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「がん治療と仕事」両立に道…対策基本計画10年

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副作用少ない薬 拠点病院拡大

「がん治療と仕事」両立に道…対策基本計画10年

 がんによる死亡率減少を目指すがん対策推進基本計画の見直しが進んでいる。医師、患者らで作る国の協議会は今後、次期計画のとりまとめに向けた本格的な議論に入る。初回計画策定から間もなく10年。がん対策はどこまで進んだのか。

 ■ 「スムーズに復職」

 「がんになっても、スムーズに復職できたのは、周りの人々の配慮のおかげ」

 カード大手・クレディセゾン(東京)のファイナンスビジネス部担当部長の田中竜太さん(50)は、そう力を込める。

 田中さんは、2013年に咽頭がんと大腸がんと診断された。二つのがんは共にリンパ節への転移がある進行した状態だったが、手術や抗がん剤、放射線の治療を受け、復職を目指した。

 通勤に耐えうるまで体力を回復させ、2か月後に職場復帰。会社側も人員を増やし、田中さんの仕事の負担を軽くしてくれたことで、無理なく過ごせている。

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がんの治療を受けた後、仕事に復帰した田中さん(東京・池袋で)

 がん患者の生活は、この10年で大きく変化した。

 従来より副作用の少ない新しいタイプの治療薬や、体への負担の少ない放射線治療が登場。再発がんや進行がんの患者でも、日常生活を送りながら治療を続けられるようになった。

 14年には免疫の働きを利用し、がんを縮小させる新タイプの薬「オプジーボ」が発売された。がんとの共存に向け、患者の選択肢は広がっている。こうした進歩を受け、現行の2期計画では、国などによる就労支援が盛り込まれた。ハローワークの一部にがん患者らに職業を紹介する専門相談員が配置されるなどの対策が進んでいる。

 ■ 雇用側は「困難」

 しかし雇う側の理解は十分に行き渡っていない。患者支援団体のCSRプロジェクト(東京)による中小企業200社への調査結果では、がん治療と仕事の両立は「無理」「難しい」との回答が約6割を占めた。

 先月に成立した改正がん対策基本法には、患者の雇用継続に努めることが事業者の責務として明記された。同プロジェクトの桜井なおみ代表理事は「患者の雇用に積極的な企業に対し、税の減免や表彰を行うなど、具体的な施策を行ってほしい」と要望する。

 一方、全国どこでも良質な診療が受けられる「均てん化」も進んだ。専門医がそろった国指定の「がん診療連携拠点病院」は現在全国約400か所に広がった。

 岩手県宮古市の古里悦子さん(60)は9年前に乳がんと診断された。大学病院などがある盛岡市での治療も考えたが、雪道では片道3時間近くかかり、家に高齢の義母もいた。「通いきれない」と、地元の拠点病院・県立宮古病院を選んだ。今は「地元でちゃんとした治療が受けられるのは安心だし、助かる」と話す。

 課題は医師確保だ。村上晶彦院長は「地域住民のために、がん診療をやめるわけにはいかないが、拡充は難しい」と話す。次期計画では、新しい医療技術に重点的に取り組む病院と一般の拠点病院との色分けが検討されている。

 ■ 死亡率16%減

 この10年、高齢化の影響を考慮し年ごとに比較できるようにした「がん年齢調整死亡率」(75歳未満)は16%減少した。肝臓がんの原因となる肝炎患者が減り、乳がんなどで効果的な新治療法が普及したことなどが要因とみられる。

 しかし、計画で全体目標に掲げた「20%減少」のラインには到達できなかった。死亡率減少の柱としたがん検診の受診率が伸びなかった。また、がん予防に重要な「喫煙率の低下」もここ数年下げ止まっている。

 国立がん研究センターの若尾文彦・がん対策情報センター長は「がん検診では、要精密検査と判定された人を確実に検査につなげることなど、質の向上が次の課題」と話している。

  〈がん対策推進基本計画〉  がん対策基本法に基づき、がんによる死亡率減少などの目標や重点課題を示した国の計画で、各都道府県が定める計画の基本となる。2007年に第1期計画が策定された。現在は国のがん対策推進協議会で、17年度から6年間の第3期計画策定に向けた議論が進んでいる。

 (医療部・山田聡、石塚人生)

緩和ケア・難治性対策に遅れ

 がん対策の計画で、心身の痛みを取り除く緩和ケアは普及の遅れが目立つ。

 厚生労働省は、患者約7000人への2014年度調査から、患者の3~4割が苦痛への対応を十分受けていないとみている。拠点病院間でも緩和ケアを受けられる患者数に差がある。

 痛みを訴えられない患者がいるため、厚労省は、心身の苦痛を確かめる検査の実施を拠点病院に14年から課している。

 検査は、結果の記入や確認など膨大な作業を伴う。現場からは「病棟の気になる患者を訪ねる時間が減った」との声も上がっている。

 拠点病院の一つ、新潟市民病院の野本優二・緩和ケア内科部長は「多くの患者や遺族に調査を行い、現行の対策の効果を検証すべきだ」と話す。

 患者数が少ない希少がんや、治療法が確立していない 膵臓すいぞう や胆道などの難治性がんは研究が進まず、専門医も限られる。

 改正がん対策基本法では、こうしたがんの研究促進が盛り込まれた。先月、国が打ち出したゲノム医療推進の動きも後押しになりそうだ。ゲノム医療では、患者個々のがん細胞の遺伝子の特徴に合わせ、効果が高く、副作用の少ない治療を選ぶ。米国や英国では実用化を目指す国家的事業が始まっている。

 膵臓がん患者団体パンキャンジャパンの真島喜幸理事長は「使える薬が少ない希少がんや難治性がん患者にとって、ゲノム医療は希望の光。解析や診断の体制を整え、対策につなげてほしい」と話している。

 (医療部 中島久美子)

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