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アレルギー対策、初の指針案…医療の質、底上げ急務

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 厚生労働省は2日、ぜんそくや花粉症、アトピー性皮膚炎などアレルギー疾患対策の推進を目指す初の基本指針案をまとめた。誰もが正しい情報を入手でき、適切な医療を受けられる体制の整備が柱だ。方向性は示されたが、実現への課題は山積している。

  ◆推奨治療普及せず

 「親子ともにぐっすり眠れる。学校も休まず通う息子を見ていると、一緒に苦しんだ毎日がうそのよう」

 神奈川県の主婦(51)は長男(17)のアレルギー症状に長年、悩んできた。アトピー性皮膚炎から始まり、卵や果物、ピーナツの食物アレルギーにぜんそく、鼻炎。小児科や皮膚科、アレルギー科を転々とし、入退院を繰り返した。

 2014年にたどりついた病院で治療を受けると、劇的に改善した。朝夕はシャワーを欠かさず、泡立てたせっけんで皮膚をきれいに洗い、保湿剤とステロイド薬をたっぷりと覆うように塗る。ぜんそくの発作予防のステロイド吸入薬も朝夕続ける。ぜんそくや皮膚の状態が落ち着くと食べられるものも増えていった。

 いずれも関連学会が推奨する標準的な治療だ。適切に行えば日常生活に支障がない程度に症状を抑えられるが、十分に浸透していない。アレルギー疾患は国民の半数が持つとされ、診療する医療機関や診療科があまりに多く、学会の推奨だけでは標準的な治療が普及しないのが現状だ。

 厚生労働省研究班の調査では、アトピー性皮膚炎患者の5割強が、主治医から「ステロイド薬はできるだけ薄くのばして塗る」と誤った指導を受けていた。ぜんそくの発作予防薬も適切に使われていないことがわかった。

 園部まり子・アレルギーを考える母の会代表は「受診した医師により、快適な生活を手にできるかどうか、人生が分かれる」と指摘する。誤った情報に接した患者や家族が高額な民間療法にすがることも珍しくない。

 アレルギー疾患は患者数が多く、日常生活に大きな支障を及ぼすにもかかわらず、国の取り組みは遅れていた。昨年12月、アレルギー疾患対策基本法が施行され、ようやく動き出した。

 指針案では、どこでも適切な治療が受けられる医療体制の整備が示された。国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)と国立病院機構相模原病院(相模原市)などが全国の拠点となり、地域の拠点となる病院や多くの患者が受診するかかりつけ医と連携する。厚労省は今後、検討会を設置し、各拠点病院の役割や条件を具体的に検討、18年度からの事業化を目指す。

 検討会に参加する国立病院機構相模原病院の海老沢元宏アレルギー性疾患研究部長は「アレルギー診療は時間も人手もかかり、赤字部門になりがち。積極的に取り組む病院が減っており、全国にバランス良く拠点病院を配置できるかどうかわからない」と懸念する。

 地域の実情に応じた整備には、各自治体の役割も重要だが、今年3月時点の全国調査では、市区町村の4割がアレルギー疾患対策を全く講じていなかった。

  ◆人材育成も

 人材育成も課題だ。日本小児難治 喘息ぜんそく ・アレルギー疾患学会は09年から「小児アレルギーエデュケーター」を養成している。患者の年齢に応じ、薬の効果的な塗り方や吸い方を丁寧に指導する。これまで看護師ら349人が認定されており、同学会理事長の赤沢晃・都立小児総合医療センターアレルギー科部長は「国や自治体は、各地の医療機関への配置を促す取り組みを進めてほしい」と訴える。

 適切な治療を受けられず、苦しんでいる患者や家族をなくすため、指針案で示された対策を着実に進めることが求められる。

  指針案で示された主な対策

・全国と地域の拠点医療機関とかかりつけ医との連携協力体制を整備する

・ホームページなどで、最新の知見に基づいた正しい情報提供を充実させる

・関係学会の認定制度などを活用し、医師や看護師らの知識と技能の向上をはかる

・アレルギーの子どもがほかの子どもと分け隔てなく学校生活を送るため、適切な教育を行う

・災害時のアレルギー食などの確保や適切な提供を行う

  〈アレルギー〉  病気を起こす異物を排除する免疫の仕組みが過剰に働いて起こる。命に関わるショック症状を招くこともある。アレルギー疾患対策基本法では、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーの6疾患の対策を求めている。

発症予防の研究推進

 近年、発症予防の研究がが進み、以前は当たり前のように信じられていたことが、今は否定されている。妊娠中や授乳中にアレルギーの原因になる食べ物を避けることで、生まれてくる赤ちゃんの食物アレルギー予防になるというのもその一つだ。

 国立成育医療研究センター研究所の斎藤博久副所長は「消化吸収を担う腸には、食物を攻撃すべき異物とみなさない仕組みがある。むしろ、この仕組みがなく、防御力の弱い乳児期の皮膚からの侵入が発症の引き金になる」と解説する。

 乳児期に、荒れた皮膚からダニや食べ物のカス、花粉などが侵入すると、免疫の過剰反応が起きる。成長に伴い、その物質が口から入れば食物アレルギーに、のどに入ればぜんそくと、症状が次々に出るとする仮説が有力視されている。

 基本指針案では、研究の推進や成果の普及、活用が盛り込まれた。斎藤副所長は「アレルギーの連鎖を断つ研究をさらに進め、最新の有益な情報を国民に広く伝える仕組みも整える必要がある」と話している。

 (医療部・中島久美子)

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