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田村編集委員の「新・医療のことば」

ニュース・解説

「リキッド・バイオプシー」…血液でがんの遺伝子変異を診断

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液体による組織検査

 免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の登場が話題になった肺がん診療ですが、昨年末、もうひとつ大きな進展がありました。国内初となる「リキッド・バイオプシー」の診断薬が承認されたことです。

 バイオプシー(Biopsy)は「生体組織検査(生検)」と訳されます。がん細胞があるかどうかの検査は、通常は組織を採取して調べます。一方、リキッド(Liquid)は液体の意味で、ここでは血液を指しています。リキッド・バイオプシーは、「血液による生検」という意味です。

 白血病などの血液がんであれば、骨髄液などの「液体」を検査するのは普通です。ところが、肺がんや胃がんのような固形がんの生検を血液検査で行おうというのは、いったいどういうことでしょうか。

個別化治療を背景に

 リキッド・バイオプシーが開発された背景には、血中にわずかに存在するがんの遺伝子(遊離DNA)を検出できる技術の進歩がまず第1にあります。それに加え、遺伝子変異の有無によって効果が期待できる薬を使い分けようという個別化治療の普及が、その必要性を後押ししました。

 肺がん治療では、2002年に承認されたゲフィチニブ(イレッサ)を手始めにEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる分子標的薬が次々に登場しました。これらの薬はEGFR遺伝子に変異がある患者に対して効果を上げますが、課題は、使っているうちにやがて効かなくなる「耐性」が起きてしまうことです。

 そこに、第3世代のEGFRチロシンキナーゼ阻害薬として登場したのが、「オシメルチニブ」(タグリッソ)」です。国内では2016年3月に承認されました。

再生検の負担を軽減

 ゲフィチニブなどに耐性が生じた患者の50~60%には、EGFRの「T790M」という遺伝子に変異が起きているとされます。オシメルチニブは、このT790M変異をターゲットとした分子標的薬です。

 T790Mの変異はゲフィチニブなどの治療後に起きる2次的な変異であるため、オシメルチニブで治療するかどうかを決めるには、改めて生検を行う必要があります。ところが、対象となる患者は、そもそも、かなり進行した肺がんの患者です。通常は気管支鏡などを用いて組織を採取しますが、再生検は技術的にも難しいとされるうえ、状態の悪い患者にとっては体の負担にもなります。国内の研究では実際に再生検ができたのは対象患者の約8割という報告もあります。

 再生検を血液検査によって行うことができれば、患者の体の負担は格段に小さくて済みます。

コンパニオン診断薬

 ちなみに、特定の治療薬について効果のある患者のタイプなどを事前に調べる検査薬のことを、「コンパニオン診断薬」と呼びます(Companionは仲間、連れの意味)。分子標的薬の普及とともにコンパニオン診断薬がセットで使われることが増えています。

 T790Mの変異を調べる検査キット「コバスEGFR変異検出キット」は、オシメルチニブのコンパニオン診断薬です。2016年3月のオシメルチニブ承認とともに、まずは組織検査用として承認され、12月に血液検査用(リキッド・バイオプシー)としても承認されました。

精度向上が課題

 リキッド・バイオプシーは簡便で、患者の負担を軽減できる長所がある一方、限界もあります。組織検査で見つかっても、血液検査では検出できないことがあるからです。

 コバスの添付文書には、重要な基本的注意として、「腫瘍由来のDNAが血液中に十分に漏出していないため、腫瘍組織には変異が存在しても検出できない可能性が考えられる」こと、「そのため、血液検査を先に実施して結果が陰性だった場合には、可能な限り組織検査の実施を考慮して」ほしい旨が書かれています。

 血中に存在するわずかながんの成分をいかに効率よく、高い精度で検出するかという技術の開発が、これからの課題です。リキッド・バイオプシーは体に優しい技術として、今後さまざまながんに広がっていくことが考えられます。(田村良彦)

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田村 良彦(たむら・よしひこ)
1986年、早稲田大学政治経済学部卒、同年読売新聞東京本社入社。97年から編集局医療情報室(現・医療部)で医療報道に従事し連載「医療ルネサンス」「病院の実力」などを担当。2017年4月から編集委員。共著に「数字でみるニッポンの医療」(読売新聞医療情報部編、講談社現代新書)など。

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