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心療眼科医・若倉雅登のひとりごと

コラム

加齢→目の疾患→自動車運転事故? 科学的根拠はあるのか

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加齢→目の疾患→自動車運転事故? 科学的根拠はあるのか

 高齢者運転による死亡事故がいくつか報道されると、テレビでは連日のように、高齢者(65歳以上)の事故(死亡事故ではなく自損事故も含めて)を探し、いかにも高齢者の運転事故が多いかのようなニュースを流します。私も65歳以上の高齢者に入るので、気になって仕方がないのですが、普段は報道に至らないような事故を、高齢者だからとニュースに仕立てる。興味本位か、あるいは大げさに言えば情報操作が行われているように思われて仕方ありません。

 もちろん、高齢者運転に対する警告をしたいという意図は間違ってはいませんが、実証主義、つまり根拠のあるデータを示すように (しつ) けられてきた、一介の医学者からみると、そういう報道がどれだけ根拠があるのかと疑いたくなります。

 我々が入手可能な信頼できるデータは、警察庁交通局が発表する「交通事故の発生状況」です。平成28年に発表されたもの(平成27年の状況)では、交通事故死者数が4117人でした。

 前年の同報告でも死者は4000人強で、そこには年齢別の詳しい解析があります。

 問題になっている高齢者の運転中の事故はどうでしょう。60歳代の事故構成率は14.8%で、20歳代(20.1%)、40歳代(18.5%)、30歳代(17.3%)に比して、特段高いとはいえません。65歳以上は18.7%で、10年区切りの各年代の数字と比べ確かに高めではありますが、上限年齢なしの65歳以上をまとめた数値ですから、10年区切りの数字と比較するのは不公平でしょう。 

 背景には高齢者の増加もあり、報告された数字から見ると、必ずしも報道から受ける高齢者の運転事故が目立って多いという印象とは異なるように思えます。

 さて、視覚障害者の運転について、去る11月に京都市で開催された日本臨床眼科学会で興味深い発表がありました。「自動車運転と視野」と題した東北大学の国松志保氏によるもので、ドライビングシミュレーターを利用して、緑内障によるこのような視野ではこのような事故が生じやすいといった実験の結果です。

 緑内障は末期になるまで視力低下はしませんので、視力規定だけの運転免許資格に影響する人はわずかです。 実際に視野障害者が必ずシミュレーターのような事故を起こすのかというと、視野は首も目も動かさずに測定するものですが、日常ではそのような不自然な行動はとりませんから、自身の欠点を知って意識したり、一定のトレーニングプログラムを受けたりすることで克服できる部分もあろうと思われます。

 このような実践的なシミュレーション研究が医師主導で行われたことはほとんどなく、視野障害による事故防止策の策定のためにも、これは非常に有意義な研究です。

 「自動車は動かさなければ事故にならない」という笑い話があります。

 高齢者や視覚障害者は事故を起こすから免許を許可するな、という風潮が短絡的にもし出てくれば、高齢者の行動範囲を制限し、ひいては人々の生存権を奪いかねません。しっかりした科学的根拠を蓄積した上で、対策してゆく必要があるでしょう。(若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)

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201505_第4回「読売医療サロン」_若倉

若倉雅登(わかくら まさと)

井上眼科病院(東京・御茶ノ水)名誉院長
1949年東京生まれ。北里大学医学研究科博士課程修了。グラスゴー大学シニア研究員、北里大学助教授、井上眼科病院副院長を経て、2002年から同病院院長。12年4月から現職。北里大学医学部客員教授、日本神経眼科学会理事長などを兼務し、15年4月にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、副理事長に就任。「医者で苦労する人、しない人---心療眼科医が本音で伝える患者学」(春秋社)、「健康は眼に聞け」(同)、「目の異常、そのとき」(人間と歴史社)、医療小説「高津川 日本初の女性眼科医 右田アサ」(青志社)、「茅花流しの診療所」(同)など著書多数。専門は、神経眼科、心療眼科。予約数を制限して1人あたりの診療時間を確保する特別外来を週前半に担当し、週後半には講演・執筆活動のほか、NPO法人などのボランティア活動に取り組む。

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