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医療・健康・介護のニュース・解説

[展望 2017]「患者ファースト」の理念

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医療部長 山口博弥

[展望 2017]「患者ファースト」の理念

 「医療は独立して存在するのではなく、人の生活の中にある」

 8年前、1面連載「長寿革命」を取材した時、国立長寿医療研究センター名誉総長(当時は総長)の大島伸一さんはこう語った。

 この言葉は、阪神や東日本の大震災、昨春の熊本地震など、災害時を思い起こせば理解しやすい。まずは安心して過ごせる住まいと食事。次に家族や地域住民ら周囲の支え。これらがしっかりと存在してこそ、医療は有効に機能する。

 大島さんは言葉を続けた。

 「医療者と介護者、行政、住民らが役割分担し、連携して、高齢者を地域で支える。『治す医療』から『支える医療』への転換が必要です」

 国は今、地域ぐるみで高齢患者を支える「地域包括ケアシステム」の構築を進めている。この考え方をベースに病院の病床数を再編する「地域医療構想」を、全都道府県が今年3月までに策定する見込みだ。4月からはいよいよ実行段階に入るが、病院同士の利害もからみ、病床の調整が難しい地域もあるという。

 日本人の平均寿命は男性80歳、女性87歳を超え、過去最高を更新した。今後、複数の病を抱えて長生きする高齢者が増え、従来の専門分化した医師だけでは対応できなくなる。が、患者全体を診られる総合診療医と臓器別の専門医を地域にどう配置すべきか、具体的な道筋は見えない。

 昨年9月、久しぶりに会った大島さんの言葉からは、いらだちが感じられた。

 「医療者、大学、行政。それぞれが何をやるべきかは見えているのに、利害がぶつかり、なかなか動かない」

 今、各分野の当事者が問題を解決する上で必要なのは、利害を超えた「患者ファースト」の理念ではないか。

 がん、認知症対策、終末期医療の質の向上など、課題は山ほどある。ゲノム(全遺伝情報)や人工知能(AI)といった先端科学の医療への導入も研究が始まっている。

 喫緊の課題は、増え続ける国民医療費の抑制だ。近年、がん治療薬オプジーボなど超高額な新薬が続々と登場した。今年8月には、高額療養費制度で定める医療費の自己負担額が一部で高くなる。

 「人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金だ」。喜劇王チャールズ・チャップリンの有名なセリフだが、これからも「少しのお金」で誰もが満足な医療が受けられるのか、雲行きはいささか怪しい。どんな医療を選び、どう死ぬか――。喜劇王のセリフに「死生観」も加えるべき時代になった。

 だからこそ、長期連載「医療ルネサンス」の今年の年間企画テーマは「いのちの値段」とした。医療とお金を軸として、患者の選択や葛藤、取り巻く社会状況を、現場から多角的に伝えていくつもりだ。

 今年4月は、医療部の前身である医療情報室の設立から20年。9月には、医療ルネサンスが始まって25年、四半世紀という節目を迎える。これからも医療の最前線に足を運び、「患者ファースト」の記事を届けていきたい。

 〈医療部〉 最新の治療法や医療政策など医療・健康問題を取材する専門部署。長期連載「医療ルネサンス」や「病院の実力」を担当。部員は21人。

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