文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

「健康のためのレジリエンス」…鍛えて、強く復活力のある心と体を

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

 今日は「ちょっとの挑戦が大切だ」というメッセージです。少しずつ挑戦して、鍛えて、強く復活力のある心と体を作ろうということです。そんな復活力を僕は「健康のためのレジリエンス」と呼んでいます。そして今日は子どもに対する接し方でお話しします。わが家の娘もこのように育てています。

 まず、ある食材を食べて、のどが (かゆ) くなることがあります。軽い食物アレルギーが起こっているのです。最近は、そんなことがあるとその食材を遠ざけます。そんな時に、のどが痒くならない程度の少量を食べているとそれを克服することができます。これも、「健康のためのレジリエンス」を鍛えていることになります。逃げずに挑戦するのです。もちろん、命に関わるようなアレルギー反応を起こす物質からは逃げることが大切です。

学校のトイレや給食も…

 小中学校のトイレを全部洋式にしようというプロジェクトがあるそうです。愚かなことだと思っています。洋式に比べると使いにくい不快な和式トイレでも、用をたせるように育てることが大切なのです。和式のトイレを経験していない子どもたちが、将来洋式トイレがない国に派遣されれば、しゃがんで排便できないので、生活していけなくなります。子どもたちに経験させるために、和式トイレをすこし残せばいいのです。

 「まずい給食をなんとかしろ」という意見もあります。僕は栄養学的に間違っていなければ、「まずい給食」もそれで意味があると思っています。まずい物を食べる練習も必要なのです。生きていくためには、少々まずいものを食べる練習も必要です。家庭で好き嫌いのない子どもに育てることが重要なのです。正確に言えば、好き嫌いがあっても嫌いな物をあえて食べさせることが必要なのです。これらは親の (しつけ) のひとつと思っています。

 夏に暑いからと言って、熱中症になるのを避けて屋内でのみ体育の授業をしていれば、暑さに弱い子ができます。熱中症警報が発令されているときに「屋外で授業をしろ」と言うつもりはありません。熱中症注意報ぐらいなら、十分に水分を取って、何度も日陰で休息を取り、そして周囲の仲間に気を配りながら体育の授業や部活を行うことは、将来に熱中症を避ける知恵を授けるためにも大切なのです。

 たまには空腹を我慢させることも大切です。空腹の時に脂肪が燃焼するのです。脂肪を燃焼させるシステムが稼働していれば、空腹でも血糖を維持できるのです。そして蓄えた脂肪が効率的に燃えるのです。空腹の度に炭水化物(主食、甘いもの、果物)を食していては、蓄えの脂肪が燃える暇がありません。そして余った炭水化物のエネルギーは脂肪として蓄えられてしまいます。空腹を我慢してこそ、健康な体になるのです。空腹でも学びたくなる授業、遊びたくなるような時間、夢中になるような部活があればいいのです。

 風邪程度の軽い病気などは子どもの頃に (かか) って、免疫力を強化することも大切だと思っています。一方で、罹ると死ぬ病気にはワクチンが必要です。天然痘などは、かつて40%近い死亡率がありました。こんな病気に敢えて感染するということはちょっと 馬鹿(ばか) げています。もちろん病弱な子どもは、ワクチン接種で感染から守ることも必要です。インフルエンザワクチンは悩ましいですね。ワクチンが感染防止にはあまり効かないという意見も多く、重症化の防止には役立っているようです。わが家では漢方薬を飲んで、短時間で回復するように努めています。これも「健康のレジリエンス」のひとつだと思っています。

ストレス社会だから「心のレジリエンス」も必要

 気が合わない子どももたくさんいるでしょう。いろいろな境遇の子どももいるでしょう。親が外国人の子どもも増えています。片親の子どももいるでしょう。人はみんな違うのです。だからこそ平等と唱える必要があるのです。気が合う子や仲の良い子とだけ遊ぶのは考え物です。いろいろな子どもがいると知ることが大切です。一方で、絶対に関わってはいけない連中もいるのです。そんなことを知っていくことも、将来世の中に出て役に立つ大切な素養と思っています。心が少々の 軋轢(あつれき) に耐えることも、将来理不尽な社会で待っている大きな軋轢に耐えるためには必須の素養と思っています。

 「心のレジリエンス」は、ますます必要になっています。ストレス社会だからです。昔は、タイムカードを押せば仕事は終了でした。今や、ほとんどの場所で携帯電話がつながり、コンピューターも接続可能なので仕事はできます。顧客の不満からも解放される時間がないでしょう。そんなストレス社会だからこそ、子どもの頃から心を鍛える必要があります。少しずつ鍛えれば、最初は対処不能であったようなストレスにも対応可能となります。でも、最終的には逃げなければ体が壊れるストレスを察知する能力が必要です。最後はそんな学校や会社をやめてしまうという選択肢を持てることも、大切な危機管理能力と思っています。

 逃げ回らずに、少しずつ立ち向かって、少しずつ強くなることは、人間の体に定められたレジリエンスだと思っています。逃げ回っているだけでは、決してレジリエンスは強化されません。一方で、とんでもない強敵に、まったく準備しないで立ち向かえば、勝敗は明らかです。間違った対処をすれば死に至ることもあるでしょう。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常の一覧を見る

最新記事