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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

薬物の副作用、「前例がない」と認めないのは残念

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薬物の副作用、「前例がない」と認めないのは残念

 薬物の副作用は、その主作用から推定できる場合もありますが、どうして生じたのかわからない想定外や未知のものも多いものです。

 わからないから「ありえない」のではなく、わからないけれども「あったことは認める」という姿勢でないと、科学的考察の機会は永遠に失われます。

  NPO法人「目と心の健康相談室」 に相談のあった事例を紹介します。

 ベンゾジアゼピン(以下ベンゾ)系薬の使用と離脱とにかかわると考えられる高度の光過敏症状を持つ30歳代の男性です。

 当初は過敏性腸炎の治療でベンゾ系薬物が出されたのですが、あまり効果がなく休止したところ、 (まぶ) しさが症状に出てきました。心療内科に相談し、再度ベンゾ系を使用したところ、一時改善傾向を示したために2度目の断薬。その後、今度はさらに激しい眩しさに加え、目の周囲や身体の持続的 疼痛(とうつう) まで表れ、しかも症状は悪化の一途をたどり、とうとう暗室で暮らすようになったのです。

 服用したベンゾ系薬物の影響として、独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA)に医薬品副作用被害救済を申請したところ、給付金の不支給の決定通知がきたといいます。

 昭和55年に始まったこの制度は、医薬品の副作用に対して迅速な救済を図ろうとした、患者に寄り添う良い制度だと私は思っていました。

 不支給理由というのを読みますと、次のように要約できます。

 1) 羞明(しゅうめい) (まぶしさを過剰に感じる)や体の痛みは「身体表現性障害」といわれ、治療が行われている。

 2)ベンゾ系薬物<1>の中止後、眼痛、羞明が段々増強し、同薬中止後1年以上経過したところで別のベンゾ系薬物<2>まで症状は続いている。

 そのため、医薬品中止時期と症状の時間的関係から、「離脱症状とは考えにくく、医薬品副作用とは認められない」となっています。

 私には「認められない」という文章につなげるために、症例の経過を述べているだけで、「不支給の結論ありき」の記述にみえます。つまり、どこが不支給の原因なのか読み取れないのです。

 この救済製度について、「不支給事例」を紹介する文書が出ています(2011年12月、医薬・医療機器等安全情報No.286。それによりますと、平成22年までの集計で約1万2000件余の申請中、9700件余が支給、1872件、約15%が不支給となっています。

 患者のための救済制度なのに、不支給が多い印象を受けましたので、その理由をみてみました。

 1.医薬品により発症したものとは認められない、が一番多く、次いで2.障害の等級に該当しない、3.使用目的・方法が適正と認められない、4.判定不能である、などとなっています。この方の場合、1番という判定でしょうか。あるいは4に近いのでしょうか。過去に申請事例がないのかもしれません。

 先日、彼を私の外来で拝見しました。わずかな光でも急に見えると具合が悪くなるので、日没後の来院で、診察室も電気を消し、本人は何重もの布を頭からかぶってのやり取りでした。

 このように薬物投与や離脱などを契機に過度な光過敏が生じている例は、私の外来では決して珍しくなく、治療に抵抗性です。

 本例も、時間経過から、これまでも当コラムでたびたび取り上げてきたベンゾ系の投与や離脱が発症の契機になった中枢性羞明(眩しい)症候群のひとつと考えられます。

今の医学では、しかし、それ以上の明確なメカニズムはわかりません。

 でも、明確なメカニズムが不明だからこそ、救済制度が機能するのではないでしょうか。患者は薬物副作用の被害者であり、発症メカニズムの詳細がわからないのは、当然、患者のせいではありません。

 PMDAが、このように想定外に生ずる未知の薬物副作用を、前例がないから認めないという決定を行ったのだとしたら、私はとても残念で、悲しい気がします。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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