしょう。たしかに、そこは重要な論点なので、いくつかの角度から検討していきましょう。

 まず、年次推移を見ましょう。厚労省の資料をもとに、不正受給の件数と金額(総額)をグラフにしたのが、図1です。2000年代に入って不正の件数も総額もどんどん増え、とくに11・12年度は大幅な伸びでした。しかし、13年度から件数は頭打ちになり、不正の総額は減ってきています。

 

 件数が増えたと言っても、2000年代は生活保護の利用者そのものが急増しているので、不正の程度がどれぐらいかは、比率を見ないといけません。それをグラフにしたのが、図2です(保護世帯数や保護費総額は、厚労省と国立社会保障・人口問題研究所の統計データを用いた)。

 不正件数を保護世帯数で割った比率は、しだいに上昇を続け、11・12年度に大幅に上がり、その後は微増ないし横ばいです。不正の見つかる率がだんだん高まったけれど、ここ数年は頭打ちということです。一方、不正総額を保護費総額で割った比率は、じわじわと上昇したものの、上がり具合はゆるく、13年度からは低下傾向になっています。また、不正1件あたりの金額は、どんどん減少が続いています。これらは、どういうことを意味しているでしょうか。

 簡単に言うと、細かな不正をたくさん見つけるようになった、あるいは細かい案件まで不正として扱うようになった、ということです。

 水面下に不正受給がたくさんあるわけではない、という判断も、このグラフから可能です。

 もし、発覚する不正が本当に氷山の一角であって、本格的な不正がそこらじゅうにあるならば、1件あたりの金額が減り続けるという現象は起きないはずです。いつまでたっても高額の不正が見つかるでしょう。不正の件数が横ばいなのに不正の総額は減り、1件あたりの金額がどんどん小さくなる。これは、どんどん細かなものを見つけ、不正として扱うようになったからです。

稼働収入の無申告・過小申告、年金の無申告で8割近くを占める

 

 次に、不正の内容を見ましょう。15年度の内訳を表に示します。いちばん多いのは稼働収入の無申告で、過小申告と合わせると58.9%になります。次いで各種年金等の無申告が19.0%。これらだけで不正件数の8割近く(77.9%)を占めています。

 生活保護世帯は、すべての収入を福祉事務所へ申告しないといけません。働いて得た収入があるか、年金・福祉給付があるのに、申告しないまま保護費を受け取ると、本来、収入に応じて減額されるはずだった部分が不正受給になるわけです。

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不正の9割は、税情報などの照会・調査から発見

 

 不正が見つかったきっかけは、下の表の通りです。照会・調査が89.2%と、大部分を占めています。福祉事務所が生活実態に疑いを持って照会・調査することもありますが、多くは、市区町村が持つ税情報との定期的な照合や、日本年金機構への定期的な照会によるものです。

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 これ以上の詳しいデータを厚労省は公表していません。総務省が14年8月に発表した「 生活保護に関する実態調査 」の結果報告書の中に、12年度の不正受給のデータ分析があるので、それを少し参照しましょう。12年度の不正受給は4万1909件。内訳は、稼働収入の無申告46.9%、稼働収入の過小申告10.6%、年金等の無申告20.8%と、15年度とほぼ同様です。

 そのうち監査報告書に個別事案が記載された6693件の分析によると、不正額は10万円未満が39.6%。10万円以上20万円未満が15.3%と、少額のものが目立ちました。発見のきっかけは課税調査(税情報)が59.7%、実施機関(福祉事務所)が28.6%。とくに稼働収入の無申告・過小申告は、81.8%が課税調査による発見でした。年金等の無申告は48.8%が課税調査、40.5%が実施機関による発見でした。年齢層や世帯類型で見ると、稼働収入の無申告は60歳未満・母子世帯・その他世帯に目立ち、年金等の無申告は60歳以上・高齢者世帯に目立ちました。

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原昌平20140903_300

原昌平(はら・しょうへい)

読売新聞大阪本社編集委員。
1982年、京都大学理学部卒、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、 科学部デスクを経て2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材。精神保健福祉士。社会福祉学修士(大阪府立大学大学院)。大阪に生まれ、ずっと関西に住んでいる。好きなものは山歩き、温泉、料理、SFなど。編集した本に「大事典 これでわかる!医療のしくみ」(中公新書ラクレ)など。

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