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子供の視力、過去最悪…スマホやゲームだけが原因か?

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子供の視力、過去最悪…スマホやゲームだけが原因か?

 文科省が発表した2016年学校保健統計調査(速報)によりますと、裸眼視力1.0未満が、小学生約31.5%、中学生約54.6%、高校生が約66%といずれも前年度比で増加し、1979年の調査開始以来ほぼ上昇を続け、過去最高を記録しました。

 文科省は「スマートフォンやゲームなどの画面を近くで見ることが、生活習慣になっている影響が考えられる」とコメントしました。

 このコメントに何となく納得してしまう人は多いのだろうと思います。しかし、それでそのまま流してしまってよいのでしょうか。

 この調査では、裸眼視力の低下を指摘していますが、近視化なのか、乱視化なのか、遠視化なのかの情報はないし、そうした屈折は変化していないのに裸眼視力が低下しているという可能性も捨てられません。また、通常は測定しない近方視力は、いったいどうなっているのかも、眼科学の立場からは問いたいところです。

 つまり、文科省のコメントは十分な科学的根拠を持って出てきたものではなく、何となくそういえば万民が納得しそうな、あたりさわりのないものとして出てきたのでしょう。

 しかし、目は心身の窓です。

 簡単に看過してしまってよいものではないでしょう。

 スマートフォンやゲームがもし原因だとしたら、いったいそれによる何がいけないというのでしょう。近くを見ている時間が長すぎるということでしょうか、それなら、読書をたくさんし、勉学にいそしんでいることと、どこが違うのでしょう。それともスマートフォンやゲームが普及したため、子供が外で遊ぶなどの時間が減少したこととの関係が、より強いのではないかという推定もあるかもしれません。

 いずれも、仮説を立ててきっちり検証しないと、わからないことです。

 こういう調査をきっかけに、現代の子供たちの生活習慣が、成長や健康のためによいのか、よくないのかを明らかにすることは、大人の責任、ひいては国の責任ではないかと思います。

 また、今回は視力に関する調査結果の解釈ですが、視覚に表れる変化は、医学的にも脳機能や、精神の成長と関連付けられるものでもありますから、さらに深読みする必要もあるのではないでしょうか。

 例えば、以前このコラムで触れましたが、小児の発達障害はここ20年で5~7倍に増加しているというデータがあります。不登校者の減少はこの間まったくみられず、小児の非器質的視力障害者(眼球や視路に病変はないのに、視力検査上視力が出にくい者)では、不登校や学校嫌いがかなり多いことも報告されています。

 こうしたことが、子供のスマートフォンやゲームの使用が一因にもしなっているとすれば、教育界、いや日本国の文化、環境の問題になるはずです。

 このように、日本社会に非常に大きな影響を及ぼし、検証結果によっては、単なるコメントではなく、より強制力のある使用指針や注意を出さなくてはいけない重要な問題です。小さな研究グループや、単一の研究施設でできるはずはありません。

 年寄りの単なる懸念、深読みではないのです。

 国家プロジェクトとして、多角的に研究し、結論を出してゆくべき大問題だと考えます。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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