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小泉記者のボストン便り

医療・健康・介護のコラム

玉石混交なネット上の健康情報 米国の事情

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米国の現状―不正確なサイトは増加

Q:米国ではインターネット上の健康情報はどのように発信されていますか? WELQのような不正確な情報を発信するサイトを排除する仕組みはありますか?

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「正しい健康情報を受け取るためには多角的な対策が必要」と話すビシュワナシュ教授

ビシュワナシュ教授(以下A):科学的根拠のない健康についての情報が一部のマスメディアで報じられたり、人々の間に広まったりすることは昔からありました。ただ、インターネットが普及した現在は、その誤った情報が瞬時にたくさんの人に伝わってしまうという点で、問題が深刻化しているといえます。

 米国のシンクタンク・ピュー研究センターの2012年の調査によると、米国成人男女約3000人のうち8割が「インターネットを利用する」と答え、そのうちの7割は「健康情報をインターネットで検索したことがある」と答えています。米国には、国立衛生研究所(NIH)など公的な機関が一般の人向けにわかりやすく病気の概要や、最新の研究成果を紹介した良質な サイト が複数あります。しかし、現在ではインターネットのサイトを作るために特別なプログラミングの知識は必要なく、だれもが簡単にサイトを開設でき、信頼できるサイトよりも不正確な情報を掲載するサイトの方が多いと言わざるを得ません。商業目的のサイトも多く、不正確な情報を発信するサイトは今後も増え続けると思います。 

 米国では子どもへのワクチン接種について、自閉症との関連があるなど科学的な根拠に基づかない情報を提供し、不接種を呼びかけるサイトが問題になりました。ただ、表現の自由が徹底している米国では、間違いの指摘は相次ぎましたが、サイトの閉鎖にはつながらず、今もそれらのサイトは発信を続けています。

 仮にサイトが閉鎖に追い込まれても、多くの記事はすでに別のサイトに転載されており、すべての情報を消し去ることは不可能です。これもインターネットの大きな問題の一つといえます。このような状況に対応するために米政府が信頼性の高いサイトを評価した上で、市民に情報を提供する サイト もあります。この取り組みは、とても有効だと思いますが、すべてのサイトをチェックしきれないのが現状だと思います。

賢いインターネット利用者に

Q:正しい情報の発信が大切だということですね。情報を受け取る側が気を付けるポイントはありますか?

A:はい。ただ、このような状況の中では、正確な情報を提供するサイトを増やすだけでは、十分な解決策とは言えません。一つの情報だけに頼らず、多角的に判断をするために、情報を受け取る側の教育が不可欠だと思います。

 そのためには、まず情報を受け取る人がどのような行動をとるかを考える必要があります。もし、仮に私か、私の家族が病気になったとすると、グーグルやヤフーのような検索エンジンで病名を検索するでしょう。でも、検索の上位の情報だからといって、検索エンジンはその情報が正しいのかまでは教えてくれません。私は多分、友達や医師などに相談するでしょう。相談を受けた友達が、私に間違った情報を教えるかもしれません。また、一口に「健康」に関する情報といっても、必要な情報は、病気によっても違いますし、年齢や性別によっても全く違います。また、若い人はインターネットを使いこなしますが、お年寄りはそうはいかず、口コミの情報に頼るかもしれません。

 情報を受け取る人は、洗練されたインターネットの利用者にならなければなりません。ちょうど、製品を買うときと同じような態度が必要です。何か買い物をするとき、宣伝文句だけをうのみにせず、本当に良い製品なのか、実際に使った人の評価はどうなのか、慎重に調べると思います。それと同じで、健康についての情報を探すときにも「この情報を集めた人は誰なのか?」「その人にはどんな資格があるのか?」「商業的な目的ではないのか?」などと批判的に吟味することが必要です。そして、一つの情報だけに頼らず、かかりつけ医に聞いたり、別の情報を探したりして、慎重に判断することが必要になります。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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