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虹色百話~性的マイノリティーへの招待

コラム

第63話 千葉市が同性パートナーのいる職員に介護休暇。それは快挙、なのか!?

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条例や規則の規定を、同性パートナーをもつ市職員へも拡大

 今月10日、千葉市が同性パートナーがいる市職員に対して、来年1月から法律婚や事実婚をしている職員と同様に、結婚休暇(パートナー休暇、6日)がとれるようにするほか、短期介護休暇(年5日)、介護休暇(最長6か月)を取得できるようにすると、熊谷俊人千葉市長が発表しました。 読売新聞・千葉版 が伝えるほか、各紙も伝えています。

 昨年来、民間企業で、同性パートナーも事実婚の配偶者に準じて福利厚生に関する社内規定を適用すると発表するところが目立ってきました。また、昨年、「パートナーシップ宣誓書」の取り組みを始めた東京の世田谷区は、職員互助会や教職員互助会で同性パートナーをもつ人へも、結婚祝い金を支給する取り組みを始めました。

 今回の千葉市の例は、市職員の勤務時間や休暇等に関する条例や規則にもとづき、特別休暇(結婚時など)や介護休暇の取得を同性パートナーをもつ職員にも広げた措置で、全国でも初の試みといえます。実際、申請する職員がどれほどいるかはわかりませんが、「 (かい) より始めよ」なニュースで、社会の前進を感じさせられます。

 熊谷市長は現在38歳。2009年の初当選時は、全国最年少市長としても有名になりました。こうした若い世代としては、LGBTとか同性パートナーといってもあまりにも当たり前すぎるのかもしれません。 市長のツイッター でも、おりおり性的多様性について触れ、多くの反響があります。

 今回の休暇制度の改定をツイッターでつぶやいたところ、「少子化を推進している、子どもができないカップルを奨励している」との、お決まりのレスポンスがつきました。これに対し市長は、「それでは、子どもができない異性婚は認めないのか」、多様性を認めず規範的意識を押し出せば、「LGBT等で苦しんでいるかたは異性婚に行くと思いますか」と返し、6000以上のリツイートを集めていました。

 国民的議論がまだ成熟していない「同性婚」については、一定、留保的な立場をとりながらも、労働環境の改善などには適用を広げ、社会的不平等の是正に努める姿勢には、好感がもてます(ハデなメディア露出こそないものの、千葉では「 レインボー千葉の会 」が勉強会や集会を地道に重ね、 市長とも面会 し、また市長も集会に来賓参加。話題作りに終わらない着実な活動は、共感がもてます)。

じつは事実婚を保護してきた日本の法律や判例

 さて、今回のコラムではこの介護休業について、もうちょっと深掘りしてみましょう。

 「 千葉市職員の勤務時間、休暇等に関する条例 」によれば、その15条で「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)、父母、子、配偶者の父母その他規則で定める者」の介護のために職員が休暇をとることを認めています。

 このうち、前半の「配偶者(届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。以下同じ。)、父母、子、配偶者の父母」は、国の法律である「育児・介護休業法」に定められており、労働者は1人の対象者につき通算93日(3か月のこと)まで休業を取得することが保障されています。

 千葉市ではそれに加えて「その他規則で定める者」として、祖父母、兄弟姉妹、孫、事実上の父母や子と同様の関係にある人にも対象を広げています( 規則12条 )。

 ところで、この育児・介護休業法でもそうなのですが、国の社会保障に関する法律、たとえば健康保険法とか厚生年金保険法などで家族の定義が出てくるときは、配偶者はつねに「届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む」となっており、事実婚の配偶者も含めてきました。この点、法律婚の配偶者に限る税金や相続に関係する法律とは、きわめて対照的です(最近も話題になっている配偶者控除などは、すべて法律婚をした配偶者でなければ適用されません)。

 日本では明治31年の旧民法制定時から、法律上の家制度・夫婦制度と、現実の婚姻習俗とのあいだのギャップが問題となってきました。いわゆるお (めかけ) さんがいる、事実上の夫婦なのだけれど、跡継ぎの男児を産んではじめて入籍してもらえたなど、昔はそうスッキリといくものではなかったのでしょう。

 その結果、未届けのうちに「家風に合わない」「子が産めない」などで不当に追い出された事実上の妻をどう救済するかがさっそく問題となり、旧民法の時代から、「内縁」配偶者も婚姻に準じるものとしてさまざまな権利を認めたり、逆に、関係破綻時には損害賠償の請求権も認めたりしてきました。

 戦後も「内縁は、婚姻の届出を欠くので法律上の婚姻とはいえないが、男女が協力して夫婦としての生活を営む結合であるという点で婚姻関係と異なるものではなく、これを婚姻に準ずる関係ということを妨げない」(最高裁:昭和33・4・11)という、有名な「内縁準婚判決」を経て、現在にまで引き継がれています。

 また、明治末から産業革命が進展するなか、工場や鉱山など過酷な労働条件で働く労働者が労災事故に直面したとき、その遺族はどう保護されるかということが社会問題化してきます。大正12年に改正された「工場法」は、「本人死亡の当時その収入により生計を維持したる者」という表現で、内縁配偶者を遺族補償の受給資格に含めました。これが、その後も労働や社会保障の立法のなかで、「届出をしないが事実上の婚姻関係と同様の事情にある者を含む」という表現で、現在まで引き継がれてきています。(以上、棚村政行『結婚の法律学』有斐閣選書、などを参照)。

条例や規則と同性パートナーについて、千葉市はどう処理するのか?

 ところで、この「婚姻関係と同様の事情」には性別は示されておらず、私のような者からは、同性カップルはまさにこれに当たると思われるのですが、こうした労働や社会保障の法律が同性カップルも認めているのかは、これまで問う人もなく、裁判所や国会の判断が示されたこともありません。

 たとえば、パートナーが専業主婦/夫などで収入が基準を下回る場合、その人を被扶養者にして自分の会社の健康保険で病院にかからせたり、自分の会社の厚生年金で第3号被保険者として将来の年金を得させたり、ということができます。パートナー自身は保険料や年金を支払う必要はありません。

 しかし、それが同性のパートナーだったらどうなのか? そのようなケースがあったとしたら、現状では自分で国民健康保険や国民年金に加入して、乏しい収入のなかから自費で保険料を払うことになります。

 育児・介護休業法も、配偶者(届出をしないが事実上の婚姻関係と同様の事情にある者)に同性パートナーも含むのかどうか?

 「自分も『届出をしないが事実上の婚姻関係と同様の事情にある者』だ、認めろ!」とだれかが裁判を起こしたら面白いのにな。私などはつねづね思ってきました。

 しかし、法はいまだ黙してなにも語っていません。

 ここまで述べてきて、今回の千葉市職員の例に戻りましょう。

 千葉市はどういう理論で、同性パートナーにも介護休暇を認めるでしょう。条例本則にある配偶者の「届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を適用するのでしょうか? それとも「その他規則で定める者」の規則のほうに、新たに同性のパートナーを付け加えるのでしょうか? 報道を読み比べてみましたが、まだ詳しいことはわかりません。

 もし後者なら、市の規則に同性パートナーが明記されて休暇取得の対象とされることは、もちろん大いなる前進だと思いますが、同時に、市が「届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に同性パートナーは含まれないと明言することにもなります。少なくとも千葉市は、そういう解釈はしなかった、ということです。

 これはのちのち他の社会保障関連法規の解釈について、先例を与えてしまうことにならないか? たしかに日本は三権分立。裁判所は独自に判断すればいいのですが、行政府に司法が迎合することの多いなかで、当事者の一人として、ここはなんとも痛し (かゆ) しの思いなのです。

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永易写真400

永易至文(ながやす・しぶん)

1966年、愛媛県生まれ。東京大学文学部(中国文学科)卒。人文・教育書系の出版社を経て2001年からフリーランス。ゲイコミュニティーの活動に参加する一方、ライターとしてゲイの老後やHIV陽性者の問題をテーマとする。2013年、行政書士の資格を取得、性的マイノリティサポートに強い東中野さくら行政書士事務所を開設。同年、特定非営利活動法人パープル・ハンズ設立、事務局長就任。著書に『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』『にじ色ライフプランニング入門』『同性パートナー生活読本』など。

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1件 のコメント

アメリカ人からきかれた

カイカタ

皇居を観光するアメリカ人にガイドをして、大奥がゲイ将軍家光の子供作りのために作られた話をすると、 日本ではゲイ・ムーブメントはどうなっているのか...

皇居を観光するアメリカ人にガイドをして、大奥がゲイ将軍家光の子供作りのために作られた話をすると、

日本ではゲイ・ムーブメントはどうなっているのかと?

一部の地方自治体でパートナーシップを認める条例が制定されている。

全国規模では?

マイナーな政党が、パートナーシップ制度を提案して、議論が始まっている。

そんな感じで答えたら正解でしょうか?

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