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腰痛・膝痛を治す「筋肉のコルセット」…強さだけでなく軟らかさが大切

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 加齢とともに症状の出る人が増えるものの、我慢してやり過ごすことも多い腰や膝の痛み。BS日テレ「深層ニュース」では、ここ数年腰痛に悩む元体操金メダリストの森末慎二さんが、腰や膝のスペシャリストである石橋英明医師に、効果的な腰痛・膝痛の克服法を聞いた。

(構成 読売新聞専門委員・松井正)

現役時代の体の悩み

――今回、番組で20代から80代の男女80人に街で聞いたところ、31人が腰と膝のどちらかに痛みがあると答えました

石橋  多いですね。厚生労働省の調査でも、腰痛と関節の痛みは男女とも常に体の症状の上位5位に入っており、まさに国民病といえます。

腰痛・膝痛を治す「筋肉のコルセット」…強さだけでなく軟らかさが大切

BS日テレ「深層NEWS」より

――森末さんは1984年ロスオリンピックの体操金メダリストとして知られますが、大活躍の裏には体の悩みもあったのでは?

森末  長年体を酷使し、膝や腰に負担をかけてきました。大学時代には右膝の半月板を割り、手術で摘出。3か月後にはこれをかばって左アキレス腱(けん)を断裂し、1年後に今度は右アキレス腱を断裂しました。激しい運動で左ふくらはぎを半分断裂したこともあるなど、まさにボロボロです。

 ただ、本当に腰が痛いと思い始めたのはここ数年。現役引退後も結構体を動かしていましたが、この年になると徐々に動かなくなり、固まってきます。現役時には、やや腰が痛くなるとマッサージし、ひどくなると整形外科へ行くやり方でした。今は動かないと腰の痛みが出てしまい、休み休み治していく感じです。

――アスリート特有の症状ではなく、一般の人も同じなのでしょうか?

石橋  森末さんの場合、体操競技で負担がかかり、腰や膝を強く痛めたことの影響はあるかもしれません。ただ、年齢とともに徐々に体が硬くなるのは、一般の方にも同じように起きることです。腰では一つ一つの腰骨を、椎間板がつないでいます。この椎間板や、腰骨の周囲の靱帯(じんたい)や背筋、腹筋などを競技で痛めると、腰痛として表れます。痛んだ組織は治った後も硬さを残しやすく、マッサージでほぐすと楽になるのはそのためです。

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加齢に伴う体の変化。BS日テレ「深層NEWS」より

 加齢とともに、全身の組織は柔軟性を失っていきます。特にスポーツや仕事、ちょっとしたケガなどで筋肉、椎間板、靱帯などの組織を痛めると、さらに硬くなります。背骨は複数の骨が椎間板でつながり、全体でしなやかな動きをしますが、椎間板が痛んで硬くなった背骨は柔軟性を失い、弱ったところに動きが集中して負担がかかりやすい。また、下半身が硬いと椎間板など腰の組織に余分な負担がかかり、ちょっとしたことで腰の痛みが出やすくなります。

 ギックリ腰は急な腰痛の総称ですが、特にこの椎間板が痛むことが多くの原因です。たとえば、前かがみになると椎間板への圧迫力が強くなり、その状態で物を持ち上げると、腹筋や背筋の収縮力が一緒に椎間板にかかる。その結果、椎間板が押しつぶされると強い痛みが出て、ギックリ腰になります。また、椎間板が押しつぶされて中身の髄核(ずいかく)が飛び出すと、椎間板ヘルニアとなります。

――よく「筋肉のコルセット」で守るといいますが、森末さんのようなアスリートは筋肉が強く、若い頃は痛みが出なかったということもあるのでしょうか?

森末  それはあるかも知れません。ただ逆に強い分、どこかで緩めてバランスを取らないと……。強いからといってそのまま行くと、やはり痛みますよ。

石橋  「筋肉のコルセット」という言い方はわかりやすいですね。腹筋や背筋がしっかり背骨を支えていると、そのぶん背骨の負担が軽くなって、痛みが出にくいことはあると思います。ただ、一般の人は筋肉のコルセットが少ない分、より注意しないと腰痛になりやすい。筋肉の強さと軟らかさが大切です。

森末  ただ、医者に行っても、湿布を貼るか電気治療程度で終わりなので、ついやめてしまう。「なんだ、こんなものか」と思ってしまうのです。

石橋  整形外科では、まず本当に心配な病気がないかを判断します。例えば、組織の強い損傷や神経の圧迫がないか、また細菌感染や腫瘍はないか。まずはそのチェックが大事です。ただ、それがなければ、後は痛み止めと湿布を出して終わり、という先生も多いかも知れません。

街の疑問「痛みの原因は?」

――街の声では、「何が痛みの原因になっているのか」という声が多くありました

石橋  痛みの原因は様々です。例えば膝の痛みについて説明しますと、膝の関節は骨の表面に軟骨があり、立ったり歩いたり何をするにしても、軟骨にはどうしても体重がかかります。そして、スポーツや急な長距離歩行など、過度な負担がかかると、軟骨の表面がわずかに摩耗します。その摩耗がわずかでも、膝の中で炎症が起き、結果として痛みや腫れが出ます。

 膝に水がたまるのも炎症の結果です。炎症は組織を修復しようとする反応ですが、炎症が起きている状態で負担をかけると、さらに軟骨が摩耗しやすくなり、また炎症が続くという悪循環が起こります。

 最近はスポーツジムで運動する人が増えていますが、激しい運動をやり過ぎると、軟骨が摩耗します。痛みや腫れといった炎症の兆候が出たらしっかり休み、数日間は必要最小限の動きにして、膝に負担をかけないことが大切ですね。

――膝が痛いと思っていたら、実は原因は腰だったということもありますよね

石橋  腰の神経の圧迫で、下半身に痛みが出ることがあります。膝の周囲の支配神経を痛めると、膝の痛みが起こります。股関節が悪い場合にも、痛みが足の付け根ではなく、太ももや膝に出る場合もあります。

カンタン体操で予防と改善

――腰痛・膝痛予防が期待できて、簡単に続けられる運動があるということですが

石橋  まず、布団やベッド、軟らかいマットの上などにうつぶせに寝ます。この状態で、上体だけ腕立て伏せをするように、背中や腰を反ります。首はあまり反らせずに下げて、息を吐きながら腰の力を抜いて、10秒間数えます。両肘をばすのが難しい方は、肘をついても構いません。

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腰痛を予防するカンタン体操(BS日テレ「深層NEWS」より)

 この運動は誰でも簡単にできますが、注意事項があります。腰を反ってみた時、足にしびれや痛みがないかを確認してください。もし、しびれや痛みがある場合は、腰の変形で神経の圧迫がある可能性もあるので、そういう方は控えてください。

 これを5回ぐらい行います。腰の痛みがあって治したい人は、1日に5~6セット。予防的にやるなら、朝晩だけでも構いません。腰の柔軟性が改善し、椎間板の状態が良くなり、痛みが和らぎます。前かがみで作業したり物を持ったりする仕事、例えば介護をしている方には予防効果があります。

森末  実際やってみると、腹筋がすごく伸びた感じになりますね。立った時に、さっきまで前かがみになっていたのが、すごく楽に立てました。今まで整形外科の先生からは、「反らないで」とずっと言われてきたのですが、反ることで前が伸びると楽なのですね。

石橋  立った状態で普通に反ると、椎間板などに負担がかかりやすいですが、うつぶせで重力がかからない状態なので、安全に柔軟性が養えます。慢性的な腰痛持ちの方にも効果的ですし、今痛い人、例えばギックリ腰の後なども、ゆっくりやると改善効果があります。

 ただ、どの程度やればいいかの判断は難しいので、心配な場合は整形外科に相談してください。先ほども言いましたが、反らす動作で足の方にしびれや痛みがくる場合は、無理のない範囲でお願いします。

完治は可能なのか?

森末  僕たちが現役の時には、腰が痛くなると、腹筋など前をマッサージされました。腹筋や大腿(だいたい)四頭筋をマッサージされることで、スッと立てるようになる。自分でもぶら下がったりして前を伸ばしてあげると、確かに楽になりましたね。

石橋  人間は前かがみになったり、関節を曲げたりする筋肉の方が強いものですが、一般的に強い筋肉は硬くなりやすい。背骨も加齢とともに前かがみに固まりやすいため、それを反らして伸ばしてあげることが大切です。背中が丸くなってくると、年齢を感じさせます。背骨を反らして背筋を伸ばし、いつも軽く胸を張るようにすることが大事です。

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BS日テレ「深層NEWS」より

――慢性的な腰痛は、最終的には完治するものでしょうか?

石橋  良くなる腰痛とそうでない腰痛があります。良くなる腰痛は、安静だけで治ることもありますし、椎間板ヘルニアなどの手術で原因を取れば、治る場合も少なくありません。これらは原因がわかりやすいのですが、慢性的に続く痛みでは、レントゲンやMRIなどでも原因がよくわからない場合もあります。構造上の問題がなく、痛みを伝える神経の経路のどこかが過敏になっている場合もあります。

 自分でできる大事なことは、先ほども話が出た「筋肉のコルセット」。つまり筋肉を鍛えて、背骨や下半身を軟らかくすることです。腹筋や背筋など筋肉の支えがないと、腰骨をつなぐ椎間板や靱帯(じんたい)に余計な負担がかかり、痛みの原因になります。下半身、特に股関節周囲が硬いと、本来、股関節で吸収するはずの動きが直接、骨盤の動きにつながり、腰骨に負担がかかって痛みが出ます。

森末  現役引退後は、あまり腹筋や背筋を鍛えていません。前は多少動いている部分もあったけれど、それもだんだんなくなり、じっとしていることが多い。すると、筋肉も硬く弱くなってバランスが悪くなり、腰痛が出てきたのですね。

石橋  どうしても筋肉が弱く硬くなると、症状が出やすい。自分でできることは、筋肉をしっかりと動かし、軟らかくすることです。ただ、それでは済まない慢性的な痛みや、痛みが続くことで痛覚をつかさどる神経が過敏になって痛むこともある。それらに対する薬も出てきています。

――女性の場合は、骨粗しょう症で骨の密度が低くなったり、筋肉も加齢で細くなったりと、筋肉を動かすのも限界があるのでは?

石橋  骨粗しょう症も重要です。この病気は骨折するまでほとんど症状が出ないので、検診などで骨の検査を早めに受けることが大切です。年を取って骨粗しょう症で背骨が圧迫骨折を起こしたり、椎間板が薄くなったりすると、背中が丸くなりますが、こうなると背筋が弱くなります。やはり姿勢は大切です。歳を取ってからはできるだけ背筋を伸ばす、しかもただ伸ばすのではなく、少しおなかを引っ込めるように締めて胸を張ると、姿勢が良くなります。また、先ほどの上体反らしで背中の真ん中あたりが反るようにすると、姿勢が良くなってきます。

森末  おなかを引っ込めて胸を張るのは、意外に難しいですね。上体反らしでも、普通に反ると腰がカクッといきますが、自分で胸の辺りを反らす意識を持つと、また違うところが伸びてくる感じがあります。

――ギックリ腰は何かの拍子に起きるほか、季節の変わり目に「来そうだ!」というときもありますね

石橋  私も以前、腰痛持ちでした。仕事が重なると筋肉が硬く、あるいは弱くなった感じがあり、「そろそろ来るな」と。そのままギックリ腰のようになったこともあります。ただ、先ほどの体操で背骨の柔軟性を保つようにしてからは、強い腰痛はなくなりました。

森末  私もなるべく自分でおなかをマッサージしたり、正座から後ろに少しひっくり返ってみたりと、前を伸ばすことを意識しています。

手術も選択肢の一つ

石橋  手術には様々なものがあります。膝の手術では、軟骨が減って、なくなっている時もあり、こうなると膝が伸びず、O脚が強くなる。歩くと減った軟骨にまた負担がかかり、悪循環となります。筋肉を鍛えることや、薬や注射などの治療で改善が見込めない場合は、手術を選択することになります。

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BS日テレ「深層NEWS」より

 膝で多いのは人工関節手術です。これは関節を取って、代わりのちょうつがいを付けるわけではなく、いたんだ軟骨や骨を薄く削って、表面のかぶせ物をする手術です。表面置換というべきもので、膝の前の皮膚や筋肉を縦に切って膝関節を開き、太ももの骨のいたんだ表面を数ミリ切り、主にチタンでできたインプラントをはめ込みます。すねの骨も同じようにしますが、水平に切って楕円(だえん)形のチタン製トレーを乗せ、その上に軟骨代わりに、摩耗の少ない合成樹脂を置きます。歯医者さんが虫歯の表面を削ってかぶせ物をすると、痛みがおさまるのとほぼ同じです。筋肉や靱帯はそのままなので、膝を動かす要素は自前のものがそのまま使われます。

――日常生活で痛くなった人も、やはり手術をした方がいい人もいるのでしょうか?

石橋  例えば「30分以上歩けます」という人は良いのですが、軟骨がなくなって、10分や15分しか歩けなくなったり、膝が真っすぐ伸びなくなったり、O脚が強い人などは手術した方が良いと思います。もちろん、様々な治療でも改善しない場合ですが、今は手術後の成績も良くなっているので、「最終的な手段」と思わなくても大丈夫です。私も毎週のように股関節や膝の手術をしていますが、患者さんにとても喜ばれる手術です。

――病院の敷居は高いですが、すぐ病院に行くべきなのはどういう人でしょう

石橋  まず「痛くて歩けなくなった」「動けなくなった」という方は、すぐに病院に行った方がいいです。また、痛みと共に急に腫れてきたり、赤くなってきたり。あるいは全身の発熱などを伴う関節の痛みや腰痛は、すぐに病院に行くべきだと思います。

森末  膝の痛みなどは、無理に歩くと痛みを連れて歩くことになり、体のバランスが崩れて違うところまで痛くなる。先に自然に痛みなく歩けるようにすれば、全体の悪いところも逆に治ったり、バランスが良くなったりするのではありませんか?

石橋  その通りです。人間の体は1か所が痛いと、そこをかばうような動きになって、他の部位まで余分な負担がかかり、痛みが増えます。高齢期はただでさえ筋肉が弱る時期なので、悪いところがあると余計弱くなってしまいます。最後まで自分の足で歩きたいなら、悪いところは早く治して、しっかり動くようにしましょう。筋肉をしっかり保ち、自分の足で歩こうということですね。

           ◇

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森末慎二(もりすえ・しんじ)

スポーツコメンテーター。ロサンゼルスオリンピックで団体銅メダル、跳馬銀メダル、鉄棒では演技全て10点満点で金メダルを獲得。現在は講演会やテレビ出演などタレントとして活躍中。

石橋英明(いしばし・ひであき)

伊奈病院整形外科部長。NPO法人高齢者運動器疾患研究所代表理事。専門は人工関節手術、骨粗しょう症など。

※10月3日放送のBS日テレ「深層NEWS」(月~金曜日の22~23時放送)を再構成しました。

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