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性とパートナーシップ

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心身に障害を持つ女性 「それでも愛し合えるパートナーが欲しい」(2)

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 別れた後、寂しくてたまらない毎日を送っていた女性は、ある日、趣味の会で出会った15~16歳年上の人に告白され、「まあいいか」と軽い気持ちで付き合い始めました。しかし、その彼は、初めての関係で、女性がいやがっているにもかかわらず暴力に近いような扱いをしてきました。

 

 「だけど、私はその彼が『好きだから』と言うのを聞いて、『好きって言ってくれているんだから強引なのも我慢しなくちゃ』と思っていました。でもそれを繰り返されて、私は怖くて、つい、前に付き合っていた彼氏に電話をしていました」

 震える声で新しい恋人にされたことを話すと、前の恋人は「とにかく別れなさい。その関係は良くないよ」と強い口調で言ってくれました。その言葉で目が覚めて、別れることができました。

 その後も、障害者のメール友達募集の掲示板で恋人に発展した男性も2~3人いましたが、どうしても最初の彼と比べることをやめられませんでした。「彼とだったらもっと楽しいのに」「彼だったらもっと優しくしてくれるのに」――。新しい恋人とうまくいかなくなる度に、最初の彼に電話で泣きついていました。

 

 「どこかで復縁できると信じて疑っていなかったんです。でも彼は、私と復縁することなんて考えてもおらず、その間、新しい出会いを求めていたようです。3年前に『新しい恋人ができた』とメールをもらって、終わったと思いました。『このまま彼とは友達でいなくてはいけないのだ』と区切りをつけて、連絡先も消しました。以後一度も会っていません」

 

 その翌年の24歳の時、脳性まひについて20年以上継続して診てくれていた先生が引退することになり、新しい先生にかかった時、身体障害の見直しをしてくれました。これまでは腕しか障害の認定を受けていませんでしたが、詳細な検査をして足の障害も認定してくれました。問診を受けているうちに、その医師は女性が人間関係や学習にも様々な困難を抱えていることに注目し、「あなたは発達障害の可能性がある」と指摘しました。別の病院を紹介されて、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の傾向もあるアスペルガー症候群と診断を受けました。読み書きに困難がある学習障害(LD)もあると言われました。

 「ショックはショックだったのですが、ある意味、ほっとしたのも事実です。今までの人間関係のうまくいかなさや生きづらさが、『ああ、障害があったからだったのか。そうだったんだ』と () に落ちて、安心したんです。ちょうどその頃、ジャニーズのアイドルが発達障害の主人公を演じている舞台があって、あの彼と一緒なんだと、それほど重くは受け止めなかったのも良かったのかもしれません」

 不思議な希望のようなものを感じた女性は、発達障害の当事者がどのように生きているのか知ろうと、ツイッターを始めて、交流を始めました。みんな「ガールズトークができない」「男女付き合いがうまくいかない」「空気を読めずにイラつかれてしまい、仕事が続かない」など共通の悩みを持ち、オフ会で直接会って話すと、これまで感じてきた孤独感が癒やされていくのを感じました。

 

 「私の身体障害はあまり気づかれないですし、発達障害や双極性障害は周りもわかりません。目に見える障害は何かしらの配慮を受けられると思いますが、私のような障害は言わないと気づかれないし、何も配慮されません。ほどよい人間関係が築けない、異性と適度な距離の取り方がわからないのに、世間の人には理解をされない。それも苦しいのです。この人いいなと思ってもどういうふうにアプローチしたらいいかわからず、一人で途方に暮れているのが現状なのです」

 今、SNSでつながった仲間と情報交換しながら、女性は少しずつ人との距離の取り方を学び始めていますが、それでも恋愛は難しいと言います。

 「大人の発達障害についての情報はたくさんありますが、発達障害を持つ人がどうやって恋愛をしたらいいかという情報は存在しないのです。私も身体障害だけなら就労だって、男女交際だってうまくいったかもしれないと思いますが、恋愛関係を築くのに一番大きな問題だと感じているの発達障害です。今、私がSNSで発信し始めているのも、こんなレアケースがいることを知ってほしいからですし、自分のことを振り返ることで、自分が成長できると思っているんです。最初の彼と付き合った時はとても視野が狭かったと今ならわかるし、発達障害について理解した私は生まれ変わったと思っているので、今までの考え方や人間関係の築き方では良くないと気づいています。あとはほかの方がどのように出会い、どのようにパートナーシップを築いているのか知りたくて、性とパートナーシップにたどり着きました」

 女性の周りには、現在進行形で恋愛に悩んでいる当事者がいないのだと言います。ここで取材に答えてくださったのも、全国で同じような悩みを抱えている当事者がいたら、語り合いたいと思ったからだと言います。

 「私も一人の女性です。妊娠、出産もいつかはしたいし、それができなくても恋愛や結婚はしたい。就職もしたいです。そして今の私がどういう恋愛をするのか、私が一番興味がある。これから先、恋愛でまた新しい自分に会うことを楽しみにしています」

 女性の体験談、いかがでしたか? もし、同じように身体障害や発達障害、精神障害を抱えながら、うまくパートナーシップを築いている方がいらしたら、ぜひコメントで体験をお寄せ下さい。

 (終わり)

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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22件 のコメント

えりにゃんさん

エルサ

お幸せそうで、何よりです。 見ず知らずの私ですが、えりにゃんさんの投稿を読んで、とても幸せな温かい気持ちになれました。 ありがとうございます。 ...

お幸せそうで、何よりです。
見ず知らずの私ですが、えりにゃんさんの投稿を読んで、とても幸せな温かい気持ちになれました。
ありがとうございます。

慎重なえりにゃんさんを、そっと見守り支えたり、付かず離れずの距離を保てるご主人が素敵ですね。
信頼できる男性と結ばれて良かったですね。
なんかじんとして、涙が出そうです。

えりにゃんさんご夫婦のような、思い合えるご夫婦になってくれたら、家族としてこんな嬉しい事はないですねー。
お身体大事になさって、末永くお幸せに。

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幸せな結婚をしました。つづき

えりにゃん

それでも20代後半に夫と知り合い幸せな結婚をしました。 性行為への様々な恐怖はありましたが、自分の性や貞操に対する考え方を事前によく伝えていまし...

それでも20代後半に夫と知り合い幸せな結婚をしました。
性行為への様々な恐怖はありましたが、自分の性や貞操に対する考え方を事前によく伝えていました。
それに対して夫はとても誠実だったのでゆっくり私のペースで恋愛できたことが大きかったです。
病気はその後の結婚による環境変化で一時的に悪化しました。
夫は私の病気や苦しみは理解はしてくれますが、病気への認識がドライというか楽観的なので、配慮やサポートはするけれど特別扱いはしません。
夫が心理的な線を引いてくれるおかげで、私が夫に依存しそうになっても解き放ってくれるのが救いです。
でも子供ができると話がまた複雑になっていきそうな気がしており、夫には少しだけ時間を待ってもらい、今また自分の中の別の何かを整理しているところです。
性行為はしていますが避妊中です。

体験談として投稿させていただきました。

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幸せな結婚をしました。

えりにゃん

既婚30女です。双極性障害と診断され、それとは別に何らかの発達障害があると自覚しています。 私の場合は異性がとにかく苦手な存在で、特に思春期以降...

既婚30女です。双極性障害と診断され、それとは別に何らかの発達障害があると自覚しています。
私の場合は異性がとにかく苦手な存在で、特に思春期以降は対面するだけで何だかよく分からないが自分が脅かされるような不安感を抱えていました。
私は昔から自尊心が低くアイデンティティも未成熟のまま大人になりました。
20代の時に異性から好意を寄せられることがありましたが、私は性行為そのものへの恐怖と言うよりも、それがもたらす心理面への影響が恐怖でした。
恐らく自分でも依存傾向が強いことを何となく自覚しており、自分の心の整理と言うか準備が整っていない間に相手のペースで恋愛が進んでしまうのではと思うと、自分というものが飲み込まれるような危機を感じていました。
片思いの浮かれたり落ち込んだりならまだいいのですが、恋愛に発展して性行為が絡んでくると、妊娠の可能性もありますが、私の場合は心理的な錯覚を起こしてしまいそうで、自分の中で何かが確立するまでは時期じゃないと恋愛に発展するのをとにかく避けていました。
同年代の友達を見ていて20代の恋愛は失敗が多い印象があり、健全な人でも失敗はかなりの痛手ですが、私はその失敗のダメージが自分を崩壊させると予感しており命取りな状況でした。
(前途の「自分の中の何かが確立しないと」というのが、未だに何なのか分からないため体験談としてあまり役に立たず恐縮です。。
少なくとも私は自分の体内に自分以外のものが侵入してくることによる心理的な脅かされ感がすごかったです。

つづきます。

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