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存在しないのに、映像として見える…視覚陽性現象

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存在しないのに、映像として見える…視覚陽性現象

 我々の視覚では、実際そこには存在しないものが、映像として見えることがあります。これを「視覚陽性現象」といい、一部、または全体が見えなくなる視覚陰性現象と対比的に扱われます。

 視覚陽性現象で、健常者でもよくあるのが 飛蚊症(ひぶんしょう) です。 硝子体(しょうしたい) という水晶体と網膜の間の空間を埋めている、主としてコラーゲンでできた透明なゼリー状の組織に次第に細かな混濁が生じて、光の加減でそれが網膜に映し出されてしまうものです。

 眼底の出血や、網膜裂孔などに伴う病的なものもありますが、生理的範囲の飛蚊も多いものです。特に強度近視の人では高齢にならなくても、ゆるく網膜に (のり) 付けされていた硝子体が剥がれて、その (きわ) に曲線状の濁りが生じ、これが光の加減で網膜に映り込んでしまう現象がよく起こります。

 硝子体は眼球運動などに伴ってゆれたり、収縮したりしますが、それに応じて光や稲妻状のものが見えることがあり、これを眼性の「光視症」といいます。

 こうした眼球が原因のもの以外に、視覚に関わる脳の神経回路の中で発生する視覚陽性現象があります。

 最も有名なのは、片頭痛の予兆として出てくる「 閃輝暗点(せんきあんてん) 」で、視野のどこかに光の点のようなものが出現し、それが次第に広がって視野の大半を覆いつくしてしまうというものです。大きくなった光の向こう側には、いくらか透けて見える部分がありますが、光の周辺は (とが) った歯車のようになり、透明度が低いようです。こういう現象が15分から20分続いた後、次第に消失しますが、かわりに拍動を伴う頭痛が出てくるのです。これが閃輝暗点という前兆を伴う片頭痛の典型的な過程です。

 片頭痛患者の10~15%にみられる現象ですが、患者が年齢を重ねると、頭痛なしの閃輝暗点が出ることもあります。いずれも、それで失明につながるなど重大事になることはありません。ただ、予備知識がなく、はじめて体験した人は何事かと心配して、眼科などを訪れる場合がかなりあります。

 さらに、それらとも違う視覚陽性現象がいくつかあります。

 代表格は「シャルル・ボネ症候群」と呼ばれるものです。ボネは18世紀のスイスの博物学者です。当時は不治の病とされた白内障で、両目の視力を著しく損なっていた祖父の体験を克明に記述したことから、この症候群に彼の名前が冠されているのです。

 祖父は、そこには見えるはずのない人間や動物や建物や模様が見えることを孫によく語り、しかもそれはそこにないこともよくわかっていたと言います。

 次回からは視覚陽性現象にまつわる、いくつかの話題を提供しましょう。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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