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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

コラム

身体拘束と隔離がまた増えた

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 「患者の人権」や「身体の自由」という現代人の当たり前の権利をあざ笑うかのように、10年ほど前から急増している身体拘束患者数と隔離患者数。昨年4月の当コラムでは、2013年の身体拘束患者数が10年前の2倍になったことを伝え、増加の背景などを探った。今回、2014年の結果がまとまったので紹介するが、またしても不名誉な記録が更新された。

 調査は、厚生労働省が精神保健福祉資料の作成のため、毎年実施している。精神科がある全国の病院から、6月30日時点の病床数や従業員数、在院患者数などの報告を受けて集計しており、国立精神・神経医療研究センター精神保健計画研究部などが、調査結果を生かした研究を行っている。

隔離患者数も1万人を突破

 2014年6月30日の調査日に、身体拘束を受けていた患者は1万682人。前年の1万229人を453人上回った。隔離患者数も、前年の9883人から211人増えて1万94人となり、過去10年で初めて1万人を超えた。

 身体拘束を受けていた患者を入院形態別にみると、ほとんどが医療保護入院で、2014年は8977人だった。複数の精神保健指定医が「自傷他害の恐れあり」と判断し、入院を強制された措置入院の患者は232人にとどまる。

 医療保護入院は、自傷他害の恐れはないものの、入院治療が必要と精神保健指定医が判断したのに、本人が同意しない場合に、家族らの同意を得て強制的に実行される。本人は入院したくないのだから、病院から出て行こうとしたり、引き留めようとする看護師らに抵抗したりすることもある。これは当然の拒否反応と考えられるので、医療者は患者の置かれた状況や心中を理解し、入院治療の必要性を分かってもらえるように努めなければならない。これこそ精神保健指定医や精神科看護師の腕の見せ所といえる。だが中には、根気のいる患者対応をおざなりにして、力づくの対応を行っているように見える病院もある。

それは患者虐待ではないのか

 安易な身体拘束は、病気の症状や周囲からの孤立で追い込まれた患者の心に更なる深手を負わせる可能性がある。長期の拘束は患者の体を衰弱させ、命に関わる病気を招くこともある。最近も、精神科病院で身体拘束中に生じた血栓が原因で死亡した、という患者の遺族から相談を受けた。悲劇は増すばかりだ。

 現在は症状が安定し、働いている患者の中にも、以前にかかっていた病院で身体拘束や隔離を受け、それが心の傷になっている人が少なくない。身体拘束を受けた経験がある男性は「まるで害獣のような扱いでした。身体拘束が治療に役立ったとはとても思えない」と語る。

 杏林大学保健学部教授の長谷川利夫さんは「身体拘束や隔離は患者の人権侵害につながる恐れがあるので、可能な限り減らそうと考えるのが当然だ。しかし、身体を簡単な操作で縛る拘束具の普及もあってか、安易な方向に流れる医療者が増えているように思う。拘束や隔離で治まる症状ばかりではないのに、これを治療と考えているかのような医療者もいる。患者の人権について、もう一度考え直さないといけない」と指摘する。

 身体拘束や隔離は、他にどうにもならない時にだけ行える最後の手段だ。「患者の安全のため」をお題目に、お手軽に行う傾向が強まっているとすれば、それはもはや医療ではなく、患者虐待と言えるのではないか。

 ある日突然、強制的に病院に入れられて、拘束や隔離をされたらどんな気持ちになるのか。医療者のみならず、我々も自分の身に置き換えて考えてみる必要がある。拘束されやすい認知症などの病気は他人事ではなく、明日は我が身なのだから。

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佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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