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聖地巡礼、ゆかりの地訪ねる…「作品世界」追体験し没入感

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同じ関心持つ仲間と出会い

 記録的なヒットを続けるアニメ映画「君の名は。」をきっかけに、作品ゆかりの地を訪ねる“聖地巡礼”に注目が集まっている。作品に描かれた舞台を聖地に見立て、各地からファンが集まる様子は、宗教にも通じるものがある。人はそこに何を求め、何を感じているのだろうか。

聖地巡礼、ゆかりの地訪ねる…「作品世界」追体験し没入感

映画「君の名は。」の舞台とされる階段で、写真を撮影する海外からの旅行客

 聖地巡礼について、「作品世界を追体験し、登場人物と同じ気持ちを味わいたいというのが最も強い動機だろう」と語るのは、京都大学教授の楠見孝さん。認知心理学が専門で、仮想空間を利用したコミュニケーションにも詳しい。現場に行くことで、想像の中で広がっていた作品の世界を、身体感覚をもって味わうことができ、自分自身も作品と一体化したような没入感を得られるという。

 小説やテレビドラマの舞台を訪れる旅は「コンテンツ・ツーリズム」として古くから行われているが、ネットの発達に伴い、様相も変わるようだ。

 楠見さんによると、アニメで話題になる聖地巡礼の場合、〈1〉舞台を突き止めてネットで公表する〈2〉ネットを見たファンが現場を訪れる〈3〉さらにブログなどで公表して共感を得る――という流れで拡散することが多い。「もともとは登場人物との出会いに浸る旅という側面が強かったが、ネット上で仲間と出会い、現実の世界でも“聖地”で同じ関心を持つ仲間と出会うきっかけになっている」と話す。

 宗教学と観光学が専門の北海道大学准教授の岡本亮輔さんによると、聖地とはそもそも「宗教の創始者や聖人と関わりのあった場所、神や精霊という存在と関わる場所」を指し、信仰に基づいてその地を訪れることが聖地巡礼だ。宗教の影響力が低下した現代では、純粋な信仰目的で巡礼に出る人は少なくなっているという。

 例えば、弘法大師の足跡をたどって88か所の霊場を巡る四国のお遍路は本来、移動手段は問わない。ただ、実際には「徒歩」というプロセスに重きを置く巡礼者が増えているという。岡本さんは「こうした巡礼者は弘法大師への信仰ではなく、歩くことを通じて、精神的な浄化や『自分は生かされている』という気付きを得ているようだ」と指摘する。

 その中で重要な意味をもつようになっているのが、同じ行動をともにする仲間とのつながりだ。社会から隔離された特殊な状況の中、同じ札所を目指して同じ道を歩くという身体的な体験を共有することで、より深い共感を得られるという。

 アニメ版の聖地巡礼でもつながりは重要だ。

 岡本さんは「アニメに登場する場所を特別なものと意識して、同じ考えを持つ仲間とつながり合うのが現代の聖地巡礼。それを支えているのは、そこを唯一無二の場所に変える物語だ」と解説する。

 岡本さんは言う。「趣味や価値観が細分化された現代では、同じ考えで集まれることそのものが貴重。生活の中でつながりが薄れている分、それを補うように“聖地”が特別な存在になっているのだろう」

  ■メモ  アニメ発の聖地巡礼は、2007年に放送されたテレビアニメ「らき☆すた」が先駆けとされる。原作者は、埼玉県出身の漫画家、美水かがみさん。同県鷲宮町(現・久喜市)の鷲宮神社をモデルにした神社が登場する。放映後の08年の正月三が日には前年の2倍を超える約30万人の参拝客が訪れた。(森井雄一)

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