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小泉記者のボストン便り

医療・健康・介護のコラム

全米で進むマリフアナ合法化の功罪

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コロラドでは税収増も知事は「合法化は慎重に」と呼びかけ

 米ギャラップ社が選挙前の10月に行った世論調査では、マリフアナの合法化を支持した人は60%と、過去最高となりました。特に18歳から34歳の支持は、77%にも上りました。調査が始まった1969年には賛成が12%にすぎませんでしたが、2000年に30%を超えてからは、ほぼ毎年割合が上昇し続けており米国では特に若年層を中心にマリファナへの抵抗感が徐々に低くなっていることが分かります。同社の7月の世論調査で、18歳以上でマリフアナを過去に一度でも使ったことがあると答えた人は43%にも上りました。

 米国では1996年にカリフォルニア、アリゾナの両州で初めて医療用としての合法化が決まりました。それ以降は、医療に生かせる可能性が指摘され、「たばこや酒の方が健康に悪い」との認識が広がりつつあります。オバマ大統領も14年の雑誌のインタビューで、子供のころにマリフアナを吸ったことを認め「悪いことだが、たばことそれほど変わらずアルコールより害があるとは思わない」と発言しています。

 ただ、連邦法は医療用、娯楽用を問わずマリフアナの使用を禁止しており、ねじれが生じています。オバマ政権は、「マリフアナの合法化には反対だが、州法を尊重する」との立場でしたが、トランプ政権がどのように対応するのかは未知数です。

 2014年1月から全米で初めて娯楽用のマリフアナの販売が解禁されたコロラド州では、昨年、税収が1億4100万ドル(約141億円)になり、マリフアナ関連産業で仕事も増えました。しかし、同州のジョン・ヒッケンルーパー知事は、選挙前の10月30日に放送された米CBSの番組で、「合法化を考えているほかの州は、もっと慎重になってあと数年待ってから決めたほうがいい」と忠告しました。コロラド州では、合法化直後の14年3月に、留学生(当時19歳)が、マリフアナ入りのクッキーを食べた後、ホテルで転落死する事故が起こり、子供への悪影響を懸念する声が広がっています。

コロラド州で新たに採用されたマリファナ入りの商品であることを示すシンボル(同州提供)

コロラド州で新たに採用されたマリファナ入りの商品であることを示すシンボル(同州提供)

 今年10月には、普通の商品とマリフアナ入りの商品の区別をはっきりさせて子供に危険であることがわかるように、マリフアナ入りの商品にはシンボルマークを付けることなど新しいルールを付け加えました。ヒッケンルーパー知事は「子供の使用が劇的に増えていないのか、車の運転中の乱用がないのかなどまだデータを集めている最中で、自信をもって合法化を勧められるだけの裏付けはない」と話しました。

子供への影響懸念

子供への影響を懸念するボストン小児病院のルビー医師

子供への影響を懸念するボストン小児病院のルビー医師

 「マリフアナには中毒性があり、子供たちへの脳の影響は甚大。マリフアナの長期的な使用の影響については、未解明なことも多く、研究より合法化の流れが先行してしまっていることはとても残念」。ボストン小児病院で薬物依存の子供たちの治療を担当しているシャロン・ルビー医師はそう訴えます。マリフアナには色々な害が指摘されていますが、最も深刻なのは、若者が使用すると、脳の発達に悪影響があることです。米国立薬物乱用研究所(NIDA)は、若者のうちからマリフアナを使うとIQの低下が認められ、思考や記憶、学習の能力に長期的、または永続的な影響を及ぼす可能性があるとして大きな懸念を示しています。

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新しいシンボルマークがついたマリフアナ入りのチョコレート(コロラド州提供)

 また、マリフアナは、コカインやヘロインなどのほかの薬物への入り口の薬物(gateway drug)になるとの指摘もあります。ルビー医師は、「私が担当している患者の100%は、マリフアナから始めている。アルコールのように規制をしても、チョコレートやキャンディーといった子供たちにとって魅力的な食品が出回れば、より低年齢の子供たちが関心を持つのでは」と懸念します。

 マリフアナの健康に対するリスクや医療面での効果については、まだまだ研究の最中です。米食品医薬品局(FDA)は、「医療用のマリフアナが、現状でエイズによる衰弱や、がんや、がんの化学療法による吐き気などの治療に使われていることは認識している」とした上で、「マリフアナそのものを医療品として承認するためには、科学的な根拠が必要」と指摘し、研究の支援をしている段階です。世界保健機関(WHO)も、「さらなる研究が必要」との立場です。

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「マリフアナの合法化は時期尚早」と話すマサチューセッツ医師会のジェスナー会長

 さらに米国では、強い鎮痛作用のある医療用麻薬(オピオイド)の乱用が大きな社会問題になっています。2014年には約2万8000人以上の死亡が報告され、過去最悪を更新しました。NIDAは、現在流通しているマリフアナは、中枢神経系に作用する「テトラヒドロカンナビノール(THC)」という成分が、20年前の2~3倍に増えているとし、「以前より中毒になるリスクが高い」とも指摘しています。マサチューセッツ医師会のジェームス・ジェスナー会長は、「今、子供たちが手に取るマリフアナは、昔のものとは全く別物だということに気付いてほしい。これ以上、薬物中毒の問題の原因を増やすことには反対だ。医療用も含めて合法化は時期尚早だ」と話し、強く反対しています。

日本でも若者の摘発が増加

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新しいシンボルマークがついたマリフアナ入りのミント菓子(コロラド州提供)

 日本では、マリフアナの所持や栽培、譲渡は、大麻取締法で厳格に禁止され、医療用も禁止されています。最近では、元俳優の逮捕も話題になりましたが、警察庁によると、昨年の大麻の摘発者は2101人で、前年より19.3%増えました。摘発者が2000人を超えたのは10年以来、5年ぶりのことです。20歳代が最も多い890人(前年比35.3%増)で、20歳未満も144人(同80%増)と若者の摘発が増えています。

 米国では、日本とはずいぶん違う事情があり、賛否両論があるなかで合法化の流れが加速していることがわかりましたが、子供への影響を心配するルビー医師の意見が一番共感できました。来年1月に新政権になって、州法と連邦法とのねじれがどのようになるのか、まだ先は見通せませんが、科学的な根拠に基づいた慎重な議論が必要だと思いました。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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2件 のコメント

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極論するなら大麻はタバコ・アルコールと同じくらい危険です。 大量、高濃度に摂取すれば危険。それは塩分でも同じですが、リラックス感という魅力が大麻...

極論するなら大麻はタバコ・アルコールと同じくらい危険です。

大量、高濃度に摂取すれば危険。それは塩分でも同じですが、リラックス感という魅力が大麻にはつきます。

仮に抗不安剤や鎮痛薬として用いるにせよ、医師の処方としてが適切だと思います。
そのためには大麻が人間に与える徹底的な研究が必要です。

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マリファナ解禁とそのメリット

ボンバルデア

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欧米のマリワナ解禁を強力に支持してきた市民意見の中で、前世紀の悪法といわれた米国の禁酒法が議論された。禁酒法によってマフィアと呼ばれる巨大な闇組織が誕生した。
解禁論は、この苦い過去の経験から麻薬のなかではタバコ・アルコール程度の中毒性の軽いマリファナを合法化して、闇社会の拡大をなくそうと前向きな議論から始まっている。
日本でも、闇薬物社会が徐々に肥大していることもあり、この視点からも解禁論議は差し迫った課題でもあります。

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