安心の設計
介護・シニア
遠距離介護へ広がる支援
管理職世代の離職に歯止め
遠く離れて暮らす親の介護が必要になった時、今の仕事を続けられるのか――。多くの社員が抱える不安を解消し、介護離職を防ぐ取り組みを始める企業が増えてきた。実家など会社以外の場所で働く「テレワーク」の体験プログラムや帰省費用の補助など、多様なサポートが広がっている。
■ 両立を体験
「遠距離介護は自分で抱えすぎないことが大事。おむつ交換やお風呂介助は介護の専門家に任せて」
東京・大手町の人材派遣大手、パソナ本社。約20人の社員がケアマネジャーの講演に聞き入っていた。対象は親が遠くに住む人。同社が昨年11月から社員向けに始めた「介護帰省テレワーク体験プログラム」の一環だ。
参加者は、介護制度や仕事との両立のポイントを学んだ後、会社の費用で平日に帰省し、実家や近くの支店でパソコンなどを使ったテレワークを実践。「介護が必要になったらどうしたいか」を親と話し合ったり、地元の介護サービスを調べたりもする。
育児と違い、急に直面することも多い介護では、焦って「両立できない」と思いこみ、退職してしまうケースもある。そのため、あらかじめ準備をするきっかけを作り、介護休業やテレワーク制度を利用しやすい雰囲気を社内に育てるのが、プログラムの狙いだ。今後も、年2回ほど行う。
参加した営業担当のゼネラルマネジャー、山岡博文さん(58)は、福岡県内の実家で母親(84)が一人暮らし。要支援1で、今は日常生活を自力で送れているが、「いざという時、どこに相談してよいか分からなかった」という。プログラムで帰省する前は、「テレワークはやったことがない」と不安だったが、体験してみると考えが変わった。
木曜日は東京で仕事をし、夕方から帰省。金曜日の朝は実家から50分ほどの北九州支店に出社し、メールや電話で打ち合わせをしたり、北九州市の営業先を訪ねたり。「東京にいなくてもできる仕事がたくさんある」と気付いた。
土日には、かかりつけ医や通帳の場所などを母親に確認。じっくり話し、施設希望だと思っていた母親が、本音では「最期まで家にいたい」と願っていることも分かった。担当のケアマネジャーや山口県に住む兄にも会い、「介護で仕事を辞めないといけないかなと思っていたが、両立のイメージがわいた」と話す。
総務省の調査では、テレワークの導入企業は2013年の9.3%から15年には16.2%に増えている。コニカミノルタジャパン(東京)は昨夏から原則、紙での書類保管を禁止。電子データ化し、テレワークでパソコンなどを使って閲覧できる体制を整えた。
■ 交通費補助も
ほかにも、様々な支援策が広がってきている。
遠距離介護で大きな負担となる交通費について、大和ハウス工業(大阪市)は15年度から、年4回まで、距離に応じて1回あたり1.5万~5.5万円を補助する制度を始めた。ヤフーは昨年10月から、「実家で介護をしたい」といった社員からの声を受け、月額上限15万円まで新幹線通勤代を支給している。静岡駅や越後湯沢駅(新潟県)などからなら、交通費の自己負担なしで東京の本社に出勤できるという。
仕事と家庭の両立に詳しい中央大の佐藤博樹教授は、「今後、団塊ジュニアが親の介護に直面する時代に入ってくる。企業にとって管理職世代の離職は大きな問題で、介護保険制度や介護休業の利用方法についての情報提供や残業削減など働き方改革が急務だ」としている。
(田中ひろみ)
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