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ポケモンGO思わぬ効用?…自殺多発場所で抑止力に

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福井・東尋坊…出現情報が人集める

 スマートフォン向けゲーム「 ポケモンGO 」を楽しむ人が多数訪れ、自殺しようとする人が減った? 「自殺の名所」と呼ばれてきた 東尋坊とうじんぼう (福井県坂井市)が今秋、こんな話題で注目された。「死にたい」という心境に追いつめられた人は、どんな場所なら思いとどまれるのか。

ポケモンGO思わぬ効用?…自殺多発場所で抑止力に

ポケモンGOを楽しむ人たちが増えた東尋坊。「名所」の雰囲気にも変化が(11月初旬、福井県坂井市で)

 11月上旬の週末、東尋坊は大勢の人でにぎわっていた。よく見ると、多くがスマホを手にしている。

 「ここはポケモンがたくさん出る。レア(珍しい)ポケモンだけじゃなくて、普通のも多いですよ」

 そう言ってスマホの画面を見せてくれた女子大学生(19)は、地元の坂井市内在住。観光ではなく、ポケモン目当てに訪れた。

 自殺防止を目指すNPO法人「心に響く文集・編集局」は、東尋坊に軽食店兼相談所を設け、岩場をパトロールして悩みのありそうな人に声をかける活動をしている。ポケモンGOの日本での配信開始直後の8月、その活動で保護した人はゼロ。一方で、夜までポケモンGOをする人の姿が目立った。

 このことがメディアで報じられた9月以降これまでに保護したのは計16人だが、うち9人は岩場での声がけではなく、自ら相談所を訪れるなどした人だった。

 代表の しげ 幸雄さんは「自殺を考える人は人けのない場所を選ぶものだが、ポケモンGOをする人が岩場周辺にいるので思いとどまったのでは」と話す。

 こうした現象について、自殺対策に取り組むNPO法人ライフリンク(東京都千代田区)代表の清水康之さんも「自殺しようと遠くに行く人は、心が揺れ動いている場合が多い。イメージした雰囲気と違っていたら、自殺をためらうことはありうる」とみる。

 ポケモンGO人気が、いわゆる「名所」での一つの自殺予防策になったのだろうか。政府の自殺総合対策大綱でも「自殺の多発場所における安全確保の徹底」がうたわれ、自殺が多い場所に着目した予防策が重要視されている。

 筑波大教授で精神科医の高橋 祥友よしとも さんによると、自殺未遂者への聞き取りから、「名所」を選ぶ理由には、〈1〉人目につきにくい〈2〉確実に死ねそう〈3〉美しい場所で最期を迎えたい〈4〉多くの人が亡くなっているため「一人じゃない」と思える――などが挙げられている。

 予防策では、「防護柵を設けるなどの物理的バリア(障壁)と、人が声をかけるというような心理的バリアが有効。人目につきやすいということも、自殺の抑止につながる」と高橋さんは指摘する。自殺の多発場所に相談電話を設置したり、相談窓口を知らせる掲示板を設けたりすることも効果があるとされる。

 日本は2011年まで年間の自殺者が3万人を超えていたが、対策強化で減少。15年は約2万4000人に減った。「自殺予防は手段を封じることが大事」と清水さん。「ながら運転」で交通事故が起きるなど問題も指摘されるポケモンGOだが、自殺予防のヒントを持っているのかもしれない。

  ポケモンGO  スマホの全地球測位システム(GPS)機能を使って利用者の位置情報を割り出し、画面に映る現在地の地図上で、現れたポケモンを捕まえるゲーム。今年7月22日に日本でも配信が始まった。利用者が外を移動しながらゲームを進めるのが斬新で、世界的にヒットした。(高梨ゆき子)

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