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訪日観光客、お寺でお香…視覚と嗅覚 感動深める

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 お寺でお香を体験するプログラムが、来日外国人らに静かな人気だ。日本の伝統文化に触れるだけでなく、視覚と嗅覚が同時に刺激されることで、体験の感動や印象が深まる効果もあるようだ。

訪日観光客、お寺でお香…視覚と嗅覚 感動深める

お香の香りを「聞く」外国人旅行者ら(東京都品川区の常行寺で)

 昨年12月中旬、東京都品川区の常行寺。4人の外国人旅行者らが、湯飲みのような形をした香炉を順番に鼻に近づけ、じっくりと香りを味わう。香炉には 沈香じんこう という香木の小さな切片が入っている。火を直接当てて香木を焦がさないように、火のついた炭を灰の中に埋め、さらに灰の上に置いた雲母の板に香木を載せる。熱で立ち上ってくる香木のほのかな香りを楽しむ趣向だ。

 「香道」と呼ばれる、茶道や華道と並ぶ日本独自の芸道で、香りを「嗅ぐ」のではなく、「聞く」という。参加者は香りを聞いて、言葉に表現してみるよう促された。南アフリカから友人と来日したフランソワ・ヨンカーさん(31)は「病気の子どもを看病している時のような温かい気持ちになった」と表現した。ドイツ人で日本在住のウルスラ・ルーさん(58)は「お風呂につかっている時のようなリラックスした気分になった。香りから自分の内面を見つめる体験は初めて」と語った。

 能や三味線など様々な日本の伝統文化の体験イベントを企画・開催している佐藤多津子さん(52)が、民泊仲介企業から外国人向けプログラムの提案を受け、昨年11月から始めた。今回で3回目。香木は仏教とともに伝来したとされるため、お寺を会場に選び、知人で常行寺副住職の 友光雅臣ともみつがしん さん(33)の了解を得た。

 佐藤さんは「香道があまり知られていないように日本人自身が日本文化を軽んじている傾向がある。海外から関心が高まって、日本人が香道を見直すきっかけになれば」と期待をかける。

 香道体験の前には、友光さんが、お香を口に含んだり、手などに塗ったりして体の内と外を清める作法や数珠の持ち方などを指導し、寺の開山から現在までの歴史を解説。参加者に願いを書いてもらい、釈迦に届くようお経をあげた。友光さんは「日本や日本人を理解し、受け止めようとする姿勢が伝わってくる」と話す。この日は3日間のプログラムの最終日で、参加者は初日にお香の歴史の説明を受けた。2日目はお香の販売店で原料の香木に触れ、線香作りに挑戦した。

 奈良市の薬師寺に事務局を置く公益財団法人「お香の会」は毎月、同寺と東京・品川の別院、名古屋市の3会場で香道の講習会を開いている。5、6年前から来日外国人からの香道の体験要望が寄せられるようになり、年に4、5回は、外国人向けに香道の体験会を開催。参加者からは「日本の精神文化に触れることができた」と好評という。

 金沢市の宝勝寺では、お香を楽しみながらコーヒーやお茶、和菓子を味わえる「寺カフェ」を2014年1月にオープンし、外国人観光客に人気だ。

 香りと心の関係に詳しい古賀良彦・杏林大学名誉教授は「嗅覚は原始的な感覚で、安全か危険かなど人の気持ちに一瞬で影響を与える。視覚と同時に嗅覚が刺激されると、景色や人の印象が情緒的に強まり、感動や記憶が鮮やかに残ることが期待できる」と話す。

  ◆メモ   香木と香道  木の間にたまった樹脂を熱すると香りが出る沈香と木自体が香る白檀(びゃくだん)などがある。仏教とともに6世紀頃に伝来したとみられ、平安時代は貴族が衣服に香りをつけて利用。武家の台頭に伴い、香りそのものをたしなむ文化が生まれ、江戸時代に現在の形となった。(原隆也 写真も)

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