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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

転落転倒事故…足腰ではなく、目が原因?

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転落転倒事故…足腰ではなく、目が原因?

  前回のコラム で、日本での交通事故死は年間4000人強であることを述べました。

日常生活中の事故の中で、もうひとつ注目すべきものに転落、転倒事故があります。厚生労働省の発表によりますと、平成26年に転落転倒事故で死亡した数は、7454人で、同年の交通事故死(24時間以内)4113人よりも、3341人も多くなっています。

 10年前は、逆に交通事故死が転落転倒事故死を大きく上回っていましたが、平成22年ごろから逆転し、差が広がっています。交通事故死は年々減少し、転落転倒事故は、年々微増している傾向があるのです。

 転落転倒事故死の中で、65歳以上の高齢者が93%を占め、また「スリップ、つまずき及びよろめきによる同一平面上での転倒」が約68%を占めるという分析も出ています。

 こうした転落転倒事故を聞くと、加齢などによる足腰の衰えや、めまいなど平衡感覚の問題を想起すると思いますが、私は米国の外傷に関する教科書を読んでいて、転落転倒事故のおよそ25%は視覚の問題で生ずると書かれているのをみて、驚かされたことがあります。私も、当たり前のように、転落転倒は足腰の問題と思い込んでいたからです。

 しかし、考えてみれば、視野や、距離感や立体感を認知する両眼視機能は自身の移動に重大な役割を担っていることは、当然のことです。

 今年11月に京都で開催された日本臨床眼科学会で、これに関する興味深い発表がありました。岩手県の鈴木武敏氏らの研究です。

 つまずきやすさの因子として、足下視力、立体視、視野障害の順に関係が深いということです。足下視力とは、彼らが考案したつま先前75センチの視力検査を用いて検討しています。

 彼らは、白内障手術でも、近方視力や足下視力、立体視に考慮して行うべきだと提唱し、それは認知症の予防にもつながると考察していました。

 読み書きをする人、行動範囲が広い人、好奇心が強い人は認知症になりにくいタイプだといわれます。転落転倒の危険があれば、自ずと行動範囲は狭くなるでしょう。好奇心があっても、読み書き作業、楽器の演奏、料理などに視覚の不都合や、疲れがあれば、そうした気力も萎えるかもしれません。

 そういう意味でも、眼鏡のような副作用のない器具で矯正できるものを面倒がるとか、治療できる眼疾患をいい加減にすることは、その人の人生にとって決して得ではないことがわかるでしょう。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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