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イグ・ノーベル・ドクター新見正則の日常

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トランプ氏当選…心配だけど「新しい世界」へのワクワク感も

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 11月9日は第16回大和会研究集会で800人を超える職員と地域の方々に集まっていただき、特別講演を行ってきました。タイトルは「 些細(ささい) なことの積み重ねで、奇跡も起こる」というもので、楽しく講演を行いました。大和会は東京都東大和市・武蔵村山市に病院やクリニックを持つ社会医療法人で、懸命に地域医療に貢献しています。講演前にいろいろな施設を見学させていただきました。素晴らしい病院やクリニックで、職員の方々の対応も勉強になりました。また、毎年行われている研究集会は午後を休診にしてまで、できるかぎり多くの職員が参加するもので、その学びの姿勢にも感服しました。

 

予想外の結果、その背景には…

 その日はちょうど、アメリカ大統領選挙の日でした。日本時間の朝から始まります。ほとんどのメディアがヒラリー・クリントン氏の勝利を予想していました。僕は大和会の見学と講演のため、外来や手術を入れていなかったので、その日は行き帰りを含めて選挙速報を垣間見ることができました。ネットでアメリカのABCとイギリスのBBCのライブ速報を見ていました。クリントン氏が、人種差別や女性軽視発言を繰り返すドナルド・トランプ氏には必ず勝利するだろうという雰囲気で、どちらのスタジオも始まりました。そして、大方の予想に従ってクリントン氏がリードします。ところが、昼前頃から混戦模様を呈し、講演が始まる午後3時前には相当な劣勢となり、講演が終了し羽田空港に向かう電車の中で、トランプ氏の勝利演説をライブで聴きました。

 世界の予想に反する結果です。BBCは「トランプ氏は共和党大会が始まる前は150倍の掛け率の 泡沫(ほうまつ) 候補であった」と、番組中でコメンテーターが発言していました。僕のアメリカ人の友達の何人かはバーニー・サンダース氏が民主党の候補になることを望んでいましたが、クリントン氏に最後は負けました。サンダース氏であれば、トランプ氏に勝ったかもしれませんね。

 駐米している日本の新聞社の友達は、日本では報じられていないようなトランプ氏の発言を教えてくれました。そして、ツイッターでの過激な文言なども知りました。

 広島カープがセ・リーグで優勝するとは、ほとんどの新聞社やメディアは予想できませんでした。イギリス国民がEU(欧州連合)からの脱退を選択するとは、まったく予想できませんでした。そして、誰もがトランプ氏が大統領にまで上り詰めるとは予想していませんでした。どれも、ほとんどのメディアや新聞が予想していないことでした。ある意味、「メディアの予想は当てにならない」ということにもなります。

 メディアや新聞は世論を形成します。自分が望むほうに記事を書けますし、また公平に幅広く事件や出来事を報道していても、記事の並べ方や扱いの大きさを工夫することで、世論に影響をあたえることができます。アメリカのメディアは、世論調査などを背景にクリントン氏の勝利を予想しました。でも、今から思えば、そこには「そうあってもらいたい」というメディア側の意図も感じ取れます。メディアのキャスターも新聞記者も、投票先を決めかねると言っていた人たち(実は心の中でトランプ氏と決めていたのでしょう)の数を過小評価していました。メディア側のエリートにとっては、ほとんど接点がなかった人たちなのでしょう。

 今までの世の中の延長、または少々の軌道修正をしながらの変化を望む人たちと、今までの世の中にはうんざりして、既得権益を壊して全く新しい何かに期待する人たちの争いにも思えました。

 

医療制度はどうなるか

 医療制度はどうなるのでしょう。オバマケアは日本の国民皆保険をお手本、参考にしました。日本の保険制度は基本的に国民皆保険で、フリーアクセスです。フリーアクセスとは、どこでも自分の好きな病院に行くことができるということです。このシステムの維持に現状では41兆円以上のお金が必要です。アメリカは医療保険に入っていない人がたくさんいたために、あえて日本のようなシステムを目指しました。でも、トランプ氏はこのオバマケアを廃止することを公約に掲げていました。医療保険に入ることも入らないことも、各個人の意思で決めればいいというシステムです。確かに自動車保険などはそうですね。

 ほぼ強制的に加入させられていると、そして最初からそんな制度が身の回りにあると、その存在のありがたさを忘れてしまいます。そろそろ理想的な日本の医療保険システムも限界です。混合診療を導入しようという意見もあります。また、フリーアクセスを制限して、イギリスのような、かかりつけ医制度にすることも保険医療費の削減には効果的です。

 

これを機会に…いろんなことを考え直してみる?

 沖縄の在日米軍もどうなるのでしょう。「相応の負担をしないと撤退する」とトランプ氏は言っています。日本人の誰もがそんなことを予想していませんでした。「いくら反対しようが出て行かない」と思っていたでしょう。最初から基地があれば反対したくなります。でも、実際に撤退することを思うと、実は「沖縄に米軍が存在したほうがありがたい」と思う人も少なくないでしょう。

 国民皆保険制度も一度、まったくなくなった状態を想像してみればいいと思っています。そして本当に何が必要で、何が不要なのか、また何を犠牲にしてもいいのか、何が最も大切なファクターか、そんなことを考えるには、今回の大統領選の大番狂わせはいい機会になったと思っています。

 ぼつぼつと、ゆっくり変わっていけば、傷つく人はそれほど多くはないでしょう。従来の (おきて) を壊すことは、たしかに現状に不満がある人には新しい夢のような世界の扉にも思えます。それが実現するかはまったく未知数ですが、そんなワクワク感を感じますね。そして、もの (すご) く心配でもありますね。

 人それぞれが、少しでも幸せになれますように。

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知りたい!_20131107イグ・ノベーベル賞 新見正則さん(1)写真01

新見正則(にいみ まさのり)

 帝京大医学部准教授

 1959年、京都生まれ。85年、慶応義塾大医学部卒業。93年から英国オックスフォード大に留学し、98年から帝京大医学部外科。専門は血管外科、移植免疫学、東洋医学、スポーツ医学など幅広い。2013年9月に、マウスにオペラ「椿姫」を聴かせると移植した心臓が長持ちする研究でイグ・ノーベル賞受賞。主な著書に「死ぬならボケずにガンがいい」 (新潮社)、「患者必読 医者の僕がやっとわかったこと」 (朝日新聞出版社)、「誰でもぴんぴん生きられる―健康のカギを握る『レジリエンス』とは何か?」 (サンマーク出版)、「西洋医がすすめる漢方」 (新潮選書)など。トライアスロンに挑むスポーツマンでもある。

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