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性とパートナーシップ

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心身に障害を持つ女性 「それでも愛し合えるパートナーが欲しい」(1)

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 19歳で退職し、何をしたらいいかもわからないまま不安な日々を過ごしていました。そんな時、インターネットで検索した障害者のみの合コンに参加することにしました。

 「彼氏が欲しいというよりも、ほかの障害ある人が日々、どう過ごしているのか知りたいと思っていました。療育の場で出会う障害者はみんな重度の人ばかりで、私のように社会に出ている障害者が誰もいなかったんです。障害を持ちながら、どうやって社会でうまくやっているのか、教えてほしいという思いでいっぱいでした」

 銀座のレストランで開かれた合コンに集まったのは、男女あわせて20人ぐらい。狭い会場で、それぞれと話すための席替えをする身動きも大変な中、さりげなくかばんをどけて通りやすいように気遣ってくれた男性に一目 () れしました。脊椎の発達がうまくいかずに神経障害を引き起こす二分脊椎症があり、車いすを使っていた彼は顔がかっこよく、笑顔が素敵な年上の男性。関西弁丸出しで、「関西の人ですか?」と尋ねて、「わかります?」とにっこりしてくれたのが会話の始まりでした。

 「私が知らないミュージシャンの話をたくさんしてくれて、『この人は音楽の引き出しもすごい持っているんだな』と尊敬するような思いもわいていました」

 話が弾んで、電話番号とメールアドレスの交換をし、それから毎晩のように互いのことをメールや電話で打ち明け会いました。心の奥底まで語り合ったと感じたある日、彼に「付き合っているのかな私たち?」と尋ねるメールを送ると、「俺で良かったら、付き合ってくれない?」と告白がありました。

 「その時、私は家のリビングでそのメールを開けて読んでからは、顔がニヤニヤしてしまうのを止められませんでした。人生で初めての彼氏。夢を見ているようでした」

 5つ年上の彼は仕事をしていて、初めてのデートは仕事帰りのカラオケでした。1時間半ぐらい、2人で好きな歌を歌った後、「そろそろ時間だね。出なきゃね」と彼が言うと、「このまま別れたくない!」という強い気持ちがわき上がりました。つい、抱きついて「じゃあチューしようか?」と言うと、彼は優しくキスをしてくれました。

 「ファーストキスで、私は胸がドキドキしてうれしくて仕方なかったです。ああ、この人が好きだ!と思いました」

 一人暮らしをしていた彼は、何回目かのデートで女性が、「合鍵が欲しいな」というと、次に会う時には「はい、これ。おれんちの鍵」と気軽に渡してくれ、恋にあこがれていた女性は有頂天でした。次のデートの時は「ペアリングが欲しいな」と言うと、「じゃあ買いに行こうか」とすぐに応じてくれました。

 「新宿の駅ビルであこがれのブランドのシルバーとゴールドのリングを買いました。ベタですが、私は学校も仕事も障害のせいでうまくいかず、恋愛へのあこがれが人一倍強かったのかもしれません。ディズニーランドに行きたいと言えば連れて行ってくれるし、観覧車に2人で乗りたいと言えば乗ってくれる。私の希望を何でもかなえてくれていました」

 数回目のデートでは、女性の母親にも会ってもらいました。デート中のカフェにたまたま近くにいた母親を呼び出して、引き合わせました。母親が「不安定なところもあるけれど、よろしくね」と伝えると、彼は「わかりました」と言ってくれました。

 「デート数回で私は彼だったら結婚してもいい、両親にも紹介したいと思っていたから、これで親公認の仲になれたと思って、とてもうれしかったです。そして、体の関係を持つことも心が固まりました」

 5回目のデートの前、事前に女性から、「体の関係になりたい」とメールで伝えていました。彼も「君がそういうなら、俺もいいよ」と返してくれました。

 午後10時が門限だった女性は、彼の仕事が休みの昼間、彼の一人暮らしの家を訪ねていきました。2人で布団でごろごろしているうちに、触れ合いました。

 「とても気持ち良くて、温かい気持ちになりました。この人が好きだと心の底から感じました。ただ、彼は障害のせいか、最後まですることはできませんでした。それでも私は満足で『これでいいのよ』と彼にささやいていました。照れくさかったけれども、とても幸せな初体験でした」

 それ以降は、デートの度に、彼の家に行っては裸で抱き合いました。体の触れ合いも、徐々に遠慮がなくなり、喜びを感じていました。でも彼は、終えた後、「ちゃんとできなくてごめん」と謝ります。そのたびに女性は、「幸せだから気にしないで」と伝えるのでした。その言葉通り、本当に幸せでした。

 「とにかく彼は優しくて、私の様子を見てはいやがることをしないのです。触れ合う度に、愛されているなと感じていました」

 しかし、そんな幸福な日々は、長くは続きませんでした。

 (続く)

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岩永直子(いわなが・なおこ)

1973年、山口県生まれ。1998年読売新聞入社。社会部、医療部を経て、2015年5月からヨミドクター担当(医療部兼務)。同年6月から2017年3月まで編集長。

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3件 のコメント

人それぞれ

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最近こちらのコラムに辿り着き、色々な方のご意見を知る事が出来、とても楽しみが増えました。 この女性のように、チャレンジして、前向きに生きていく事...

最近こちらのコラムに辿り着き、色々な方のご意見を知る事が出来、とても楽しみが増えました。
この女性のように、チャレンジして、前向きに生きていく事が大切なのかな。と思います。そう過ごしていくうちに、自分の求める相手は男性だけでなく、同性かもしれないし、ひとりがいいと感じるかもしれない。それが自分に必要だったと気付く日が来ると思います。
だから、編集長さんの仰る通り、一度しかない人生ですので、他人や社会に迷惑を掛けない程度で…しない後悔より、してしまった後悔の方が次に繋がるしこのまま頑張って欲しいな。と思います。

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世の中は、不条理に満ちている。

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この記事を読ませていただいて、自分の力だけではどうにも出来ないことが原因で、なぜ若いうちからここまで苦しまないといけないのか、世の不条理・無情さを改めて痛感しました。
自分の体験上、「そのうちいい人が現れる」と、アドバイス出来ないのが辛いです。

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こういう声って貴重ですね。 幸せになって欲しいです。

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幸せになって欲しいです。

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