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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

非福祉国家の道、堂々と歩む? 障害者対策の支出が少なすぎる日本

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非福祉国家の道、堂々と歩む? 障害者対策の支出が少なすぎる日本

 日本の視覚障害の基準は、視力と視野とに偏ったもので、実際には日常生活に極めて不都合な視覚障害を持っていても、この基準に入らないと認定されないという矛盾を、このコラムでも私の経験している実際例も挙げながら、たびたび指摘してきました。

 そういう症例を、米国医学学会が身体障害者判定基準に採用し、国際眼科学会でも推奨して多くの国が採用している「機能的視覚スコア(FVS)」という基準にあてはめると、WHO(世界保健機関)でいう「ロービジョン」の範囲に該当する例が少なくありません。

 この基準は、「機能的」という言葉に表れているように、日常生活の不都合さにも着目してスコアしたもので、視野でも下半分を重視し、複視や 開瞼(かいけん) 困難など視力、視野の数字には表されない障害にも、十分とはいえないまでも配慮しています。

 日本がこれをなかなか採用しようとしない理由の一つは、社会福祉費の拡大が困るからかもしれません。

 私は2010年に 上梓(じょうし) した、「三流になった日本の医療」(PHP研究所)の中で、社会保障や医療費などの社会支出合計値の一般政府歳出に占める割合が、日本は、アメリカ、カナダなどとともに5割を割っていて、いわゆる先進国の中では非福祉国家の最たる位置にあることを指摘しました。この傾向は、今もあまり改まってはいません。

 日本における高齢化社会はその後も継続し、総務省の発表によりますと、65歳以上の高齢者は平成28年9月18日現在、27.3%と、経済協力開発機構(OECD)諸国の大半が10~20%に入り、25%以上は一国もないのに対し、群を抜いて高い比率です。

 2015年発表の社会保障給付費率の国際比較を見ますと、日本の高齢者福祉費(年金など)の比率は、高齢化率が20%以下のフランスやオーストリアと同程度であり、高齢率の割に対策がされていないことが見て取れます。

 高齢化率が高ければ、それに応じて社会支出が上がらなければ、国民の生活水準は保てないのは理の当然です。

 にもかかわらず、先ごろ発表された2017年度予算案では、社会保障費は1.6%の微増にとどまり、相変わらず堂々と非福祉国家の道を歩んでいます。

 さらに、特筆すべきことは、日本では障害者への対策費用が諸外国との比較でも、極めて乏しいことです。

 「財源がない」というお題目を唱えられると、そうなのかと我慢してしまうのが、日本人の国民性で、美徳といえるのかもしれません。しかし、そうした弱者への支援を手厚くすることに、税の無駄遣いだと異を唱える人はまずいないでしょう。

 病者や障害者は高齢者に多いのは自然の摂理です。彼らは、子供や高齢者よりもさらに弱者であることを、もう一度認識してほしいし、障害者対策の支出が少なすぎるという国家予算のバランスの悪さを、国は直視して、改めていってほしいものです。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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