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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

妊娠中もゆるっと食生活を楽しみましょう(2)

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妊娠中もゆるっと食生活を楽しみましょう(2)

お正月には帰省して、横浜中華街に行きました。ごまだんごがおいしかった

 妊娠による自分の体の変化についていけず、体重管理に悩まされるのは、管理栄養士も同じです。私には管理栄養士の友人がたくさんいますが、「妊娠中にかなり体重が増えちゃった」と苦笑いする人も多く、栄養学の知識や技術があったとしても、必ずしも自分自身の体重管理ができるとは限らないのです。

 今回は、私自身の妊娠中の体重変化の記録をもとに、8年前に遡って検証してみたいと思います。

 「妊娠期の適正な体重増加量」については、「日本人の食事摂取基準2015年版」(※1)の中に、これまでの研究についてわかりやすくまとめられています。アメリカやデンマーク、中国、日本での研究結果をもとに、妊娠中の体重増加量が出生児の体重に与えるリスクについて解説されています。例えば、妊娠中に体重が増えすぎると、小さい赤ちゃんが生まれるリスクは低いけれど、大きすぎる赤ちゃんが生まれるリスクが高くなることなどが挙げられています。

 妊娠中の体重がおなかの赤ちゃんに影響するというのは想像に難くないと思いますが、自分の体重をコントロールすることは可能でも、おなかの中の赤ちゃんの体重まではコントロールできないのが難しいところです。だからこそ、なるべくリスクを低くするために努力が必要なのだと思います。

 厚生労働省からは「妊娠期の至適体重増加チャート」という指針が出されています(※2)。妊娠全期間を通しての推奨体重増加量は、妊娠前の体格が「やせ」の場合は+9~12kg、「ふつう」の場合は+7~12kg、「肥満」の場合、「個別に対応していくこと」とされています。私の場合、妊娠前の体重が45kgで、体格指数(※3)で分類すると「ふつう」に分けられます。したがって、+9~12kgまでが体重増加の目安となります。

 妊娠すると、家族や親戚、友人、知人から「赤ちゃんの分まで食べないとね」と「悪魔のささやき」が聞こえてくることがありますが、妊娠中に余分に摂取する一日のエネルギー量の目安は、初期50kcal、中期250kcal、後期450kcalです。毎回の食事に振り分けると、後期でも一食150kcalですので、赤ちゃんの分までと毎回2人前を食べていたらすぐに体重が増えてしまいます。

 私は、つわりの時期であった妊娠11週から15週くらいまでは、空腹になると気持ちが悪くなる体質だったので、常に食べ物を胃に入れていないと仕事もできない状況でした。妊娠7か月頃からは、早産の危険性が高い状態である「切迫早産」という診断を受け、仕事はドクターストップとなり、日中はソファで横になる生活が始まりました。活動量は減っているのに食欲は治まらず、妊娠後期になるとポテトチップスや菓子パンを食べたい衝動に駆られました。食事には気を使っているのに、妊婦健診のたびに体重が増えていくのを見て、「空気を吸っているだけで太っていく」などと、管理栄養士らしからぬ言い訳をしていたのです。グラフを見ても、27週(7か月)から出産する39週(10か月)まで、グラフの傾きが急激に増加しているのがわかります。

 そこで、妊娠後期からの食生活で以下の3つを工夫しました。

  1. こんにゃくゼリーなどで空腹感をしのぐ。
  2. 食材を大きく切って料理する。
  3. 作る過程に時間をかけて、食生活を楽しむ。

 間食を我慢できないときには、エネルギーの少ないこんにゃくや寒天でおなかを満たし、食材を大きく切ることで、必然的にかむ回数を増やし満腹感を得やすくします。さらに、食事の時間に合わせて手作りパンを焼き上げ、「食事として」焼きたてふわふわのパンを食べることで、「菓子パンを食べたい」という気持ちを克服しました。

 もしも、妊娠中に腎症や糖尿病などを発症した場合でも、食材の選び方や調理の仕方によって、食生活を楽しむ方法はいくらでもあります。妊婦さんの食事指導に関わる方にお願いしたいのは、「〇〇は食べてはならない」という画一的な栄養指導ではなく、「〇〇を食べるためにはどう工夫すればいいのか」というアドバイスです。

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 さて、私の体重は最終的に+10.6kgの増加となり、「推奨体重増加量」の範囲の中に納まりました(グラフ写真参照)。しかし、出産直前まで母子ともに順調であったとしても、生まれるまで何が起こるかわかりません。適正体重であることが、統計的にはリスクを減らすとは言っても、絶対大丈夫との保証はありません。それだけ「お産は命がけ」なのだと、体験してみて初めて分かりました。

 無事にお産を終えた私は、それまで抑えつけていた食欲が爆発しました。主人に「何か食べたいものはある?」と聞かれ、「ドーナツを買ってきて!!」と即答。出産から6時間後にはドーナツを むさぼ っていました。すごいスピードでドーナツにかぶりつく私を見て、主人は少し引いていました。2~3個を一気に食べたのを覚えています。

 まるで仕事のあとの冷えたビールのように、ホイップクリームとチョコレートたっぷりのドーナツは最高に 美味おい しかったです。

 産後はすぐにおなかが元通りになるのかと思っていたら、産後1週間ほど っても妊娠6か月くらいの頃のおなかとあまり変化がなく、「これが、赤ちゃんじゃなくて私についてしまったお肉なのね……」と落ち込んでしまいました。しかし、落ち込んでいる暇はありません。

 初めての育児、深夜の授乳、細切れの睡眠……体重グラフは、産後2か月で途絶えています。よく覚えていませんが、自分のことよりも赤ちゃんのことで手いっぱいだったことがうかがえます。

※1 日本人の食事摂取基準2015年版 菱田明 佐々木敏監修 第一出版

※2 厚生労働省「健やか親子21」推進検討会「妊娠期の至適体重増加チャート」

※3 体格指数:BMI=体重(kg)÷(身長m) 

18.5未満は「やせ」18.5~25未満は「ふつう」25以上は「肥満」

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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