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もっと知りたい認知症

コミュニティーで認知症予防に取り組む 小熊祐子さん (下)

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 慶応義塾大学の小熊祐子准教授のグループは、神奈川県藤沢市のコミュニティーにおいて、身体活動を活発にすることで認知症の予防を目指す試み「ふじさわプラス・テン」を続けています。自治会館などを拠点に、地域住民の身体活動を増やすため、住民やボランティアの協力を得ながら進めてきた手作りの研究とも言えます。研究室を出て地域に溶け込み、住民と一体になって健康長寿を支援するユニークな試みについて寄稿していただきました。

慶応義塾大学スポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授
小熊 祐子 氏

小熊 祐子(おぐま ゆうこ) 慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センター准教授

小熊 祐子准教授

 だれもが認知症にはなりたくない、と思っているはずです。しかし、長生きすればそれだけ認知症になる可能性は高くなるといわれています。現在、高齢者の4人に1人は「認知症」や「その予備軍」であるといわれています。高齢化の進展により、その率はさらに増大していきます。

 このような中で、身体活動が持つ認知症の予防効果が注目されています。身体活動とは、 スポーツ・運動のみならず、 仕事、 移動、 家事・子育て、 余暇などすべての動きを指します。

 高齢化が加速する日本では、 政府の健康・医療戦略において、 東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに国民の「健康度」を高め、 健康寿命を今より1年以上延ばすことが目標とされるなど、 身体活動への注目度が高まっています。

 私たち慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科では、 神奈川県藤沢市と慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスの協力協定(2009年10月)をもとに、市民の身体活動増加を図るべく、 市の健康増進課、 公益財団法人藤沢市保健医療財団と連携して、「ふじさわプラス・テン」として多面的な取り組みを行っています。%e8%97%a4%e6%b2%a2%ef%bc%91

 その取り組みの一部として、週1回以上集まって運動をしている地域の高齢者を対象に、小さなグループ単位で体力や身体活動量、認知機能をチェックし、アンケート調査も行いながら、活動を支援・追跡しています。この研究には、現在までに200名近い方にご協力を頂きました。小グループの多くは活動を開始して半年から1年を迎えており、既に 地域の中で定着してきています。

 活動を継続している皆さんからはこんな声が届いています。 

 「プラス・テン体操に参加して知り合いが増え、あいさつもするようになった」

 「仲間がいることが外に出るきっかけになるし、生きがいになる」

 「身体を動かす楽しさをグループで共有できた」

 「いたわりの気持ちが出てきた」

 「集まって運動することが楽しい」

 「住みやすいまちづくりを目指すために話し合う機会が増えた」

 「口コミによってグループの活動に参加する人が増えた」

 私たちが考案したふじさわプラス・テン体操(以下、プラス・テン体操)とは、柔軟性運動、有酸素運動、筋力増強運動、バランス運動を組み合わせた10分間の運動プログラムです。ナレー%e8%97%a4%e6%b2%a2%ef%bc%92ションの解説付きで、なじみの童謡に合わせてカラダを動かすことができます。

 また、研究にご協力頂いている方に「チャレンジ応援カード」を配布しています。プラス・テンについての説明、運動の解説のほか、プラス・テンを実施した日を管理できるカレンダーがついています。実際にカードを活用して下さっている方に活動記録を見せていただくと、継続的に、元気にカラダを動かしていらっしゃることが分かります。

周りの人とかかわり続けることが大切です

 %e8%97%a4%e6%b2%a2%ef%bc%93ご近所の方やご友人と会い、お話をしたり 一緒に何かしようとしたりする時には、 脳が活発に働き始めます。ただ外に出るだけではなく、 コミュニケーションが生まれる場に出向くこと。さらに、そのような場をつくることも脳への刺激になり、認知力のアップにつながっていく、と言われています。

 実際、私たちの研究に参加して下さっている運動グループの皆さんは、 自治会館等に集まり、スポーツ吹き矢やラジオ体操、脳トレ、カラオケとあわせてプラス・テン体操を実施するサークルや自治会で活動されています。

 %e8%97%a4%e6%b2%a2%ef%bc%94また、 誰しも興味があることには、集中して取り組みやすくなるものです。脳の働きも高まりやすくなると言われています。さらに、 頼られること、 期待されることで自信がついて、活動を継続することにもつながります。

 それぞれの運動グループの中には、リーダーやリーダーを支える協力者などの役割を担ってくれる方々もいます。このように、みんなで集まって何か好きなことや運動を継続して実施し、かつ グループの中で役割を持つことが、 継続的に認知力をアップさせるトレーニングになっているのかもしれません。

認知症になっても幸せな人生を送ることができる地域に 

 私たちの活動は、 認知症の予防を意識しています。 だからといって、認知症になってしまったらなすすべがない、という意味ではありません。認知症の方への理解を深め、住み慣れた地域で暮らせるような社会基盤を作ることにもつながる活動を目指しています。

 2016年7月には、 第3弾となる「ふじさわプラス・テン」の公開講座(主催:慶応義塾大学大学院健康マネジメント研究科、 藤沢市、公益財団法人 藤沢市保健医療財団、後援:公益社団法人 藤沢市医師会)を慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスにて開催しました。テーマは「プラス・テンを知る 認知症を知る〜地域のつながりを大切に〜」としました。  

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 医療法人 篠原湘南クリニック理事長の篠原裕希先生による特別講演「地域で取り組む認知症対策〜認知症になっても住み慣れた場所で暮らせる社会を目指して〜」では、認知症を「ポジティブ」なものとして捉え、認知症になった人が住み慣れた環境で暮らすための対策について紹介しました。

 誰もがなり得る病気であることなど、認知症についての正しい知識が普及し、 地域社会が認知症の方やその家族を適切に支援することができれば 、住み慣れた地域で自分らしく暮らしていくことができるはずです。厚生労働省も「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)でも認知症の方にやさしい地域づくりの構築を目指しており、私たちの望む方向と一致しています。

 地域を対象に健康づくりに取り組む他の研究グループとも連携して、次のアクションに繋げたいと考えています。ホームページでも情報提供・ツール類の提供を行っています。ご興味を持っていただいた方は、ぜひご覧ください。%e8%97%a4%e6%b2%a2%ef%bc%96

 

【プロフィル】 小熊 祐子(おぐま・ゆうこ)氏
慶応義塾大学スポーツ医学研究センター・同大学院健康マネジメント研究科准教授

【略歴】1991年慶応義塾大学医学部卒。同医学部内科助手、スポーツ医学研究センター助手を経て、2005年より現職。医学博士。02年、公衆衛生学修士(ハーバード公衆衛生大学院)。13年より神奈川県藤沢市で「ふじさわプラス・テン」の活動を始めた。地域住民と一体になって身体活動を促し、認知症の予防を目指す小熊准教授が代表を務める研究(「身体活動コミュニティ・ワイド・キャンペーンを通じた認知症予防介入方法の開発」)を、日本医療研究開発機構(AMED)の委託研究開発事業として展開している。専門はスポーツ医学、運動疫学。共著「サクセスフル・エイジング 予防医学・健康医学・コミュニティから考えるQOLの向上」(慶応義塾大学出版会)、論文「身体活動と健康 アクティブガイドを活用して」(KEIO SFC JOURNAL Vol.14 No.2 2014)などがある。

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