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茂木健一郎×石川善樹スペシャル対談

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茂木×石川スペシャル対談(4)ネットワークで健康づくりの時代へ

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 脳科学者・茂木健一郎さんと、予防医学研究者・石川善樹さんが9月13日、「『人生100年時代』を生き抜く脳・心・体の健康法」をテーマに、東京・大手町のよみうり大手町小ホールで対談しました。この対談は、読売新聞東京本社医療ネットワーク事務局の発足記念イベントで、ヨミドクターや読売プレミアムの会員の皆さんなど約160人が耳を傾けました。ここでは、対談イベントの詳報をお伝えしていきます。4回目は対談の後編で、「組織を通じた健康づくり」や「健康に良い習慣の続け方」について2人が議論を繰り広げたほか、会場からの質問にも答えました。

「茂木×石川 スペシャル対談(4)」

【24~131MB 時間:10分57秒】

<ゲスト>

茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)さん

茂木健一郎120

脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。近著に「成功脳と失敗脳」(総合法令出版)。

石川 善樹(いしかわ よしき)さん

石川120

予防医学研究者・医学博士。(株)Campus for H共同創業者。1981年 広島県生まれ。東京大学医学部卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。近著に「疲れない脳をつくる生活習慣」(プレジデント社)。

今の時代、ネットワークからのアプローチが重要……茂木さん

茂木 ネットワークから健康にアプローチするということは、今の時代、例えば、インターネット、様々なハイテク機械、ロボット、人工知能などの技術をネットワークに利用することは、技術的には行いやすい。個々人の自由意思までには介在しないけど、ネットワークの整備ということで、結果として、その人の健康状態を良い方向に持っていくことがこの時代は可能になります。逆に言うと、個人の個性の尊重にもつながるのではないでしょうか。 

石川 そうですね。専門的には「ネットワーク・アプローチ」と言いますが、個人個人にアプローチするよりも、ネットワークにアプローチした方がいいという、最近の考え方です。企業や小さい地域ではネットワークが把握できるので、実現しやすい。私は島根県雲南市の健康づくりをお手伝いしています。村の地区ごとに交流センターがあって、それぞれにセンター長さんがいます。センター長さんはその地域のことをよく知っていて、その方の影響力をうまく活用することで、そこから村全体に波及するということがあります。 

茂木 ロビン・ダンバーというイギリスの人類学者の研究によると、「ネットワークサイズ150」といって、サルが毛づくろいする仲間の、脳のキャパシティーとして150人ぐらいのネットワークは維持できるそうです。(我々がネットワークを持つ場合)同じ職場の人だけで知り合いが150人いるというと、多様性は失われます。趣味やボランティアのサークルでもいいし、卒業生の同窓会組織でもいい。そういうつながりがすごく大事な気がします。

 

3つ以上の組織に入ると要介護の確率下がる……石川さん

石川 そういう研究もしています。人は定年退職すると、いろんな組織を探します。「いくつぐらいの組織に所属すると、人は健康で認知症にならずにいられるのだろうか」という研究をしました。調べてみると、1つも所属していない人がいちばん不健康でした。かといって、1つや2つの組織に所属していても、実はそれほど効果はありません。3つ以上、なぜかは分からないのですが、3つ以上の組織に所属したとたんに、介護が必要になる確率が一気に下がることが分かりました。 

茂木 3つの組織の違いや類似性の評価も入れると、3という数字だけでなく、何かが分かるかもしれませんね。 

石川 まさにダイバーシティースコアという概念があります。年代が幅広いとか、男女比がどうかとか、そういう意味でも多様な組織にいるといいのか、悪いのか、という研究が行われています。 

茂木 学者だけの付き合いは絶対嫌ですね。例えば、テレビ局でお笑いタレントさんと話していると、全然違う。世界観が違う。新聞社も独特な世界で、すごく大事にしていることがあって、それが違うから、僕は気持ちいいですよ。

 

茂木さんを見て生き方を変えた……石川さん

会場からの質問に耳を傾ける茂木さん(右)と石川さん(9月13日、よみうり大手町小ホールで)=秋元和夫撮影

会場からの質問に耳を傾ける茂木さん(右)と石川さん(9月13日、よみうり大手町小ホールで)=秋元和夫撮影

石川 僕は茂木さんにインスパイアされて、生き方を変えたところがあります。今から3年前まで、本当に研究者の中にしかいなかった。茂木さんのことを知って、「そうやって自由に活動できる研究スタイルもあるな」と思って、3年前から世の中の人と交流を始めました。とはいえ、つながりは増やそうといって増やせるものではないんですが、NHKのNews Webというニュース番組に出させてもらってからガラリと変わりました。

茂木 まずメディアに出て有名になるということが大事だね。

石川 茂木さんはそういう意味で参考にしている人はいるのですか。

茂木 いません。いないけど、こうなっている。ただ、健康情報というか、僕が東京マラソンを完走できたのは小出義雄さんの本を読んだおかげです。「30キロまでペースを抑えて、30キロ以降でペースを最大にしろ」というたった1文が、全てを変えた。僕は「人生はチャレンジの連続」だと思っています。僕が今やっているのは英語の小説を書くこと、これ、意外と大変です。そのヒントになったのが、村上春樹さんの「職業としての小説家」に書かれていた、たった1行のことです。村上さんは自分で自分の小説を英語に訳して、ニューヨークに持ち込んだ、と書いてあって、そうするとアメリカの作家と全く同じスタートラインに立つじゃないですか。たった1行そう書いてあって、僕は自分で最初から英語で書いて持っていこうかなと思いました。それは失敗に終わるような予感がしますが、たった1行の、生き方についての示唆が人生を広げるということはあるかな。

 

関心のない人に健康情報をどう伝えるかが問題……茂木さん

茂木 ヨミドクターと読売プレミアムに連載しているコラムの題名は、実は私のいちばん嫌いな言葉「脳トレ」なんです。自分では絶対使わないし、世間の脳トレブームって大嫌いに決まっています。でも、世間の「脳トレ」への理解がいかに浅いかということを、「脳トレ」という言葉をフックにして語ることは可能なはずだと思いました。だから、かなり気合を入れて連載を書いています。先日もドイツのバイロイトへワーグナーの楽劇を聴きに行った話題を書きました。芸術って脳トレを超えているじゃないですか。だから「本当の芸術体験は脳トレの領域を超えたときに初めて現れる」と書ける。そこだけの興味しかない人にも伝えられる。それは健康情報を伝える普遍的な問題だと思います。

 

「楽しいから」「好きだから」が大切……石川さん

石川 研究の側面からいうと、健康に良い行動はたくさんあるんですよ。「運動だ」「食事だ」と。でも、たくさんの行動は一度にはできない。では何から始めたらいいのか、という研究をしました。結論としては「自分が一番好きなことから始める」です。そうすれば、それをフックとして、他の行動に連鎖していくのですね。「健康にいいからやる」のではなく「楽しいからやる」「好きだからやる」、それが僕のいちばん伝えたいことです。 

茂木 対談の終わりにふさわしい。じゃあ、皆さん、たった1つでいいのですね。とにかく好きなことから始めましょうか。 

石川 「つながりを作る」でもいいですし、「好きなものを食べる」でもいい。 

茂木 活字を読むのもいいですし。 

石川 新聞は認知症予防になりますしね。

(対談終わり、次頁はお二人と来場者との質疑応答です)

 

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