文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

資生堂ニュースで考えた、「パートナーと親友でなにが違う?」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

資生堂も認めた同性パートナー

 資生堂が9日、社員の同性パートナーを配偶者として処遇し、福利厚生の対象にするよう社内規定を改めたことを明らかにしました。国内化粧品大手では初めてとのことですが、正直、この種のニュースもだいぶ耳慣れてきました。数年前には予想もつかなかった、「ぜいたく」な感想かもしれませんが(苦笑)。

 報道によれば、パートナーは行政が発行する証明書か、住居を共にしていることを証明できるなんらかの書類(同一住所の住民票など)で確認し、介護・育児休暇、慶弔見舞金、転勤した際の別居手当の支給があるそうです。パートナーを介護したり、相手の連れ子のための育児休暇が取れたりするほか、相手の親の死亡時などにも香典が支給されるのでしょう(忌引きも取れるのかな?)。別居手当は、転勤先からの週末帰宅などへの交通費補助でしょうか。これもありがたい。

 同社はもともとLGBT研修や当事者への就活支援にも積極的で、女性活用ともどもダイバーシティー(多様性)強化の一環とのこと。さらに、欧米ではLGBT配慮策の有無を取引条件に加える企業の増加や、消費者も社の姿勢を商品購入の判断材料にする傾向もあるところから、こうした制度の導入はグローバル展開上も欠かせないと判断したそうです。実に合理的な経営判断だと思います。

 私とてこのニュースに異論のあろうはずはなく、「資生堂、イイネ!」と一押しする気持ちは変わりません。しかし、それだけでは単に「いい話」の紹介で終わってしまいます。虹色百話としては、ここからもう少し考えてみたいところ。

 実際こういうニュースを聞くたびに、パートナーってなんだろう、なぜパートナーだと福利厚生、加重手当が支給されるのだろう、さらには同性婚の制度があれば法的保護の対象になるのだろう、という疑問も浮かばないわけではないのです。

「パートナー」と「親友」ではなにが違うのか?

 ニュースによれば、パートナーの認定は同居が要件とか。提示する自治体の証明書も原則、同居カップルに発行されていますし、証明がない場合も同一住所の住民票で証明するようです。

資生堂ニュースで考えた、「パートナーと親友でなにが違う?」

 では、同居していればパートナーなのでしょうか? 逆に、同居をしている親友では、なぜ申請できないのでしょうか?

 「パートナーと親友は違うでしょう」ですか? どう違うのでしょう。たしかに私もパートナーと親友ではなにかが違うと思います。しかし、それを分けるものがなんなのか、よくわかりません。

 生計同一が条件? 友人と家計をシェアして共同生活する人もいます。

 映画のタイトルにもなった親密性(Intimacy)がポイントでしょうか。でも、お互いを生涯の親友とみなす2人がいて、そこに親密性がないとはいえません。

 「親友とはセックスしないでしょう」……。たしかに性愛の有無が、パートナーと友人を分ける視点はありそうです。しかし、セックスレスとなった夫婦や同性カップルはいくらでもいます。セックスがないからもはやパートナーではない、とはいえないでしょう。性の多様性の視点に照らせば、アセクシュアル(無性愛)を自認する人は、そもそも誰ともパートナーシップを結べないのでしょうか? 

 子どもの有無が指標にならないのはもっと明らかで、子のないパートナーシップもあれば、親友と子育てする共同生活もありそうです。

 私自身この3年、同性カップルのための公正証書作成のなかで、戸籍上はたしかに同性カップルですが、さまざまなパートナーシップがあることを知りました。本稿の冒頭に紹介したようなニュースがあると、社会の同性愛カップル認知が進んだと思いがちですが、カップル当事者のなかでは性自認的にはトランスジェンダー傾向があったり、性指向の点ではパンセクシュアルとかアセクシュアルとおっしゃる方もいたり、むしろゲイカップルとかレズビアンカップルと (くく) られることに内心の抵抗を覚える人もいます。

 また、高校生のときからの「親友」で、そのまま20年なぜか生活を共にし、今後も一生を共にするだろうという確信から、私に書類の作成を依頼されたカップルもいました。深くは立ち入りませんでしたが、「はずみ」程度のことはあったとしても、性愛関係というほどのものはこれまでなかったとお見受けしました。しかし、もちろんお二人は「ライフパートナー」以外のなにものでもありません。

 こうした多様な人びとに接すれば、パートナーって多彩だな、パートナーってなんだろう、どうしてパートナーにだけ特別の保護が与えられるのだろう、との疑問もわくのです。

複数人のパートナーシップは可能か?

 さらに考えれば、パートナーシップをなぜ2人に限定するのか、という思いもあります。

 こう言うと、複数人による「乱交パーティー」などを想像して眉をひそめる方がいるかもしれませんが、複数間での性愛関係を実際にもつかどうか、それが精神的にも安定的に持続できるかどうかはともあれ、複数人によるパートナーシップという形態を考えることはできるでしょう。

 私はそれを「家族法人」などと呼んでみていますが、グループでの共同生活を志向し、メンバー相互での財産管理の代理や療養看護の世話の権利、さらには死亡時の相続や死後事務などを行う関係を法的にも保護する制度はないのか? 同性婚を研究している民法学者などにも問いかけて、 怪訝(けげん) な顔をされたことがあるのですが、法律論だけでなく、共同体論にくわしい社会学や政治思想史の人の意見も聞いてみたいと思ったりしています。

 しかし、こんなヘンなことを思いつくのは私だけかなと思ったら、台湾で同性婚運動に取り組む人たちに、これをもう少し理論的に考える人たちもいるようです。

 台湾ではいま同性間の結婚を合法化するための民法の改正案が国会(立法院)にかかっており、国論を二分する大きな盛り上がりを見せています。運動を進めてきた側では、パートナーシップ制度について、かねてから三つの考え方を提示してきました。

 一つは民法を改正して異性間・同性間にかかわりなく婚姻ができる「平等婚姻」。二つ目はかならずしも性愛に基礎をおかず、パートナーや友人などでも締結でき、平等と互助の精神にもとづく「パートナーシップ制度」。これらがいずれも2人の間で行われるのに対して、三つ目として2人または2人以上による永続的な共同生活を目的とし、同居と互助関係にもとづく「共同家族」を提案しています。

  多元的な家族・婚姻の平等 まとめサイト

 台湾で性的マイノリティーの婚姻について取り組んできた人たちは多くがフェミニズムを経由しており、家父長制など婚姻の問題性については意識的です。それでたんに同性婚の合法化だけでなく、パートナーシップ法、さらには複数人による共同形態まで並行して検討したのでしょう。

 とはいえ、さすがに「共同家族」を法制化するのはラジカルすぎ、パートナーシップ法は別な法律を作るのはかえって大変。結局、現行民法の改正(条文中、夫婦などとあるのを双方など性別フリーに修正)による同性婚の合法化がいちばん「簡単」とのことから、目下、この線で押しているとのこと。これが可決成立すれば、台湾はアジアで最初の同性婚合法化地域(国)となるわけですが、 帰趨(きすう) はいかに?

 話を戻しましょう。

 企業の同性カップル対応に見るように、人の想像力は、パートナーシップには異性間だけでなく同性間もある、というところには及んだようです。私自身もラジカル原理主義者というよりは漸進的改良主義者として、いまは異性間結婚と同様に同性間結婚も認められるべき、まずはそこからとの思いですが、一方で「家族法人」というかグループ家族に夢を感じてもいるのです。とくに子なし・高齢シングルの多い性的マイノリティーが「シェアハウス」「グループリビング」を疑似家族として運営する場合など、実務的にも必要かもしれません。

 そんなグループ家族に参加する社員が、「きょうはメンバーの介護で休みます」「メンバー全員が私のパートナーです」というとき、介護休暇を認めてくれる会社が将来は出るのでしょうか? いや、これは正月からとんだ初夢語りになってしまいました。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

虹色百話~性的マイノリティーへの招待の一覧を見る

1件 のコメント

コメントを書く

社会的認知のツール

カイカタ

どんな利点があるかということよりも、過去には全くの想定外だったことが認知されていることが重要で、それが安心感をもたらすのでしょう。

どんな利点があるかということよりも、過去には全くの想定外だったことが認知されていることが重要で、それが安心感をもたらすのでしょう。

違反報告

すべてのコメントを読む

コメントを書く

※コメントは承認制で、リアルタイムでは掲載されません。

※個人情報は書き込まないでください。

必須(20字以内)
必須(20字以内)
必須 (800字以内)

編集方針について

投稿いただいたコメントは、編集スタッフが拝読したうえで掲載させていただきます。リアルタイムでは掲載されません。 掲載したコメントは読売新聞紙面をはじめ、読売新聞社が発行及び、許諾した印刷物、ヨミウリ・オンライン(YOL)、携帯電話サービスなどに複製・転載する場合があります。

コメントのタイトル・本文は編集スタッフの判断で修正したり、全部、または一部を非掲載とさせていただく場合もあります。

次のようなコメントは非掲載、または削除とさせていただきます。

  • ブログとの関係が認められない場合
  • 特定の個人、組織を誹謗中傷し、名誉を傷つける内容を含む場合
  • 第三者の著作権などを侵害する内容を含む場合
  • 企業や商品の宣伝、販売促進を主な目的とする場合
  • 選挙運動またはこれらに類似する内容を含む場合
  • 特定の団体を宣伝することを主な目的とする場合
  • 事実に反した情報を公開している場合
  • 公序良俗、法令に反した内容の情報を含む場合
  • 個人情報を書き込んだ場合(たとえ匿名であっても関係者が見れば内容を特定できるような、個人情報=氏名・住所・電話番号・職業・メールアドレスなど=を含みます)
  • メールアドレス、他のサイトへリンクがある場合
  • その他、編集スタッフが不適切と判断した場合

編集方針に同意する方のみ投稿ができます。

以上、あらかじめ、ご了承ください。

最新記事