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小泉記者のボストン便り

医療・健康・介護のコラム

トランプ勝利で米国に激震! オバマケアはどうなるのか?

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共和党は反対

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オバマケアの廃止を訴えるトランプ氏(10月28日、ニューハンプシャー州で)

 しかし、トランプ氏は、オバマケアの廃止を繰り返し訴えていました。投開票日を目前に控えた10月28日。トランプ氏はニューハンプシャー州での集会で、「金のかかるオバマケアは、災難でしかない。制度を廃止し、別の仕組みに置き換えるために、我々は選挙に勝たなければいけない」と訴えかけました。

 米政府は24日に一部の人の保険料が、来年は平均で25%増えると発表したばかりで、トランプ氏の発言はこの発表を踏まえたものでした。保険にはいろいろな種類があり、雇用主を通じて保険を契約している人の保険料の値上がりは6%でしたが、この25%という数字は大きな衝撃をもって受け止められました。共和党はオバマケアが雇用主の費用負担を増加させ、中小企業の経営を圧迫するなどとして反対してきました。

 「保険料は上がり続け、安くて手に入れやすいもの(Affordable)ではない。今すぐやめるべきだ」。集会に参加していた同州の自営業の男性(58)は、そう力を込めました。男性の保険料は、オバマケアの導入前の月600ドル(約6万円)から、現在は月800ドル(約8万円)と3割以上も上がったといいます。

 どうして保険料は上昇するのでしょうか。米国では、日本のように公的保険だけではなく、民間保険も組み合わせることで皆保険制度を作ることを目指しました。病歴があっても保険に加入することを拒否できなくなった保険会社は、健康に不安を抱える人が増えたとして保険料を引き上げています。

 また、罰金(今年は所得の2.5%または、695ドル)が安いため、多くの健康な人が保険に加入する代わりに罰金を払うことを選んだことも保険料上昇の一因と考えられています。ボストンに住む女性(33)は、「今後保険料が上がり続けるなら、罰金を払ったほうがずっと安い」と話し、無保険のままです。

 一部の保険会社は「経営が圧迫されている」としてオバマケアの市場からの撤退を決めています。今後、市場が独占状態になり、保険会社の間の競争がなくなれば、保険料がより値上がりするのではないかとの懸念もあります。

 トランプ氏は、オバマケアを廃止した上で、保険会社の間の競争を促すことで、保険を安く手に入れやすいものにし、医療の質も高めていくとしています。しかし、どのような方法でそれを達成するのかは現状ではまだはっきりしません。

制度は骨抜きに? 見通せない今後

 オバマケアの導入に携わったハーバード大学公衆衛生大学院のジョン・マクドナウ教授は、「オバマケアによって保険に入ることができた2000万人の将来を含めて、制度の今後は見通せない。来年1月に彼が大統領になってすぐに大きな論争の対象になるだろう」と話します。

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オバマケアを含めた医療政策について研究している津川さん(津川さん提供)

 医療政策学者で同大公衆衛生大学院研究員である津川友介さんは、「上院で共和党が強行採決できる60議席を確保していないため、トランプは民主党議員の協力なしにはオバマケアを全面的に撤廃することはできない。しかし、制度を変更することはできるので、それによってオバマケアは骨抜きにされる可能性が高い」と話します。

 今回の選挙で共和党は上院の100議席中、現状で51議席を占めています。共和党だけで強行採決するのに必要な3分の2には達していないため、オバマケアを全面的に撤廃するのは難しい状況だといいます。しかし、過半数があれば「財政調整」という手法を用いることで、既存の法律のうち歳入と歳出に関する部分に限って変更を加えることは可能です。実際、昨年には、オバマケアの個人加入義務や、保険に入りやすくするための公的な補助を打ち切る財政調整の法案が上下院で可決され、オバマ大統領が拒否権を発動する事態になりました。津川さんは、「今後同じことが起これば、トランプは承認するだろう。そうなれば、保険の加入義務や補助はなくなり、国民皆保険は事実上、達成が不可能になる」と話します。

 少子高齢化が進む中で日本でも、医療費削減や、保険の自己負担割合を上げることなどが議論されています。どの国にとっても、無駄を減らしながら質の高い医療を受けられる体制をどのように作るのかは大きな問題で、オバマケアの行方は決して人ごとではないと思います。今後、アメリカの医療・健康政策がどのように変わるのか、注視したいと思います。

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koizumi

小泉 朋子(こいずみ・ともこ)
2003年読売新聞東京本社入社。金沢支局、編成部を経て、2009年から社会部。10年から厚労省担当となり、生活保護受給者の増加の背景を探る「連載・生活保護」や認知症の人を取り巻く状況を取り上げた「認知症」などの連載を担当。13年から司法クラブで東京地・高裁、最高裁を取材し、「認知症と賠償 最高裁判決へ」「隔離の後に ハンセン病の20年」の連載など担当。2016年7月からハーバード大学公衆衛生大学院に研究員として留学中。

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