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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

yomiDr.記事アーカイブ

特攻隊について…平和のために知っておくべきこと

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 先日、鹿児島で講演があり、その前に知覧特攻平和会館を訪ねてきました。30年近く前、はるか昔に、一度訪れたことがあります。その当時、衝撃的な感動を受けたことを今でも覚えています。当時の思い出は、車中から見る風景や知覧の町並みを見ても全く湧いてきませんでした。でも、特攻平和会館の外観が目に飛び込み、さらに館内に入った途端に、いろいろな思いが込み上げます。昔と同じ衝撃です。

 広島や長崎も訪れました。原爆でそれぞれ民間人12万人と7万人以上が犠牲になったといわれています。戦争の悲惨さを体感するには十分すぎる数字ですが、僕は広島や長崎では被害者意識が強く頭に浮かびます。戦争は愚かだということよりも、原爆の 閃光(せんこう) と爆風で悲惨な最期を遂げた多くの民間人、老若男女が頭に浮かぶのです。一方で知覧は違います。知覧は陸軍の特攻隊の基地で、陸軍関連の特攻隊出撃者1036人のうち、439人がこの知覧から出撃したとされています。

 片道分の燃料タンクを片方の翼の下に装着し、反対側の翼の下には250キロ爆弾を抱えます。そして、沖縄への特攻作戦に向かうのです。特攻平和会館にはたくさんの遺影や遺品、手紙などが残っています。実際に特攻に使用された飛行機の実物とレプリカも展示してあります。ここには、広島や長崎で感じる被害者意識はまったく出てきません。言葉にならないような戦争の不条理と、懸命に短い人生を駆け抜けた若人の魂を感じるのです。「なんで特攻作戦などを行ったのだ」という当たり前の疑問も生じます。でも、それが戦争なんだと妙に納得してしまいます。

自爆テロ、特攻隊と同じか?

 子供と海外のニュース番組を見ていた時に、自爆テロを行った過激派組織「イスラム国」の青年の動画がありました。彼は自分なりの真情を訴えて、街で自爆テロを敢行しました。その爆発の映像までが放送されています。2001年の「9・11米同時多発テロ事件」では、旅客機が世界貿易センタービルに突入する映像もありました。最近のパリで起こった自爆テロの動画もありました。動画には「Kamikaze」という単語が出てきます。ネットでそんな記事を見ていると、日本の特攻隊は軍艦に激突するが、自爆テロは民間人を多数殺傷するから、まったく別物で、無差別自爆テロに「Kamikaze」という言葉が使用されることは許しがたいといった論調もありました。確かにそうかもしれません。しかし、それを中学校1年生の娘に話しましたが、「やっぱり自分の命をかけて、自爆するのだから同じではないの」と言われました。彼らなりに自分の命を捨ててまで遂行するという大義があるからこそできるのでしょう。その大義が戦争、国家間紛争、内戦という空間では自然と生まれる要素があると思っています。

 知覧特攻平和会館では語り部の方が当時のお話をしてくれます。全隊員が特攻を志願したそうです。お国のために喜んで命を捨てて戦ったのです。お話を聞いて涙を流している若者がたくさんいましたが、そんな光景を見て妙に感動してしまいました。そして最後に語り部の方が、親に対するお願いとして、「子供は親がしっかり (しつ) けてもらいたい」と言われたことが僕には重く心に響きました。

 一方でHPをザッピングすると、終戦近くになると、自分の意に反して特攻に参加した者、特攻命令が出てから発狂した者などがいるという記事も目にします。そんなこともあるかもしれません。特攻を美化することはけしからんという意見も散見されます。

長寿・健康を維持する医療は平和時に進歩

 各人がいろいろな思いを持ってもらっていいのです。僕はネットや新聞や本の一方的な情報を信じるのではなく、自分の目で彼らの遺品を見て、読んで、そして考えて、感じてもらいたいのです。他人の情報をうのみするのではなく、実際にその場で自分の頭で考えて下さい。

 特攻隊は戦争の一コマです。知覧から特攻命令を受けて突入した若者はたった400人強です。実は、第二次世界大戦での日本軍の死亡者数は200万人を超え、民間人の犠牲者は80万人にものぼるともいわれています。彼らのお陰で、戦後70年以上の平和が続いてきました。僕の世代は親から戦争の悲惨さを直接に聞いています。でも僕たちの世代が高齢化を迎えると、戦争の悲劇を実感できる人はどんどんと減少します。そして各国が自国優先の孤立主義に傾いていくと、ちょっと心配になります。

 不条理にも若くして太平洋戦争で散ったたくさんの命を思うために、知覧に詣でることは意味があると思っています。いつか娘を連れてまた知覧に行きます。知覧のビデオを見せながら、母の遺影の前で娘と 黙祷(もくとう) しました。

 娘と久しぶりに靖国神社に行ってみようかと思っています。「靖国神社で () おう」と言って死んでいった人たちを思うと自然とそんな思いになるのです。もちろん、A級戦犯も葬られているので、靖国神社は嫌いだと言う人もいるでしょう。そうであれば、どこか自分が黙祷できるところで彼らに感謝すればいいと思っています。

 被害者意識ではなく、平常心から (かんが) みれば「愚かなことをした」という現実を知っておくことは平和な世の中が続くためには必須と思っています。

 負傷者を救助する医療は戦時に発展しますが、寿命を延ばしたり、健康を維持する医療は平和な世の中でないと進歩しないのです。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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