小泉記者のボストン便り
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トランプ勝利で米国に激震! オバマケアはどうなるのか?
11月8日に米大統領選の投開票が行われ、共和党のドナルド・トランプ氏が、民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を接戦の末に破りました。ボストンがあるマサチューセッツ州は、民主党の支持傾向が強い「ブルー・ステート(青い州)」で、私の周囲もクリントン氏を支持する人がほとんどでしたので、多くの友人たちは強いショックを受けていました。
投開票日は、大学で学生たちと一緒に選挙戦の行方を見守りました。午後7時から開放された大学の講堂は各州の旗や色とりどりの風船が飾られ、学生たちはお祭りムードでテレビ中継に見入っていましたが、トランプ氏の優勢が伝えられると、徐々に明るかった学生たちの表情も曇りはじめました。午後10時半ごろには、隣に座っていた女学生が泣き出してしまい、帰る人の姿も多くみられました。クリントン氏は翌日に敗北宣言をしましたが、大学にはいつものような活気はありませんでした。私が出席した授業は、ほとんどの時間を大統領選についての議論に費やし、学生からは「地方では現状への不満が 蔓延 しているのでは」「女性蔑視発言や、移民への差別的な発言を繰り返す人物が大統領になることをどうやって子供に説明すればいいのか」など困惑の声が次々に聞かれました。
格差社会への強い不満を痛感
トランプ氏の躍進は、ボストンではほとんど感じられませんでしたが、お隣のニューハンプシャー州で開かれたトランプ氏の支持者の集会に参加すると様子は全く違っていました。米CNNによると、ニューハンプシャー州は、僅差でクリントン氏が勝った激戦州で、「移民が犯罪の温床」「メキシコとの間に壁を造れ!」などと力を込めるトランプ氏の言葉に熱狂する支持者の姿を目の当たりにしました。
格差のあるアメリカの現状に強い不満を持つ人が多いことを改めて認識しました。集会に参加していた男性は「ヒラリーは腐敗したうそつきの政治家。彼女に任せても、社会は変わらない。政治経験がないトランプこそ、この国をもう一度再生させてくれる」と話していました。選挙結果を見て、8年前、オバマ大統領による「変化」を求めたように、トランプ氏に現状を変えてほしいと願う人が予想よりも多くいたことを痛感しました。
トランプ氏が大統領になることによって米国の政策がどのように変わるのか、現状では未知数ですが、大きく変わることが予想されることの一つに、選挙戦の争点にもなった「オバマケア(Patient Protection and Affordable Care Act)」があります。オバマケアとは、全米で5000万人近くにも上った無保険者をなくすことを目指し、国民全員を医療保険でカバーするため、保険加入を義務づける仕組みです。2010年に成立したことにより米国の無保険者の割合は大幅に減りましたが、トランプ氏は、「就任初日にオバマケアを廃止する」と明言しています。トランプ氏が大統領になることで、医療・健康施策はどのように変わるのでしょうか。不安の声も聞かれます。
オバマケアで無保険者は大幅減
「オバマケアの導入でやっと保険に入ることができた。制度がなくなったら、また保険がなくなってしまうのか」
カリフォルニア州に住むマーティン・バン・ローンさん(57)は、選挙戦の結果に不安を隠しきれません。写真の装丁をする店に勤めているローンさんは、14年に初めて保険に加入しました。それまでは、医療保険は高額すぎて入ることができなかったそうです。
「保険がなかったときは、全額を自己負担しなければならず病院に行くのをできるだけ控えていた。とても不安だった」と振り返ります。4年前、胸に強い痛みを覚えた時も、家で安静にして病院には行きませんでした。「幸い症状はすぐに治まったが、このまま容態が悪化したらと落ち着かなかった。健康に不安がある時に病院に行けないのはとてもつらかった」と話します。
オバマケアは、個人や雇用主に保険に入ることを義務付け、ローンさんのように所得が低い人でも公的な補助をすることで、保険に加入できるのが一番の特徴です。保険に加入していない人には罰金もあります。また、 喘息 などの病歴があることを理由に保険会社が加入を拒否することも禁じています。
ローンさんの場合、導入前は月額800ドル(約8万円)以上の保険料は、とても高くて加入ができませんでしたが、制度導入後、公的補助で保険料が200ドル(2万円)にまで下がり、加入が可能になりました。
オバマケアの導入により、2010年に4900万人(16.0%)とされていた無保険者は、昨年には2900万人(9.1%)まで減っています。
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