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精神科医・松本俊彦のこころ研究所

コラム

松本俊彦さんインタビュー(下)薬物依存症の治療プログラムとは?

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 ――最後に、今、依存症に苦しんでいる本人と社会に対するメッセージをお願いします。

 

 「まず、依存症の人たちに対しては、孤独にならないでほしいのです。1人にならないでほしいということです。では、1人にならないからといって、上から目線で説教する人が近くにいればいいのかというとそうではありません。薬物依存者は薬を使っているということをいつも誰かに隠しているから、誰といても孤独なんですよ。だから、そうならないで済む場所に行くことが孤独から解放されることです。それは専門医療機関、ダルクや自助グループ、あるいは地域の精神保健福祉センターだと思います。正直に『やりたい』とか『やっちゃった』と言える場所――。そこを見つけることが、まずあなたが孤独から回復する第一歩なんだと伝えたいです」

 

 ――精神保健福祉センターの職員は叱ったりしませんか?

 

 「大丈夫です。それに、全国に約70か所ある精神保健福祉センターのうち30か所は、すでに簡易版のスマープで薬物依存症の人を支援しています。しかも、その管轄エリアの住民であればお金もかかりません」

 

 ――近所には行きたがらない人もいるかもしれませんね。

 

 「そういう人の場合には、専門医療やダルクを利用するという選択肢があります」

 

 ――次に社会一般の人に対しては何を伝えたいでしょうか?

 

 「確かに薬物依存症は、犯罪という側面もありますが、同時に依存症という病気の側面もあり、少なくとも、何度も逮捕されたりする人は好きで使っている人はいないと思います。好きじゃないけれどもやめられなくなっているんだということを理解してほしいです。この病気をこじらせるのは孤独、あるいは排除や差別なんです。だから、ぜひ受け入れてほしいと思います。それから、30年前の啓発標語に、『人間やめますか? 覚醒剤やめますか?』というのがありましたが、あれはウソです。人間は薬を使っていても使っていなくても人間だし、単に覚醒剤をやめることが必要だというだけですよ」

 

 ――標語と言えば「ダメ、ゼッタイ!」も批判されていますね。それでも日本では使い始める子供が少ないという意味で、一定の効果はあるのではないですか?

 

 「でも本当のことを言えば、日本の場合、1割の子供たちがこの標語に対してネガティブな反応をして、9割の子たちは肯定的な反応をする。だけど9割の子たちは、啓発のための講義を受けなくても使わないと思います」

 

 ――そうした啓発活動は、薬物依存になるリスクが高い、生きづらさを抱えている子が、「うちのお父さんも使っていたから、自分はダメな人間なんだ」など、余計に自分を否定するきっかけにしてしまう問題も指摘されていますね。

 

 「そうですね。大事なのは1割の生きづらい子たちのサポーター役として、9割の子たちが活躍できる教育をしてほしいのですよ。生きづらい子たちは誰に相談するかというと、親や先生ではなく、友達に相談するんです。友達がサポーターになって、でも子供たちだけで抱え込まずに、頭ごなしに叱責しない大人たちにつなげてあげてほしいです」

 

 ――以前、 自傷の取材 をさせていただいた時と同じメッセージですね。

 「はい、まったく同じなんです」。

 (終わり)

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松本 俊彦 (まつもと・としひこ)

 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長

 1993年、佐賀医科大学卒業。横浜市立大学医学部附属病院精神科助手などを経て、2004年に国立精神・神経センター(現、国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所 司法精神医学研究部室長に就任。以後、同研究所 自殺予防総合対策センター副センター長などを歴任し、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神科救急学会理事、日本社会精神医学会理事。

 『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)、『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『もしも「死にたい」と言われたら――自殺リスクの評価と対応』(中外医学社)、『よくわかるSMARPP――あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存臨床の焦点』(同)など著書多数。

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