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小泉記者のボストン便り

コラム

全米で進むマリフアナ合法化の功罪

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トランプ氏 「オバマケアの廃止再考」を示唆も先行きは不透明

 米大統領選の投開票から早いもので1か月近くがたとうとしています。ボストンでは、休日になると公園などで反トランプ集会が行われており、大統領選の余波が続いています。大学でも大統領選はまだ話題の中心です。トランプ氏の集会に一度参加してから、陣営からのメールがしばしば届くようになりましたが、その中に来年1月20日の大統領就任後、100日間に取り組む施策についての支持者の意見を聞く調査がありました。

 「(メキシコに接する)南側の国境に壁を作り始める」「オバマケアを廃止し、別の制度に置き換える」「犯罪歴がある移民の国外追放を始める」など29の項目がずらりと並び、「とても重要」「少し重要」「重要でない」などと支持者に優先度を尋ねるものでした。同じ内容のメールが11月中旬に3回も届き、新政権の移行に向けた作業を急いでいることが伝わってきました。29項目は選挙戦でトランプ氏が主張していたことばかりですが、過激な内容が多い項目を改めて見ていると、今後何が起こるのかと少し不安になりました。

 前回のコラムでは、米国の医療保険制度「オバマケア」について取り上げましたが、トランプ氏は、選挙後、一部の新聞やテレビのインタビューで、「オバマケアは廃止せず、一部は存続させることも検討する」と発言しました。選挙中は廃止を強く訴えていたので方針変更のようにも見えますが、前回の記事で専門家が指摘していたように、共和党が上院の3分の2を占めていない状況では、そもそも全廃は難しい状況でした。

 トランプ氏は、がんなどの既往症があっても保険に入ることができる部分や、親と暮らす26歳までの若者は親の保険に残ることができるといった部分を残すことも検討するとしましたが、これらの条件だけを残せば健康な人はますます保険には入らなくなり、保険料が今以上に高騰して制度自体が立ち行かなくなるとの指摘も出ています。トランプ氏は、厚生長官にオバマケアの廃止を強く訴えてきた共和党下院議員のトム・プライス氏を指名する人事を発表しており、依然として制度の先行きは不透明です。今後もトランプ氏の発言に注目していきたいと思います。

マサチューセッツなど3州で娯楽用のマリフアナが合法化

 大波乱の大統領選挙の陰に隠れてしまった感がありますが、同じ日に、重要な論点についての住民投票が、ボストンのあるマサチューセッツ州やカリフォルニア州など5州で行われました。マリフアナ(大麻)の娯楽目的の使用の是非を問う住民投票です。その結果、マサチューセッツ、ネバダ、カリフォルニアの3州で「賛成」が過半数を占め、合法化されることが決まりました。5州のうち、アリゾナでは否決、メーンは賛成派が僅差で上回りましたが、再集計されることが決まりました。これで娯楽用のマリフアナの合法化を認める州は、7州とワシントンDCになりました。

 医療用のマリフアナを合法化する州も3つ増え、全米50州のうちで28州と半数を超えました。日本人の私には信じがたいことですが、マリフアナの合法化の流れは米国で加速しています。しかし、マリフアナのリスクや医療用の効果については、未解明なことも多く、特に子供の健康への影響を懸念する声も根強くあります。

 「私は賛成票を入れた。マリフアナはタバコと同じで、合法化しても何の問題も感じない。闇で取引されるよりも、きちんと規制した方がずっといいと思う」。大統領選が行われた11月8日、投票を終えたばかりのボストン市内の女性(36)は、そう話しました。マサチューセッツ州では、大統領選と同日に、4つの問題について住民投票がありましたが、娯楽用のマリファナの合法化を問う「Question4」は、一番の注目を集めました。

全米で進むマリフアナ合法化の功罪

合法化に向けて活動をしてきたボーグサニさん

 「多くの市民が我々の考えを受け入れてくれてとてもうれしい。アメリカ人にとってマリフアナはとても身近なもので、危険なものではない。子供たちへの影響をなくすために闇市場をなくし、アルコールのように規制して、課税すべきだ」。住民投票を呼び掛け、合法化を推進してきた市民団体のジム・ボーグサニさんは歓迎します。マリファナには、中枢神経系に作用して幻覚などを引き起こす「テトラヒドロカンナビノール(THC)」という成分が含まれ、マリファナを吸うと肺から血流に入り脳や他の臓器に運ばれます。そして脳の一部を過剰に反応させて「ハイ」の状態を作り出します。米国立薬物乱用研究所(NIDA)は、マリファナには記憶力の低下や気分の変化、思考や問題解決能力の鈍化といったリスクがあるとしています。ただ、2010年にイギリスの医学雑誌「ランセット」に掲載された研究では、20種類の薬物がもたらす害について最高値を100として比較したところ、アルコール72、ヘロイン55、タバコ26、マリファナ20という結果になりました。この研究ではアルコールやタバコの方が害は大きいことになり、賛成派はこれらを根拠に合法化を推し進めていきました。

 しかし、マリファナの長期的な健康への影響はまだ未解明なことも多く、若者が摂取すると脳の発達に影響があることもわかっています。同州議会の資料によると、同州の高校生の4人に1人はマリフアナを使った経験があるとみられ、賛成派は、規制をすることで子供にとって安全な環境を作りたいと主張してきました。このほか、マリファナの所持で逮捕される人の割合は、白人に比べて黒人が3倍も多く、社会正義に反することなども指摘してきました。

 マサチューセッツ州では、2012年の住民投票で医療用のマリフアナが合法化されました。今回の住民投票で、早ければ今月15日から、21歳以上の人について、1オンス(約28グラム)の所持と公共の場以外での使用が認められることになりました。家でも一人6株の栽培ができるようになる見込みで、2018年からはマリフアナのほか、マリフアナを含んだクッキーなどの食品の販売も可能になる予定です。

 すでに合法化されているコロラド州やワシントン州などでは、運転をする際の基準や、栽培業者への規制などもありますが、マサチューセッツ州では、今後規制委員会を作った上で、具体的なルール作りが行われることになります。合法化をビジネスチャンスととらえる人も多く、売上が落ちているたばこ産業などが参入の可能性を探っているそうです。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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1件 のコメント

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マリファナ解禁とそのメリット

ボンバルデア

欧米のマリワナ解禁を強力に支持してきた市民意見の中で、前世紀の悪法といわれた米国の禁酒法が議論された。禁酒法によってマフィアと呼ばれる巨大な闇組...

欧米のマリワナ解禁を強力に支持してきた市民意見の中で、前世紀の悪法といわれた米国の禁酒法が議論された。禁酒法によってマフィアと呼ばれる巨大な闇組織が誕生した。
解禁論は、この苦い過去の経験から麻薬のなかではタバコ・アルコール程度の中毒性の軽いマリファナを合法化して、闇社会の拡大をなくそうと前向きな議論から始まっている。
日本でも、闇薬物社会が徐々に肥大していることもあり、この視点からも解禁論議は差し迫った課題でもあります。

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