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子宮頸がんワクチン…安全性評価 論争絶えず

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子宮頸がんワクチン…安全性評価 論争絶えず

 子宮 けい がん予防のワクチン接種後に副作用報告が相次ぎ、国が定期接種としての積極的な勧奨を中止して3年半。国内外から勧奨再開を求める声が高まる一方、薬害訴訟も起きており、混乱が続く。

 子宮頸がんワクチンは2009年に最初のワクチンが発売され、11年にさらに1種が加わった。国は10年11月に接種費用の補助事業を始め、13年4月に原則無料の定期接種としたが、接種後に体の痛みや運動障害など重い症状が多く報告されるようになった。国は2か月後の同年6月、定期接種としての位置づけは変えず、接種を促すはがきを送るなどの積極的な勧奨は一時中止すると決めた。

 副作用報告の頻度は、他のワクチンに比べて数倍~数十倍高く、国の追跡調査で未回復の重い症状の患者は186人判明した。

 接種後の痛みを訴える患者の6割以上は、軽い運動療法や考え方の癖を前向きに変える認知行動療法で改善するとの報告もあるが、免疫異常による神経疾患とみて、患者の診療に当たる医師たちもいる。

 鹿児島大学の荒田仁・助教(神経内科)によると、患者には脳血流の異常や、通常はない炎症を引き起こす物質などが見られる。特に重症の患者約20人に、体外で血液を循環させて炎症物質を取り除く治療を行うと3分の2が改善した。荒田助教は「症状を心因性と決めつけられ、適切な治療を受けられず、改善しない例もある」と原因究明や診断基準策定に取り組む。

 今のところ、症状がワクチン成分によるものなのか、副作用と有効性とのバランスをどう評価すべきか、結論は出ていない。

 ただ、厚生労働省の有識者検討会は、症状は接種時の痛みや不安が引き起こした「心身の反応」との見方を示した。世界保健機関(WHO)の専門家委員会は「薄弱な根拠で安全で有効なワクチンを使用しないことは実害をもたらす」と日本を批判した。日本産科婦人科学会や日本小児科学会など15団体も勧奨再開を求める声明を出している。

 一方、症状に苦しむ女性たち119人は今年、国と製薬会社を相手に集団訴訟を全国4地裁に起こした。接種回数は13年初めは月平均で約12万回だったが、今年3~4月は約1200回にまで落ち込んだ。

 こうした中、症状が接種を受けた女性に特有なものなのかどうかを調べる疫学研究が進む。大阪大学の祖父江友孝教授(環境医学)を代表とする厚労省研究班が、全国の主な病院の約2万診療科を対象に、中高生らの症状の実態を調べている。結果は勧奨再開の可否の判断材料になりそうだ。

接種339万人

 子宮頸がんは、ウイルス感染が原因で子宮の入り口にできる。感染者の一部に前がん病変ができ、さらに一部ががんになる。国内で年間約1万人が発症し、約2700人が死亡する。

 現在のワクチンは原因の約5~7割の2種類のウイルス感染を防ぐ。国内では09年以降、約339万人が接種し、厚労省は、その効果で将来、子宮頸がんで亡くなる女性が3600~5600人減ると推計する。

 検診もワクチンと並ぶ予防の要だが、欧米での受診率6~8割に対し、日本は4割前後と低いため、国は啓発に力を注いでいる。検診で小さな前がん病変が見つかると経過観察、大きな前がん病変なら切除する。

 前がん病変を小さくする新たな薬の開発も19年頃の発売を目標に進んでいる。免疫反応を利用した治療ワクチンで、開発を手がける日本大学の川名敬教授(産婦人科)は「切除手術は救命効果が高いが、早産などのリスクが高まる。新しい薬でそうした女性を減らしたい」という。

 (竹井陽平)

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