文字サイズ:
  • 標準
  • 拡大

ケアノート

コラム

[布施博さん]母を介護「自分の成長」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

芽生えた恩返しの思い

 俳優の布施博さん(58)は昨年、同居する母・雅子さん(83)が認知症と診断され、仕事を続けながらの介護が始まりました。多忙な毎日ですが「介護の経験は自分を成長させてくれる」と前向きにとらえています。

「今頃気づいたの」

[布施博さん]母を介護「自分の成長」

「今まで頑張ってきたおふくろが、これからの人生をもっと楽しんで過ごせるようにしたいと思っています」(東京都新宿区で)=大石健登撮影

 異変に気付いたのは昨年初め、東京都内で引っ越しをして間もない頃、一緒に庭の手入れをしていた時でした。おふくろは僕が刈り取った草をゴミ袋に入れて手伝ってくれたのですが、5分前にしたことを忘れてしまう。「さっきの袋はどうしたの」「私はそんなことをしていない」と。初めはとぼけているのかと思っていました。

 その後もそんなことがしばらく続き、最初はイライラして「何を言っているんだよ」と強く当たってしまいました。でも2か月ほどたち、さすがにおかしいと思って叔母に話すと「今頃気づいたの。私は気づいていたわ」と言われました。認知症の症状が出ている、と言うのです。

 そこでおふくろの行動を気をつけて見ると、やはりおかしい。ご飯を1日に7回も食べようとする、その都度1日2回の服用でいい薬を飲んでしまう、洗濯機に大量の洗剤を入れて2日で1箱を空にしてしまう――。病院を受診させると、アルツハイマー型認知症と診断されました。その後、「要介護2」と認定されました。

できる限り家で

  自宅では、なるべく誰かが一緒にいるようにしたが、どうしても日中に1人きりになることがある。事故を防ぐため、その日飲む薬をカレンダーに貼り付けたり、洗濯機に「回さないで」と貼り紙をしたりと、工夫を試みた。

 ただごとではないけれど、どうすればいいか分からない、でもできることは何でもやろうと思いました。おふくろはそれまでは1人で買い物に行っていましたが、家の外にも出なくなってしまった。そこで、買い物だけでなく犬の散歩に連れ出し、僕がオフの日には、温泉にも連れて行きました。

 一方、僕はスタジオに夜遅くまで詰め、地方へロケに出かけるなど、家を空けることが多い。ありきたりですが、携帯電話を持たせて頻繁に連絡する、仕事に行く前にご飯を作って小分けにしておく、などはしています。

 ところがレンジでご飯を必要以上に温めすぎてしまったり、トースターで魚を焼いて丸焦げにしてしまったり、昔はできていたことができなくなってきた。耳も遠くなり、電話をかけても気付いてくれない時もある。やかんの取っ手を焦がした時は「これはまずい」と思い、火は使わないよう伝えました。僕が家にいない時間をどう安全に過ごしてもらうか、このままでいいのかどうか思案しているところです。

 

  今は週2回のデイサービスを、今後は5回に増やしたいと、ケアマネジャーに相談している。施設に入れるのではなく、できる限り家で過ごしてもらいたいと考えている。

id=20161118-027-OYTEI50005,rev=2,headline=false,link=true,float=right,lineFeed=true

自宅で愛犬たちと一緒に過ごす雅子さん(右)と布施さん

 実は、母を介護していることをテレビ番組で話したところ、色々な人からアドバイスや励ましの言葉をいただいた一方で、「世間の同情を買おうとしている」と一部で非難されたことがあります。ですが、同情を買って何の意味があるのかと思います。

 おふくろは若い頃、貧しかった家族を支えるため、昼は工場で働き夜は内職をして、寝る間を惜しんで働いてくれた。だから恩返しをしたいし、何をしてあげられるかを考えたい。若い頃には、全く抱いたこともない気持ちです。仕事より、おふくろのことを優先したいと思っています。

夫婦で助け合う

 布施さんの介護と仕事の両立を、妻で舞台女優の井上和子さんも支えている。しかし井上さんの母も脳出血により半身不随で、介護が必要な状態。夫婦それぞれが母親を介護し、互いに助け合っている。

 都内で引っ越しをしたのは、妻の母の介護をしやすいよう、妻の実家近くに住むという目的もありました。僕は大工仕事が得意なので、妻の母の車いすの生活が楽になるよう、玄関にスロープを作ったり、廊下に手すりを取り付けたりしました。妻には「布施工務店」なんて呼ばれて。

 正直なところ、介護は芝居よりもつらいと思うことがあります。ですが、この経験は人として、俳優としても成長することにつながると思います。人生の 紆余うよ 曲折は、役者の引き出しを増やしますから。これからの役者人生で、ほんの一瞬でも、人生の曲折を見せられる演技ができたらいいなと思います。(聞き手・及川昭夫)

  ふせ・ひろし  1958年、東京都生まれ。舞台俳優としてデビューし、80年代後半からテレビドラマを中心に活躍。映画やバラエティー番組にも数多く出演した。現在は劇団「東京ロックンパラダイス」と「東京DASH!」を主宰し、後進の育成にも力を入れている。

  ◎取材を終えて  「大変でした」「心配です」。初めはつらそうに表情をゆがめた布施さんだったが、インタビューを進める中で、言葉の端々から伝わってきたのは、雅子さんへの深い感謝の気持ちだった。「おふくろが内職でスリッパを作る時に塗っていたニカワのにおいが、今でも忘れられない」。目を細め、演技ではなくしみじみと話す姿に、介護を支えるのはお金や時間だけではないと、強く思った。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • チェック

kea_117

ケアノートの一覧を見る

最新記事