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在宅訪問管理栄養士しおじゅんのゆるっと楽しむ健康食生活

医療・健康・介護のコラム

妊娠中も食生活をゆるっと楽しみましょう(1)

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妊娠中も食生活をゆるっと楽しみましょう(1)

かわいい置き物でお正月を満喫しました。しおじゅんを今年もよろしくお願いします

 新年あけましておめでとうございます。

 ヨミドクターをご覧のみなさまは、どんなお正月を過ごされましたか?

 私は、実家のある埼玉と横浜で、のんびりとお正月を過ごしました。元日には、両親や兄弟家族が勢 ぞろ いし、たいへん にぎ やかでした。 おい っ子や めい っ子も少し見ない間にすくすくと成長し、私が子供の頃、叔父や叔母に「しばらく見ないうちに大きくなってぇ~」と言われたお決まりのセリフを、自分も発していることに気づきました。

 両親は、大みそかには餅つき機で餅をたくさん作り、家族の帰りを待っています。毎年恒例の、「白みそ仕立てのお雑煮」には、丸めたお餅と、面取りした大根や 里芋さといも を入れ、ゆずの皮を少量散らしていただきます。これを食べないと、お正月を迎えた気がしないのは、長年のお正月の食の記憶が、私の舌と脳に染みついているのでしょう。

 さて、幼い頃からの食習慣が、その後の成長に大きな影響を与えるのはご存じだと思いますが、実は、それはお母さんのおなかにいるときから始まっています。今回から「妊娠中の食事」について、私自身が妊娠中に気を付けていた食生活のポイントを、ゆるっとご紹介していきたいと思います。

 最近、ある情報サイトが科学的根拠のない健康情報などを発信していたことが問題となりました。私もインターネットで情報を集めることがありますが、本当に正しい情報かをきちんと見極める必要があると感じています。

 試しに「妊娠中 食事」と検索したところ、怪しい情報がたくさん出てきました。しかも「助産師がアドバイスする妊娠中におすすめの食事」などと、あたかも専門家が、最先端の情報を発信しているように思わせるものもあり、一般の方が情報の真偽を見極めるのは大変難しいと思います。

 あるサイトで、「食物アレルギーの赤ちゃんが生まれるのを防ぐために、牛乳や卵は控えましょう」という内容を見つけて 愕然がくぜん としました。私は管理栄養士になってかれこれ十数年ですが、そのような話は聞いたことがありません。厚生労働省が発表している「妊産婦のための食事バランスガイド」にも一日の食事摂取例として「牛乳」や「目玉焼き」が登場します。手元にある娘の母子手帳にも、見開きカラーページで掲載されています(※1)。

 日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会が作成している「食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版」(※2)では、「食物アレルギーの発症予防のために妊娠中および授乳中に母親が食物除去を行うことは推奨されない。偏った食生活をしない(第11章)」と明確に記載されています。

 さらに「最新の欧米・日本のガイドラインは、妊娠中に母親が食事制限をすることを推奨していない。また、妊娠中に特定の食品の積極的な摂取も奨めていない」ともあります。

 妊娠したら「バランスの良い食生活」を心掛け、それまで不規則でバランスの悪い食生活を送っていた場合は、「より健康的な食生活」に切り替えていくことが大切です。

 「日本人の食事摂取基準」の中には、妊娠初期・中期・後期に必要な付加栄養量が示されています。特に付加量が多い栄養素が「葉酸」と「鉄」です。葉酸については「妊娠可能な女性への注意事項としては、神経管閉鎖障害のリスク低減のために、付加的に400㎍日のプテロイルモノグルタミン酸(葉酸)の摂取が望まれる」とあります(※3)。「神経管閉鎖障害」とは聞き慣れない言葉ですが、葉酸の不足は、主に赤ちゃんの脚の運動障害や脳の形成不全などの先天的な病気につながる危険があるのです。妊娠する可能性のある方、妊娠したいと思っている方は、妊娠する前から葉酸を多めに摂取することが望ましいということです。ところが、毎日400㎍の葉酸をすべて食事から取るのは、実は少し難しいことなのです。

 例えば、 でたほうれん草で換算すると100gに含まれる葉酸は110㎍ですので(※4)、400㎍を摂取するためには約360g(どんぶり1杯)も食べなければなりません。茹でたブロッコリーでも約2株になります。葉酸はいろいろな野菜に含まれているので、たくさんの野菜を組み合わせればよいのかもしれませんが、毎日そのような食生活を続けるのは大変です。私の場合は、妊娠前から毎日葉酸のサプリメントを補助的に飲んでいました。ただし、葉酸を取りすぎると過剰症を引き起こす可能性があります(※3)。サプリメントは決められた容量はきちんと守って利用していただきたいと思います。

 また、食事の内容によっては鉄のサプリメントも摂取していましたが、多量の鉄(非ヘム鉄)の摂取は、「亜鉛」というミネラルの吸収を阻害することが分かっています。(※3)

 亜鉛は、皮膚の健康や免疫機能など、体内の組織や生理作用を維持するのに大変重要な栄養素です。貧血気味だからといって、むやみに多量の鉄を摂取するのはおすすめできません。妊娠中のサプリメントの摂取については、主治医や管理栄養士に相談してから取るようにしてください。

 特に初めての妊娠では、「おなかの中に赤ちゃんがいる」というだけで、なんとなく不安になったり、無事に出産ができるのかと心配したり、食事のことに限らず悩みが尽きないものです。赤ちゃんのために栄養のことを考えることも大切ですが、毎日の食事が妊婦さんの「癒やし」や「元気の源」になることが、おなかの赤ちゃんにとって最良であると思います。次回は、多くの妊婦さんの悩みである「体重管理」について、私の経験をもとに触れていきたいと思います。

 ※1)「妊産婦のための食生活指針」厚生労働省ホームページより
 ※2)日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会
 「 食物アレルギー診療ガイドライン2012ダイジェスト版
 ※3)「日本人の食事摂取基準2015年版」第一出版 菱田明 佐々木敏 監修
 ※4)「七訂食品成分表2016」 香川芳子監修 女子栄養大学出版部

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塩野崎顔2_100

塩野崎淳子(しおのざき・じゅんこ)

 「訪問栄養サポートセンター仙台(むらた日帰り外科手術WOCクリニック内)」在宅訪問管理栄養士

 1978年、大阪府生まれ。2001年、女子栄養大学栄養学部卒。栄養士・管理栄養士・介護支援専門員。長期療養型病院勤務を経て、2010年、訪問看護ステーションの介護支援専門員(ケアマネジャー)として在宅療養者の支援を行う。現在は在宅訪問管理栄養士として活動。

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