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佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」

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イルミネーションが嫌いな人たち

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イルミネーションが嫌いな人たち

この季節、街のあちこちがイルミネーションで輝きますが……

 華やかなイルミネーションが街を彩る。それぞれに工夫を凝らした光の芸術は、凍えそうな心を暖めてくれる。阪神大震災があった1995年の暮れ。深く傷つき、光を失った神戸の繁華街に突然 (とも) ったルミナリエの輝きは、今も忘れられない。不安な闇を遠ざける 数多(あまた) の光に、ストーブのような温もりを感じた。

 だが、イルミネーションを楽しめない人たちもいる。「一緒に見てくれるパートナーがいない」という残念な人たちの悩みは、申し訳ないけれど、今回は脇に置いておく。そのような心理的な要因ではなく、病気の影響でイルミネーションに苦痛を感じる人たちがいるのだ。

 その病気は「 眼瞼(がんけん) けいれん」。脳の視床と呼ばれる部位などが過度に活動してしまい、目に様々な症状が表れると考えられている病気だ。中でも、ちょっとした光にもまぶしさを感じる「羞明しゅうめい」という症状は、眼瞼けいれん患者の多くに共通する。日中の屋外はまぶし過ぎて耐えられず、カーテンを閉め切った家にこもるしかない患者もおり、症状が進むと日常生活に大きな支障が出る。

 井上眼科病院名誉院長で、ヨミドクターのコラムも好評な若倉雅登さんは「当院を受診する眼瞼けいれん患者の約半数は、日常生活においてまぶしさを感じて苦しんでいる。イルミネーションや街灯、自動車の前照灯、尾灯は非常に困る人が多い。照明がLEDになってから、嫌光感が強くなったと訴える患者も目立つ」と話す。

 眼瞼けいれんの症状はこのほか、目の痛みや目の乾き(実際は乾いていなくても乾きを感じる)、まぶたの開けにくさなどが代表的な症状として知られる。

原因の3割強は睡眠薬、抗不安薬

 目の病気をなぜこのコーナーで取り上げたのかというと、この病気の発症原因のひとつに、ベンゾジアゼピン系などの睡眠薬や抗不安薬の長期服用があることが分かってきたためだ。井上眼科病院で2012年に眼瞼けいれんと診断された患者1116人のうち、3割を超える359人は睡眠薬や抗不安薬が発症原因と考えられた。特に、エチゾラム(デパスなど)、ゾルピデム(マイスリーなど)、ブロチゾラム(レンドルミンなど)の服用者が目立った。

 原因不明で起こる眼瞼けいれんには特効薬がない。「まぶたがすぐに閉じてしまう」などの症状に対しては、目の周囲の筋肉にボツリヌス毒素製剤を注射し、開けやすくするなどの対症療法が治療の中心だ。まぶしさに対しては、サングラスでしのぐなどの方法になる。しかし、原因が薬剤と分かれば、医師に相談して原因薬を減薬、断薬したり、このような副作用が少ない薬に代えたりするなどして対処できる。

 井上眼科病院の調査では、薬剤性の患者の約45%は、原因薬をやめたことで症状が顕著に改善した。だが、その多くは服薬歴が5年以内の患者で、5年を超える患者は顕著に改善しない例が多かった。そのため、ベンゾ系などの薬剤を服用中に上記のような目の症状を感じたら、すぐに主治医や神経眼科医に相談することが大切だ。この話題は12月21日の本紙夕刊「からだ面」(東京本社管内)でも取り上げたので参考にしていただきたい。

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佐藤写真

佐藤光展(さとう・みつのぶ)

読売新聞東京本社医療部記者。群馬県前橋市生まれ。趣味はマラソン(完走メダル集め)とスキューバダイビング(好きなポイントは与那国島の西崎)と城めぐり。免許は1級小型船舶操縦士、潜水士など。神戸新聞社社会部で阪神淡路大震災、神戸連続児童殺傷事件などを取材。2000年に読売新聞東京本社に移り、2003年から医療部。日本外科学会学術集会、日本内視鏡外科学会総会、日本公衆衛生学会総会などの学会や大学などで講演。著書に「精神医療ダークサイド」(講談社現代新書)。分担執筆は『こころの科学増刊 くすりにたよらない精神医学』(日本評論社)、『統合失調症の人が知っておくべきこと』(NPO法人地域精神保健福祉機構・コンボ)など。

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