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木之下徹の認知症とともにより良く生きる

介護・シニア

認知症の薬、どうも副作用がひどくて

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イラスト・名取幸美

イラスト・名取幸美

 秋山修さん(仮名、77歳)「いやあ、先生。薬が効かないようなんです」

 私「どういうことでしょうか」

 秋山さん「妻が飲んでる薬。あのー、認知症の薬ですがね。どうもあまり効かないんです。というより、ひどくなってんじゃないかなあ。同じことを以前よりもしつこく聞いてくるんですから」

 私「なるほど、困りましたね。」

 と言いつつ、この話。以前も書きました( 認知症の薬 )。ここではあまり触れません。要点だけ。まず、この類の薬。具体的には、メマリー、アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチパッチのことを指します。どれも、認知機能の低下を遅くする効能があります。その効果は、私も含めた医者や家族など周りの人が、直感で知ることは難しい。血圧の薬のごとく。血圧計で測って効果を確かめる。そのようなプロセスが認知症の薬についても必要です。なぜなら、これも前に触れたように、専門医の主観的判断で、その効果を知ることが難しい。薬の承認申請時の臨床試験の結果から、(実は全てそうではないのですが、おしなべて)そういう結果が示されています。

 ただし、より客観的な指標である、「神経心理検査」、この場合「ADAS」と呼ばれる検査があります。それが血圧計のごとく、薬の効果やその認知機能の低下の具合を知る指標として、利用できることも知られています。ですので、まずは効いたか、効いていないかはその検査をやらざるをえない。そういう検査をなくして、認知症の薬を投薬することは、たとえば、血圧計で測ることをせずに、血圧の薬が効いた、効かない、と判断していることと同じだと言えます。私自身、すべての人々に実施しきれていないので、耳の痛い話ですが、筋を通してそのように考えた次第。

 しかし、例外があります。それは、レビー小体型認知症に対する効能です。幻視やせん妄が減る効果が示されています。その場合には、別に神経心理検査で確認することもなく、ともに生活している人がいれば、一目瞭然にその効果はわかります。最近では、幻視の訴えで、ご本人が受診される場合があります。その後薬を飲んでいる本人も、幻視が減った、などと明瞭に薬の効果を自覚できる場合があります。

 ですので、ここでは典型的なアルツハイマー型認知症に対する効能について考えていきます。

 先の秋山さんの悩みのごとく、薬が効けば、周りの人にとってその人が関わりやすくなる、というわけではありません。ここには、薬の効能では説明できない難しい問題があります。このシリーズでは折に触れて考えるようにはしていますが、今回はこのことには触れません。

 もっと即物的な話。認知症の薬の副作用についてです。

 ここで、注意です。

 薬の投薬や量の加減については、自己判断で行わないようにしてください。薬についての悩みであれば、それを処方されているかかりつけの先生とじっくりと向き合って相談してください。自己判断は思わぬ事故を引き起こしかねません。この点についてご留意ください。

 さて、萩原惣一郎さん(仮名、80歳)とその奥さん(真理さん、仮名、72歳)が診察室で薬の話。

 真理さん「先日は電話をありがとうございました」

 私「あれからは大丈夫ですか」

 真理さん「いまのところ、主人は、気持ち悪いなんてことはなく、食欲も戻りました」

 私「よかったですね」

 と、惣一郎さんにむかって言うと、

 惣一郎さん「そう、いまはなんともない。逆に食べすぎてしまってね。はははっ」

 私「まだ有効用量ではないのですが、しばらく、半分で体を慣らしましょう。2、3か月したら、前回の用量に戻すことを一緒に検討しましょう」

 惣一郎さん「そうですね。慣らしてから、再挑戦。はははっ」

 メマリー、アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチパッチのうち、私はアリセプトという薬を惣一郎さんに処方しました。大きな副作用として、(1)脈を遅くする。(2)気管支を狭める。 喘息ぜんそく がある人は注意が必要。そして便を軟らかくする。便秘の人は下剤が減るかもしれません。しかし、普段軟便の人は(3)下痢になったり、ひどい場合には、水のようになったりします。しばしば遭遇するのは(4)食欲不振です。薬の性質から、これらは胃腸の働きを活発にしすぎた結果だろうと思います。ひどくなれば、「悪いもの、食べただろっ」と頭が解釈して、食べたものを吐いてしまうこともあります。

 その他、注意すべきこととしては、筋力の脱力。全く力が入らない、あるいは、過度な筋肉の緊張で動くと痛みが伴います。その場合、尿の色がコーラのような濃い色になる。これはめったにありませんが、高脂血症の薬やその他の薬でも出現することがあり注意が必要です。(5) 横紋筋おうもんきん 融解症というものです。横紋筋という筋肉が壊れてしまい、その成分が血中に流れ出て生じる症状です。多くは一気に症状が出ます。周囲の人々が慌てて、たいていは救急搬送されます。長年医者をやると自分の処方した薬で、そうなってしまう方に遭遇することがあります。こちらも青ざめます。どの薬でもリスクがあるので、頭の隅っこにおいておきましょう。その他にも多くの薬に出現するような(6)薬疹。皮膚に湿疹のようなものが全身に広がります。それらの症状が出たら、薬を中止するしかありません。ひどい場合には入院治療が必要になります。

 ところで、これらの認知症の薬(アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)で頻度が高いのは、(3)下痢、(4)食欲不振あたりだろうと思います。これまでの状況を思い返すと、症状の程度の差はあるものの、私の経験では、1割くらいは、(3)、(4)が出現するように感じています。

 当院の基本的な手続きではアリセプトの場合、服薬1日目、3日目、7日目に電話を入れます。そして14日目に来院していただき、変わりないようであれば、5mgに増量して1か月ほどで来ていただく。その際に、気持ち悪いとか食欲不振があれば、電話をいただくようにしています。なぜ、このタイミングなのかは、追々ご理解いただけると思います。

 (1)、(4)の副作用が出た場合、薬をやめれば、解決します。同時に認知機能の低下を遅くする効果を手放すことになります。副作用なく飲みたい、というのが人情でしょう。こういった悩みがある人が当院でも多いので、今回は、このことを集中的に考えます。

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kinohsita

木之下徹(きのした・とおる) のぞみメモリークリニック院長

 東大医学部保健学科卒業。同大学院博士課程中退。山梨医科大卒業。2001年、医療法人社団こだま会「こだまクリニック」(東京都品川区)を開院し認知症の人の在宅医療に15年間携わる。2014年、認知症の人たちがしたいことを手助けし実現させたいと、認知症外来「のぞみメモリ―クリニック」を開院。日本老年精神医学会、日本老年医学会、日本認知症ケア学会、日本糖尿病学会に所属。首都大学大学院客員教授も務める。ブログ「認知症、っていうけど」連載中 http://nozomi-mem.jp/

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