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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第66話 記者好みの「LGBT哀話」を超えて~世田谷区のアンケートを読む

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世田谷区が実施した性的マイノリティー調査

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 同性間でのパートナーシップ宣誓を導入した東京都世田谷区が、性的少数者の暮らしやパートナーシップにかかわるアンケート調査を実施し、このほど報道発表とともに、区のホームページでも 報告書が公開 されました。秘密主義体質が指摘される自治体もある一方、迅速な情報公開は、じつに好ましいといえます。

 調査の一つは、「性的マイノリティ支援のための暮らしと意識に関する実態調査」というネットアンケート。全国から当事者約1000名が答えました。

 もう一つは、これまで区で宣誓を行った37組(74人)にアンケート用紙を送付したもの。29人から回答がありました。

 新聞報道では、1つめのネットアンケートにかんして、「子どものころにいじめられた」「教職員が無理解だった」「自殺したいと思った」などの回答が多数に上ったことに焦点が当てられていました。トランスジェンダーでは、「自殺したいと思った」ことがある人は67%、自殺未遂の経験者も30%いたとのことです。

 今回の有効回答数965の内訳は、20代が45.9%と半数近く、30代(22.8%)と10代(7.6%)を加えると、4分の3が40歳未満でした。まだ若い集団からこうした声があがっていることは、過去ではなく現在も、学校が性的マイノリティーにとって つら い場所であることを物語っているでしょう。この結果が今後、学校環境の改善に生かされることを、当事者の一人としても願ってやみません。

同性カップルの難事は、本当に解決できないのか?

 さて、今回のネットアンケートや、パートナーシップ宣誓者への質問紙調査では、暮らしやパートナーシップ上の困難についてもさまざまな声が寄せられています。これらはマイノリティーの「生きづらさ」の例として、記事等でもよく取り上げられてきました。

 これまで見えなくされていた性的マイノリティーの困難やニーズを顕在化させ、社会状況の改善につなげることは、政治の重要な役割です。その点で、今回の調査が区によって行われたことは、評価されてよいことです。

 一方で、当事者コラム「虹色百話」としては、おなじ当事者から寄せられた声だけに、「でも、それは持って行く先が違うのでは?」とか、「すでに解決する方法があるのでは?」などと、思う点もあります。1つめのネット調査も「暮らし」をテーマにしつつも、先に触れたように回答者のほとんどが若い世代なので、生活への困りごと感が、実体験にもとづくというよりは定型的な発想によるところがあるかもしれません。

 当事者として、記者の書くお決まりの「LGBT哀話」にいつまでも乗っかりたくない思いとともに(苦笑)、暮らしや老後の相談を受けている立場から、これはできる、これはできない、これはどこまでならできる、といった実務的な視点で、報告を読み返してみたいと思います。

 まず、パートナーシップ宣誓者へのアンケートからです。

 宣誓をしてよかったこととして、「LGBT」や「同性婚」という言葉が浸透し、自分たちのことを伝えやすくなった、そして認められることで安心感を得られたと答えています。

 一方、「同性カップルであることが理由で、生活上、困っていること」(質問4)として、「賃貸物件を借りにくい」「家を買う時に共有財産として認めてもらえない」「保険の受取人になれない」「相手が外国人のため配偶者ビザが出ない」「仕事場でカミングアウトができない」が挙がっていました。個々に考えてみましょう。

 同性カップルへの賃貸困難はいまでも少なくないようですね( 第46話 参照)。ただ、これは家主によりけりで、若夫婦はダメ(すぐ別れるから家賃が不安)、子連れはダメ(汚す)と、なんでも理由になるものです。家主によっては同性カップルでもすんなり借りられる場合もあるでしょうし、同性カップルだけが困難と思わず、よい出会いがあるまでコツコツ探すほうが精神衛生上いいかもしれません。

 借り手市場の現在、業界の変化も早く、同性カップル歓迎を うた う不動産屋さんもちらほらいるので、まずはネット等で検索してみることをお勧めします。また、団地が嫌でなければ、UR(都市再生機構)のハウスシェア(非親族でOK)もねらい目です。

 2つめの「共有財産として認められない」とは意味がいささか不明ですが、所有権登記のことだとすれば、夫婦でも持分登記をしないことはよくあります。実務上は共有持分にしないほうが、なにかと便利な気がします。パートナーの居住権を守るためには、遺言や死因贈与契約の作成があります。死因贈与契約であれば、万一時にはパートナーに所有権が移ることを登記で表示することもできます(それが共有持分登記の代わりになるかもしれません)。

 3つめの保険の受取人ですが、2親等規定に阻まれてパートナーを指定できなかったという話は、LGBT哀話の定番でした。しかし、保険業界も人口減の折から加入者獲得のために(?)、同性パートナーを認める会社も増えています。新規加入先のほか、いま加入している会社でも受取人変更に応じてくれるかなど、リサーチする価値はあるでしょう。

 その際、自治体の証明書を要件とする会社もありますが、それでは客を一部自治体の住民に限ることになり、それが自社の競争力を下げることは誰でもわかることです。私はいずれ数年のうちに変わると思っています。

 ただ、小さな子どももおらず共稼ぎの場合など、自分が死んで保険がないと困る人がいるのか、保険加入のニーズの有無は要検討でしょう。

 外国人パートナーの在留資格は、同性パートナーに「日本人の配偶者」という在留資格がないため、外国人パートナーの在留期限が切れて泣く泣く帰国するケースには、私も行政書士としていくつかご相談に接して、胸が痛む経験をしました。本国で法的に同性婚している外国人カップルの一方が日本に駐在するなどの際、パートナーを伴う場合は、「家族滞在」(いわゆる配偶者ビザ)の在留資格こそ出ないものの、現在、「特定活動」という在留資格でパートナーも滞在できるようになりました。ただ、一方が日本人の場合、頑として同性パートナーへの対応がないのは、今後、国際的にも問題になるに違いありません。

 最後の「企業でカミングアウトできない」というのは、本当はしたいのに偏見・差別のためにできない、会社でウソをつき続けることが苦しい、ということでしょうか。信頼できそうな人に1人でも2人でも言ってみるとか、社内に当事者ネットワークがあればアクセスするなどが、当面の対策にならないでしょうか……。

家族としての承認・扶助・相続は契約でも可能

 ネットアンケートのほうでは、「市町村に望むこと」という設問の上位回答(60%以上の回答者が選択)に、つぎのような要望が並びました。

  • LGBTの子どもたちが差別されない、また将来に希望を抱ける教育に取り組んでほしい
  • 戸籍上、同性同士のパートナーやその家族も、法律上のパートナー、家族であると認めてほしい
  • 医療や福祉のサービスを受ける際、法律上の家族や婚姻関係と同等の扱いを受けられるようにしてほしい
  • 行政職員や教職員へLGBTについて啓発をしてほしい

 最初に紹介したように、学校時代の辛い体験をあげた回答者が多かっただけに、子ども・教育問題への取り組みを求める声は切実です。学校教育や研修のことは、自治体レベルでも独自に取り組めると思います。

 2番目は、同性パートナーやその連れ子などを法律上も配偶者・家族と認めてほしいという要望です。法律にかかわることなので、自治体独自での解決は難しい面がありますね。同時に、家族と認められて何を得たいのか、そのへんも気になります。

 結婚する、家族となることの意味や機能とはなんでしょう。私なりに考えてみると、パートナーやユニットを社会的に承認してもらうとともに、相互に安定的に世話をし合うこと、万一時にはおたがいの財産を承継できること、が浮かび上がってきます(それ以外に、次世代をつくる再生産や、一緒に仕事をする家業の機能があるでしょうが、ここでは置きます)。

 もっとも、それらは法律的には委任や遺贈ですから、結婚の有無にかかわらず、それぞれ委任契約や遺言といった現行制度で対応ができます。

 3つめの「家族や婚姻関係と同等の扱い」も、法律的には委任契約や遺言で対応できます。同時に、医療や福祉担当者、さらにそこへ同席するであろう家族へ向けて、自分たちがパートナーであることを表明するカミングアウトが必要です。

 ただ、ほかの設問では、家族へのカミングアウトは55.6%、医療・援助職関係者へは26.8%。実態と希望にずれがあるようです。

 当事者としては、そこをどう超えていくか。社会の受容度や理解度を上げていく政治の営みとともに、当事者としての工夫や覚悟が求められると思っています。

 今年の執筆はこれで終わりです。一年のご愛読、ありがとうございました!

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

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出生数が初めて100万人を割れた

カイカタ

同性愛は、少子化の敵とまた言われそうです。どう答えますか?

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